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KetTさんのシークレットゲーム -KILLER QUEEN-DEPTH EDITION-の長文感想

ユーザー
KetT
ゲーム
シークレットゲーム -KILLER QUEEN-DEPTH EDITION-
ブランド
FLAT
得点
72
参照数
58

一言コメント

いくつか気になるところがあり、素材を活かし切れていたかについては疑問が残る。ただ、クローズドサークルを扱う上で恐らく最も重要である点は外さずに描写し切れていたので作品としては十分に及第点。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

FLATさんの作品は初めてのプレイとなりました、本作は『シークレットゲーム』。
同ジャンルモノの中ではそこそこ知名度のある作品だそうで、プレイしてみて「なるほど、名に恥じないな」と思えるほどには良く出来ていた印象でした。
ただ残念ながら絶賛するには至らず。。。
惜しい点はいくつかありますが、最たる理由は「設定や素材を持て余していた」というところ。プレイ前に期待した要素に掠りもしなかったのはやはり評価↓。
反面キャラクター心理に特段の不自然さは無く、極限状態にいる彼らはよく描けていた。そここそがこのジャンルのキモではないかと思うので、諸々を差し引いても及第点は越えて来ていた作品という総評。


・ストーリーについて
とある施設に拉致された男女が巻き込まれるサバイバルゲーム。完全閉鎖環境にぶち込まれるのでミステリー区分としてはクローズドサークルのお話。
本作で褒めるべきは心情描写の自然さ。どうしようもない状態に置かれた心理は究極推して測るしかないものの際立った不自然さは無く、また多少の強引さはあれどライターの都合が見え隠れすることが無かったのは◎。
私見とはなりますが、こうした登場人物の心理を真に迫って描けるかがこのジャンルにおける最大の重点なのだと思います。登場人物にシンクロできるかどうか。プレイヤーに噓くさく思わせない気配りがなされているかどうか。登場人物と同じような緊迫感を抱かせられるかどうかが正に良作との分岐点であり、その意味では本作は本当に良く出来ていた。
ただ惜しいと感じるところが多々あって・・・というのは次項で。


・今一歩な点について
いくつかあるのでまとめて列記します。
あくまで私的な感想ですのであしからず。

 ①PDA『ジョーカー』の使い道
本作で正しくジョーカー的要素となるPDA『ジョーカー』の存在。その気になればいくらでもお話を引っ掻き回せるブツであるのにもかかわらず、本筋にほぼ関わってこないのは×。
存在することに意味があるというのは理解しつつも、ジョーカーを駆使した頭脳的駆け引きが皆無というのは肩透かし。設定的には完全に持て余していた。
 ➁ストーリーを別建てにしたこと
本作はいわゆる一般的なルート分岐とは違う構成。共通ルートから個別へ派生するタイプではなく完全な独立型ストーリー。それ故に物語上の各ルートストーリーをどう受け取ればいいのかは少し戸惑った。
物語のある地点で選択を迫られるならどのルートも本筋でそれぞれ選択の結果という印象を受けるけれど、頭から同じように繰り返すとなると「果たして前のルートのお話は何だったのか」という疑問が少なからず持ち上がる。また、ループすること自体に意味を持たせたメタ視点の作品なのかとも疑ってしまい、途中お話に集中できなかった。
別建てにした割には配布されるPDAが固定で、誰が何番かの推理的な楽しみが1周目に限られてしまっていたのも残念。
 ③キャラクター構成とシチュエーション
本作は割と直情型のキャラクターばかりで、頭脳派キャラが存在せず。。。追い込まれて覚悟を決めちゃうキャラばかりで、唯一頭が回りそうな手塚も頭脳戦とは無縁。ジョーカーが効率的に使われていないということにもつながりますが、この設定で策士キャラがいないのは勿体ない。
またエロシチュエーションにも言える事ですが、身体を要求して見逃すor見逃してもらうといった取引が無いのも残念。そういう人間の汚さや醜さは意識して遠ざけた感じがあり、「エロゲーとしてこのシチュエーションだからできること」からは意図して目を背けた印象を受けた。
 ④状況描写が冗長でくどい
作品を通して俯瞰視点のゲーム進行なのでしょうがない部分はあるにせよ、説明が丁寧すぎる。緊迫したシーンの連続で緊張感が最大のウリであるテーマの作品なので、もっと会話劇とテンポを重視した方が良かった。

と、4点に分けましたが、つまるところ「魅力的な設定を活かしきれていない」ということ。
多少のご都合展開には目を瞑るにしても、『デスゲーム』と聞いて上がったハードルは越えきれていなかった。


・キャラについて
麗佳ちゃん推しです!金髪ツンデレが嫌いなエロゲーマーがいるだろうか?いやいない(反語)。
お話的にはやはり渚が中心にいるのでしょう。彼女のストーリーは王道にのっとったもので、人気が高いのも納得のいく内容。またどのルートを進んでも彼女は本当の意味で「常に救われている」というのも印象的。総一に対するヒロインが咲実なら、本ゲームに対するヒロインは正しく渚なのだと思います。
で、肝心の主人公総一くんですが、賛否別れそうですね。
個人的には、学生であること・数か月という短いスパンに恋人を亡くしているということを加味すればあの性格付けも許容の範疇。撃てないことを優しさと取るか意気地なしと取るかは、ユーザー毎に解釈が異なるのかもしれません。
メインヒロイン咲実に関しては、実は私の中でも人気は低かったのですが(ごめんなさい)、、、ラストの総一への説教は本作屈指の名シーン。今まで各ルートで見てきたあれやこれやの集大成的なやりとりであり、特に亡くなった幼馴染と全く同じことを言い放つシーンは震えるほど良かった。
ところで、文香さんルートはどこに…?


ということで、描写に優れクローズドサークルとしては良く出来ているけど、サバイバルデスゲームとしてはもう一声二声…というのが本作の率直な感想。
特に残念だったのはやっぱり策士がいなかったこと。多分、そういったキャラを出していたら私が挙げた不満点はほぼ解消されていたのではないかと思います。
エロについてももっと凄惨だったり人間の醜いやり取りが欲しかった。画が拙いのは最悪仕方ないにしても、せめてシチュエーションで魅せる努力はしてもらいたい。エロゲーなんだから。
1+2パックで購入したので、2の方も遠からず手を付けると思いますが、、、2の方では不満が解消されることを望んでいます。