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KetTさんの装甲悪鬼村正の長文感想

ユーザー
KetT
ゲーム
装甲悪鬼村正
ブランド
NitroPlus
得点
83
参照数
732

一言コメント

ここで評価されてるよりは・・・という印象。高い評価点を見て期待しすぎたかもしれない。良い面もあるが悪い面も目立つ作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

言わずと知れたエロゲ界では超有名なゲーム。
発売からしばらくたってその高い評価を見てプレイしたので、ハードルを上げすぎた部分もあるかもしれない。良く出来ているゲームだが総じて90点は越えなかった。
ストーリーは視点を多岐に広げているもののいい意味で無駄のない感じに良くまとまっていて、あらゆるテキストの節々が結末に向かっていい緊張感と張りを与えてくれる。
が、長い上に語り口が冗長。ここで篩にかけられている印象がある。とっつきづらくプレイしては離れてを繰り返し、総プレイ期間はかなり長いものになった。ただ、堪えてプレイするだけの価値はあったと思う。特にシステム面は一見の価値ありだった。
それでも、、、諸々考えると個人的には気軽に人におススメできる作品ではないかなと。悪い意味でかなり疲れる作品。


・ストーリーについて
とにかく語り口がとっつきにくい。実際序盤ちょっとプレイして数か月離れたほど。しかも物語がかなり長いのでそれも悪い方向に働く。すぐおなか一杯になり投げた人もそれなりに多いのでは。
ここは狙いなのだろうけど私もそのあおりを食った側なので、面白く感じるまではかなりしんどかった。
と、いきなりデカいマイナス評価から入りましたが、このマイナス印象は結局中盤くらいまでは引っ張ったしかなりウェイトが重いのでやはり最初に書かかざるをえないかなと。
お話の内容は不慮の呪いを背負った青年の物語・・・ですが、その特殊性からありふれた感じはしなかったです。善悪相殺、悪人を斬らば善人をも切らざるを得ない、という定められたルール。最初はただ主人公・景明の善悪無く目的の為ならためらわず殺す殺人鬼のような人間性を表したワードなのかと思ってました。
・・・が!人知れず悩み苦悩しながらもそうせざるを得ない景明の人柄がプレイを進めるごとに段々と見えてきます。この辺は構成の妙というか、見せ方は良かったですね。終始苦悩し続け抗い続けそれでも抗えず受け入れていく景明の人となりは良く描けてたように思います。
ことのはじまり、村正との出会いの前からしっかりと描かれていたので、その変わりようが過不足なく描写されています。物語終盤と比べると、実は芯は変わらないものの表の人柄にはかなり振り幅がありますね。一見丁寧すぎないか?とも思えるのですが、逆に物語に深みを出すのには成功していたように思います。
キャラクターも余すことなく使い切っていたのも好印象でした。序盤のキャラが終盤でいい感じの役割を与えられていたりその存在にこそ意味があったり。。。という、いわゆる使い捨てになってるキャラがいなかったのは賞賛するべきところですね。
さて、物語は銀星号との戦いが筋なわけですが・・・結末は実は結構早い段階で予想がつきました。
江の島くらいでかな?本当は光は景明の〇〇なんじゃないか?とか悪人を殺すと善人を殺さなければならないならその逆も当然あるよな・・・とか。ちょうどモノローグもしっかり入ってくる頃ですし、思わせぶりな演出に引っ掛かりが強く悪い意味で予想が先行してしまった。
ですので、銀星号との決着は予想の範疇でした・・・。ああやっぱりそうなるよな、、、という感想が強かったのは個人的に残念に感じたポイント。あそこは紛れもなく一つの山であったと思うので、もっと素直にやればよかったなと。
そんな個人的な事情がありはしましたが、ストーリーに無駄と感じる部分は無く、景明の過去や村正の過去もしっかり描かれ疑問が残ることもない上、本筋がブレることもなかったので総じて印象の良いものではありました。ただまぁ終わったからこそ感じることではありますね。
理不尽にも思える空中戦やパズルなどストーリー外でストレスに感じる部分はありましたが、お話全体は良く出来ているという評価を出して間違いはないと思います。

・システムや演出について
システム面は見事の一言。
まずテキストボックス。普段は画面下部にあるゲームに慣れ親しんでいましたが、こう上手く使うものかと。こうやって世界観を出すあるいは邪魔をしないやり方があるんだなと、決して斬新で誰もが発想しなかったアイディアではないでしょうけどもその使い方の上手さには舌を巻いた。
戦闘などの演出も素晴らしいですね。プログラミング技術と発想力の高さが伺えます。
演出全般はとても良く出来ていて没入感に一役買っている。演出力の高さが投げ出し防止に働いている部分もあった。
好感度システムも面白い、ってかあれは引っ掛かりますね。これもこんな使い方をしてくる作品は初めてだった。
主人公のことをよく理解した上でないと選べない選択で、お話の理解度がシステムに絡むこの辺の仕掛けの巧みさは特筆すべきだと感じます。
半面、ストーリー上での演出では「?」と思える部分はいくつか見られた。前述のとおりストレスにしかならない一発アウトの空中戦や探索要素、終盤のパズルなど。本当に必要だったのかプレイ後の今でも疑問に思う。この辺はマイナス要素でした。緊張感ある戦闘で何度もやり直すのはね。。。一発でクリアさせる作り方でもなかったし・・・。

・キャラについて
皆ちゃんとストーリー本筋に関わる役割を持たせていたのは好印象だった。当たり前のように聞こえるけれど、意外とその辺雑なゲームは多い。あいつなんでいたの?とかその他大勢扱いで退場したりとか。
本作ではそれがなく、立ち画が与えられているキャラはちゃんと独立して地に立っていた。考え方や思惑、信念や人となりがしっかり描かれていて誰一人欠けても物語が成り立たなくなる・・・というと大げさだけれど、バランスよく収まるように描写されていてこの辺の調整力構成力はかなり高いものがあると感じた。
個人的には湊斗ママが良かったですね。
武というものの私なりの解釈はまさに湊斗ママの信念にこそ共感できたので、最終的に景明が光の論理に落ち着いてしまったのは残念に思ったくらい。劇中雪車町のセリフではないけれど、しっかりと信念あり受け止め真剣に生きているキャラはやっぱり魅力的だなと当たり前のことを当たり前のように感じさせてくれた作品だった。


と、言いたいことを書いていったら結構な量になりましたね・・・。
かなり褒める部分がある感想となりましたが、冒頭述べたようにマイナス面も大きく、事前に上げてしまったハードルを越え切ったかは微妙なところ。
確かに内容は面白いしやって良かったとも思ううえ無駄なことはないストーリーなんだけど・・・やっぱりその独特の語り口もあり長くてダレる。悪い意味での疲労感が溜まり何度も離脱した身としては手放しに褒められる作品ではなかった。
人を選ぶというより、この疲労感はほとんどみんな感じるものじゃないですかね。かなり腰を据えないとやりきれない作品だと思うので、このとっつきづらさは評価を下げざるを得ないと思う。
あと、絶対評価で点数を付けるならもう少し高くなったかもしれない。相対評価として他作品と比べるように点数をつけているので低く抑えられてる部分はあるかと思います。
ニトロプラスさんはいつも革新的なアイディアで勝負している印象があるので、今後も面白いゲームを生み出し続けてくださることを期待します。