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Kaeru314さんの白昼夢の青写真の長文感想

ユーザー
Kaeru314
ゲーム
白昼夢の青写真
ブランド
Laplacian
得点
95
参照数
84

一言コメント

作品を構成する要素全てが一級品。ただ惜しい点も。(途中までネタバレなし)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

一旦良い所をまとめていきますが、私が白昼夢で何より評価しているのは面白さと読みやすさが両立できている点です。ギャルゲって面白い作品は多いんですが、普通の小説と比較すると文章や伏線の張り方に癖があるんですよね。それはそれでギャルゲの良さでもあるのですが、きちんとビジュアルノベルの強みを活かしつつ自然に読み進められる作品は地味に貴重だと思っています。シリアスに場違いな下ネタをしつこく突っ込んだりして雰囲気を壊す事もなかったですし。

それはさておき、Case1~3のシナリオはそれぞれが異なる文体、異なる世界観を用いて没入感をもたらしてくれました。どれも読んでいて本当に楽しかった。
Case0に関しては他に比べて好みが分かれるかと思いますが、私の場合はSF要素含めて充分に楽しめました。
回想が話のメインとなる事や伏線回収の流れが自然かつ緩やかな事もあり、確かに盛り上がりには若干欠けますが、この作品が重視している点はそこではありませんし、むしろCase0特有の良さと捉える事もできるでしょう。

そして各Caseのヒロインを演じる浅川悠さんの演技力は目を瞠るものがある上、何より使い分けが上手すぎる。どの声もそれぞれのキャラクターにピッタリで、違和感を欠片も感じさせませんでした。
キャラクターの個性やイラスト&音楽の美麗さに関しては言うまでもなく、UIもCase0の世界観に合っていて良かったと思います。オープニング曲はInto Grayと冷たい壁のむこうにが1番好きです。

そしてswitch版では18禁シーンが上手く全年齢向けに改変された事によって、ノイズが完全に消えています。
下でちょっとだけ言及しますが、PC版→Switch版で私の評価が上がっているのはこれが原因です。


~以後ネタバレ~








PC版、本編で感動の再会を果たして綺麗に終わって、さぁエピローグ見よう!でボタン押したら速攻盛り始めましたからね。
一応区切りはついてるのでそこまでは譲るにしても、Case1〜3の続きをピロートークのノリで決め始めるのは本当に意味がわからなかった。何を考えてあの流れにしたのか。
Switch版だと改善されていて安心しました。最初からそうしてくれ。

それと比較するならエピローグはCase1が一番良かったと思います。他2つが少し雑めな気がしたので。



☆遊馬の終盤の「もう強制はしない。2人に任せる」と言った理由
最後の最後にエゴを貫かなかった理由は作中で語られていないため完全に想像になってしまいますが、一度世凪と海斗から全てを奪っておいて結局手詰まりになってしまった事に対する絶望、そして変わり果ててしまった海斗(と世凪)を見て、目的を諦めるまでは行かないにしろ何かしら心境の変化があったのだと信じたいところです。遊馬は全てを犠牲にする覚悟があると言っていますが、作中の描写でもわかる通り決して心を捨てきっている訳ではないですし、本人も言っている通り海斗の事を息子のように想っていたのでしょうから。


★気になりポイント1
自分の先が長くないと理解している世凪が
『このまま、ただ自分が失われていく毎日を過ごすのはーー 海斗はやさしいからーー どんなわたしにも、やさしいからーー だから、辛いよ』
と発言する気持ちも、これまで積み上げてきた事を全うし人々を救うという結末も、充分に理解できるのです。

しかし、その行為を「今の私にできる唯一意味があること」と断じるのはどうしてもモヤっとしてしまいます。そして
『私の存在を、意味のあるものにするのを手伝ってよ』
と世凪に言わせるのは、そうしなければ世凪という存在が無意味だという風に聞こえてしまい(世凪は実際にそう思っているのだろうが)あまりにも残酷だと感じます。

筋は通っているんですが。なんかこう、もう少し描き方があったんじゃないか...?とも思ってしまう訳で。この展開を良い話だと手放しで褒めるのは抵抗があります。
最終的に「めがみさま」となった事で救われはしたのが不幸中の幸いですが。
(ちなみに作中では記憶が個性を形作るって結論が出てますし、世凪の作った世界で産まれためがみさまも世凪と同一人物でokな気がします。某ゲームだとスワンプマンがどうのとかいう話と似た議論になりそうですが…)



★気になりポイント2
もう一つ強いて言うならば、Case1~3とCase0の話の結びつきをもう少し強くできれば更に評価は上がったかなと。
(自分では具体的な改善案が思いつかないので、ただ言うだけの文句)


そのあたり違和感は残るものの、なんにせよ全体通してハイクオリティで、製作側の本気が見て取れる作品でした。
それはそうと、おまけシナリオの凛から有島への過去いじりが好きすぎる。