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KYさんのG線上の魔王の長文感想

ユーザー
KY
ゲーム
G線上の魔王
ブランド
あかべぇそふとつぅ
得点
94
参照数
1868

一言コメント

復讐の渦の中で、「純愛」を最後まで貫き通した物語。複雑な展開の中、芯の通ったテーマが明確に見えるのが素晴らしい ※後半にネタバレあり

長文感想

るーすぼーいの他の作品(特に良く比較される車輪)をプレイしていないので、余計な先入観を持たずに出来たのが良かった。
既に多くの方がレビューを書いているので、ちょっと変わった視点から書けたらいいなーと。


ハルがヒロインの小説、と言っても過言のない作品でした。
他のルートは途中で主人公が別の道を選んだ場合を番外編として書いた、くらいの認識で結構。
他ヒロインのルートに入るとそれまでの伏線や状況を一切無視した展開になり、フォローすらなかったので…

ただそれだけなら減点対象なんだけど、それでも個別ルートを評価できる理由は、各ヒロインごとに様々な愛の形について提示している点。
ライターはあえてそれを語るのに必要ないもの(=それまでの伏線)を一切無視して、そのルートのテーマに集中したかったんじゃないかな。

そして、それらがあるからこそハルルートのテーマ「純愛」により重みが出てるんじゃないでしょうか。
他のヒロインのルートは言わばフルコースの前菜のようなものなんじゃないかと(笑
とは言え、ルートに入って完全に話がすり替わる事を気にしなければ他のルートも中々の出来。
逆にハルルートを終わらせてから残りのifを楽しむというのも全然アリ。

ただ、同時にADVの限界を感じましたね。
「リトルバスターズ!」であれ「るいは智を呼ぶ」であれ、小説のように1つ大きな結末が存在するゲームは、どうしてもヒロインの間に格差が出てしまい、
逆にそれを回避しようとすると同じ展開(=ネタバレ)を各ルートで繰り返すこととなり、プレイヤーが退屈に感じてしまう。
これを克服するには設定の段階でどうにかするしかないけど、それが成功した作品って中々少ないんじゃないかと。


そしてもう一つの重要なテーマに「復讐」。
あまり詳しい事は書けませんが、「復讐」「愛」の2つについて各キャラクターを対比させてみるとより楽しめます。
2つとも散々使い回されたテーマだけど、良く絡み合っていて非常に考えさせられる内容でした。


叙述トリック、ミスリードを誘う文章、それらには見事騙された…
推理場面も多いので、自分なりの推理が出来るまでは話を進めない、という楽しみ方をしても面白いかも。
改めて考えると変な点もありますが、推理勝負の答え合わせの時点で明らかにこれはおかしい、と目に付く物は無かったんじゃないかな。
ハルルート後半の最大瞬間風速はかなりのもの。個人的にはラストが少しだけ納得いきませんが、まぁ合理性よりテーマを重視したという事で…

特筆すべきは男性サブキャラの素晴らしさ。
「男性サブキャラが光るゲームは良ゲー」という話を聞いた事がありますが、まさにその通りと思えるほど魔王と権三の生き様がカッコ良い!
日常パートも中々面白かったです。パロディもそこそこ入ってたかな。
せっかくだからもっとウケを狙う場面を増やしてもいいと思うのだけど…センスあるのに、少し自重しているように感じられて残念。

クラシック好きとしてはクラシックのアレンジはかなりテンションが上がったけど、
せめてタイトルの「G線上のアリア」と、「魔王」ぐらいは生演奏にして欲しかった(汗
せっかくの場面なのになんかチープな感じが…

頭の良すぎる人がやると推理の矛盾なんかを見つけてしまって逆に楽しめないのかもしれないな…
少なくとも僕のような凡人にとっては十分名作でした。




ここから先はネタバレ感想を。


--------------------------------以下ネタバレ感想・考察(雑記)----------------------------------

自己満な文章が多いので、チラ裏くらいの気持ちで(笑


上にも書いたように、書きたかったテーマってのが良く見えてくる作品でした。
まず「純愛」というテーマですが、ハルルート以外では恋愛感情に限らず家族愛ってのが大きかったですね。

2章では弟の純粋な家族愛が変わっていく椿姫の心を取り戻させ、
3章では歪んだ愛情を母を見捨てる事の出来ない花音の愛が打ち破り、
4章では復讐に燃える姉を水羽のひたむきな姉妹愛が押し留め、
5章では純愛が京介の心を溶かした。

真偽は定かになっていないけど、純粋悪の権化である権三が京介を救おうとしたのであれば、それもまた家族愛(家族…とは違う気もしますが)の成せる業じゃないかと。


そして、もう一つ裏のテーマとして「復讐」。
ハルは魔王に、魔王は権三に、ユキは父に、異常なまでの妄執を見せます。
ハルの純愛は京介の復讐心を押し留め、最終的に「復讐と憎悪の連鎖を断ち切ろうとした獣」は娘とその母親の愛情に救われる事となった。
逆に魔王は「いや、愛もまた…」と愛の存在を認識しながらも、最後まで復讐の道を外れる事は出来なかった。
純愛に救われた人間⇔復讐に囚われた人間の対比が印象的です。


泣かせようという魂胆が見え見えなゲームは確かに存在し、それが災いして
「最後に死んだり、奇跡の起こったりする話はそれだけで嫌だ」という人もいますね。
この「G線上の魔王」のラストも、現実性よりテーマを表現する事を重視した結果、ちょっと焦った展開だったかなーと。

ここまでテーマがどうだと言っておいて現実的な話なんですが、魔王を京介が撃つシーン。
京介は一旦空を仰いでいたこと、魔王が何を企んでいるのかを理解していたことから、冷静であった事は明らか。
そしてハルに手が届かない状態でハルを止めるには拳銃を撃つしかなかった。
しかし、京介は銃を魔王に当てるべく「連射」しています。
拳銃を扱ったことなどもちろん無いので、狙った場所に当てる難しさは分かりませんが、
どちらにせよ狙わずとも一発の銃声だけでハルが止まる可能性も高い筈。
わざわざ魔王に当てずとも&別に連射せずとも、ハルを止めることは出来た筈なんです。

それに加えて遠くから撃ったにも関わらず当たった弾が致命傷に。それだけなら偶然で済ませられるけど、
人体に弾が当たるとしても致命傷になる部分のほうが少ない筈なのに「やってしまった」的な言及が全くない事。
魔王をに弾を当てる事&死ぬ事が当然のように描写されていたことに作為を感じたかな…

ただ物語としては、魔王とハルの間に渦巻いていた「復讐と憎悪の連鎖」をハルの代わりに京介が断ち切り、その代償としてハルとの関係を失った、
しかし最後にハルとその娘の「純愛」がまた京介とハルを繋ぎ止めた─という展開が重要なので
ここはあまりグダグダと考えずに割り切れるかどうかにかかってるのかも(笑


長々と書いてしまった。
ここまで読んでくれた方に感謝!