紙芝居ゲーのひとつの到達点。演出は本作ならではの仕様でさすがの一言。ストーリーはもう少し手が入っていればと思うところがあるものの、設定の緻密さと構成の妙もあり満足度は高い。多少のグロ要素に目を瞑れるならば文句なく勧められる作品。
NITRO+さんは3作目のプレイとなりました、本作は『凍京NECRO』。
時代の流れか、NITRO+さんもNITRO ORIGINと美少女ゲームラインの名前を改めましたが、本レビューではとりあえずゲーム内表記にてブランド呼称を統一させていただきます。
肝心の感想ですが…とても楽しかったです(小並感)。
褒めるところはたくさんあるのですが、なによりはまず演出。一般的に言われる『紙芝居ゲー』とは一線を画す本作は正にNITRO+といったところ。世界観の構築にも気が配られており、没入度は終始高かった。
ストーリーは死生観に触れ人間賛歌へと着地するのですが、キャラが生き生きと描かれていてちゃんと説得力を持たせることが出来ていたのは評価されるべきでしょう。
反面、わかりづらいUIやいくつかの疑問点が残るところ、特定イベントの見せ方や持て余す設定などはイマイチ。
終盤にかけ誤字脱字が多すぎたのも残念でしたが、諸々を差し引いても十分に満足させてくれた作品でした。
・構成と世界観設定について
本作は、AIが最良の未来への可能性を探るために「とある地点」からの過去及び未来を何度も演算し直す過程を追うという全体構成。視点のザッピングや選択肢含めストーリー上の仕掛けとしては十分納得いくもので、まずまず良く出来ている。
…のだけれども、ならではの難点がひとつ。それはゲーム内での時系列の把握が難しいこと。
ストーリー内では頻繁に視点がスライドし、また「とある地点よりどれだけ時間が離れている出来事か」しか明確な時間表記が無い。更にタイマーが本当の意味で何を意味しているのかはゲーム終盤まで来ないと理解できないため、場面と場面の時間経過が直感的に把握しづらい。
風景からは細かい時間や時節(あるのか?)は予測できないので、『2199年の凍京』という時間経過を大切にするのなら大きな場面では別途日付時間表記を出した方がよりドラマチックだったんじゃないかと思います。
選択肢については一ヵ所(厳密には二か所ですが)にしたことに賛否あるようですが、個人的には良く出来ていたという感想。
このお話はあくまで早雲とエチカのための物語であると考えれば、エクスブレインを通して第三者視点で物語に介入するという気遣いは本作にとっては正に最適。少し好意的な解釈にもなるかもしれませんが、少しの歯車の狂いで生きも死にもするんだよという暗喩としても、このたった一ヵ所の選択肢は物語において印象深く機能していたんじゃないでしょうか。
世界観として、『2199年の凍京』という舞台設定そのものは良く出来ていたと思います。
発想の割に作り込みが細かい。世界観の構築には十二分に手が入っていて作品世界への没入は丁寧。
戦闘及びストーリー演出に特に目が行きがちですが、それを下支えする土台がいかに重要なのかを見せつけてくれた作品でもありました。
・ストーリーについて
最愛の人と一緒に過ごす未来のために奔走するAIのお話…というのが本質の部分でしょうか。最終的にそこへ帰結するのですが、個人的には早雲とエチカの分岐から見る「それまでのお話」の方が強く印象に残りました。
それぞれの分岐において、必ず誰かが死んでしまうIFストーリー。その中でも特筆すべきは主人公が二人とも死んでしまう展開。おそらく、本作の設定を最も活かす展開なのではないかと思います。
自分が死んでいるのだと気づいた後に取る二人の行動が対照的で、スッと胸に刺さったのはエチカの言葉。「未来は生きているもののためにあるんだ」…死んだらそこで終わりというのは当たり前の話なのですが、リビングデッドという半死人の視点に立つと一味違った説得力を生みます。
また蜜魅ルートにおいて鉾康が改心した場面、「生きている間に気づかなきゃダメなんだ」と鉾康に言い放つエチカ。死から見る『生きるということ』を説く描写は本作ならではの表現方法で屈指のストロングポイント。特に彼女が言うからこそ強く響くのでしょう。
物語は死生観から生きることの素晴らしさを描く人間賛歌へと繋がっていくわけですが、説教臭くならないのはちゃんと展開に説得力を持たせているから。
キャラクターを死なせるというのは本来飛び道具的な表現手法ですが、そこを軸にしたストーリー立て及びキャラクターの描き方はまずまず良く出来ていたと評して間違いないと思います。
ところで。。。イリアルートが正史ということは蜜魅はどうあがいてもレ〇プされているということに…早雲もイリアに取られちゃうし…みつみんに慈悲はないんですか!?
・ストーリー上の疑問点やイマイチな部分について
お話の中で個人的に疑問が残ったのは2点。1つ目は事務所のセキュリティがダウンした原因。サブコンを匂わせたような気がしますが明言はされてなかった気もします。あれはなんだったんでしょうか?
2つ目は霧里の父親は誰なのかということ。久留島の独白から判明するのがエチカのことだとするとじゃあ霧里はいつ産んだ?ということに。仮にあれが霧里のことだとすれば外で子供を作ってきていたことになる訳で、なんとなく紫の行動原理から見るとちぐはぐな印象を受けます。このあたりは本筋と絡まないので些末なことなのかもしれませんが、なんとなくしっくりこない感触が残りました。
「えっ!?」っと思わず声が出たのは鉾康関連。霧里ルートでのみ語られるエチカの出生の秘密は結構衝撃的。同性愛者というのは全く予想していなかったのですが、聞いた後になるほどと思わされたので良く出来てるなぁと。
ただ同性の遺伝子から子供を作るくだりはもう少し説明が欲しかった。100年以上先の未来では当たり前になっているのかもしれませんが、現代の我々の世界ではまだ一般化された技術ではないので、さらっと明かされたときは一瞬「どういうこと?」という疑問の方が先走ってしまった。あそこは間違いなく山場だったと思うので、もう少し配慮があれば。
また、『様々な勢力が入り乱れる凍京』とありながら対ミルグラムに終始してしまうのは勿体ない点。各都市の背景程度の変わり映えしかなかったのは、設定的には持て余している印象を受けました。このあたりは今後の展開を見越して、という狙いもあったのかもしれませんが。
一勝さんに関して、リビングデッドになって尚自我を保っていたことに特に理由がなく「一勝さんだから」に終始させてしまったのも個人的には不満点。物語的には一応エクスブレインのフラグではあったと思うのですが、『長くても数週間で自我が衰退する』という大本の基本ルールを無視する理由としてはいささか乱暴過ぎたように思います。
最後に残念ながら付記せざるを得ないのは、UIの不親切さと後半における誤字脱字の多さ。セーブ/ロードというユーザーが必ず使用するシステムを直感的に判別しづらくさせるのは間違いなくアンユーザーライク。後者においては量もさることながら、多分ここのキャラ名表記間違ってるよな。。。という箇所まであったりして明らかに校正が足りていなかったのはちょっとお粗末でした。
・キャラについて
ヒロイン勢ではダントツでみつみん推し。黒髪+ロング+ツンデレ+サムライ。。。もう好きになる要素しかない。このゲームは蜜魅ルートが正史です(現実逃避)。
男子勢では時堯が好きでした。ルートによって見せる顔が違うというのも彼の人となりを良く表していると思います。特に、推し展開である二人死亡ルートでの彼は本当に恰好よかった。
CVがドンピシャだったのも良点。脇に至るまでイメージとブレが無く、演技力も相まってディレクションは完璧に近いんじゃないでしょうか。
主人公についても軽く触れておきたいと思います。静の早雲・動のエチカという対比関係も多い二人。最初はヒーローとヒロインのコンビかと思いきやツインヒーローという意外性は、多様性という含みもあって面白い試みだったように思います。
実は兄妹だったりするわけですが、そこがエチカの強さの説得力に絡んでいるのは上手いところ。というか武雪と鉾康の子供って早雲よりもポテンシャルの塊のような…。
と、このあたりは正史ルートでは明かされないし彼らもきっともう知る事は無いんですよね…各ルートを経るプレイヤーのみに明かされる裏真実という見せ方は理解しつつも、少しスッキリしない感じが残りました。まぁ真実を知ったところで彼らの関係性は変わらないのでしょうが。(というか軍病院でパーツを培養してるなら遺伝子云々とか調べないのかな…?とかも思ったり)
お話的にはやはり、自分の運命を知りつつもイリアの為に残された時間奔走する早雲…諦観を抱きつつも生きる者へとバトンを繋ぐために必死になったエチカ…またそれを見送った時堯の覚悟を含め、二人死亡ルートがやはり一番彼ららしく魅力的に映りました。
ということで、いつも以上に感想を垂れ流すレビューになりましたが、、、完璧とまでは言えないまでもトータルでは非常に満足度の高い作品でした。
NITRO+さんの作品では毎度言っている気がしますが、やはり演出面では群を抜いて突出しているメーカー。テキストで魅せるいわゆる紙芝居ゲームが主流の業界ですが、やはり目に見える映像で表現されると得られる説得力が違うなと思わされました。
もちろん従来の紙芝居ゲーには紙芝居ゲーの良さがあるのですが、本作は紛れもなくエロゲー表現の一つの到達点を見させられたように思います。
と、演出面のことばかりに気を取られますが、肝心のストーリーについてもしっかり作り込まれていて◎。お話の好き嫌いは各人の好みによるところでしょうが、細かく作り込まれた世界観は誰しもが褒めるところなのではないでしょうか。
NITRO+さんの作品はまたプレイしたいと思っているのですが、新作はコロナ禍以降どうなのでしょう?。。。冒頭ブランドネーム変更の話もあり、また業界としても確実に風当たりが増す中で閉めるメーカーさんも多く、、、今後の動向が気になるところ。
いつまでも名のあるエロゲメーカーの一角として作品を生み出し続けていっていただけたらと願うばかりです。