印象は薄いが、雰囲気の良さだけで高評価に出来る不思議な作品。真の雰囲気ゲーってのはこういうのを言うのでしょう
中だるみする作品ってのは大抵「やっと終わった」みたいな印象を持つもんですが、
この作品は途中でかなり中だるみしたにも関わらず、いざ終わってみれば続きが見たいと思ってしまう不思議な魅力があります。
その理由はこの作品の雰囲気にあるんじゃないかと。
雰囲気ってのはシナリオだけでなく、絵、音楽など全てがマッチして初めて作られるもんだと思いますが、
この作品はそれら全てが高レベルでなおかつお嬢様学校という雰囲気に合ってる。
キャラがもっとデフォルメされていたらお嬢様というイメージはあまり湧かなかっただろうし、
シナリオ以外の部分がどれほど評価に関わってくるかを改めて考えさせられる作品です。
その代わり突っ込み所も多々あるのは事実。
本校系ルートと分校系ルートで大分主人公の性格やその他色々な設定の違いがある事については
ライターが違うという事もあるし、それによる違和感を無くすために序盤にハッキリ分岐させるため気にならないのだけど、
同じライターの話の中で設定の違いがあったりするのが少し目に付いたり。具体的にどこ、と言われるともうあまり覚えていないですが…
また、とあるヒロインのシナリオがあたかも打ち切りのような終わり方をしていた事とか。
多数の問題を軸にどんどん話を膨らませていって、これからどう展開していくのかと期待していたところでいきなり流れるスタッフロール。
まぁその時点ですでにかなり長くなっていたのだけど、どうも序盤引っ張りすぎてペース配分を間違えた感が…
これ以外にも、話が色んな方向に行って流れが分からない部分があったり、主人公が鈍感でヒロインの気持ちに気付かないパターンがやけに長かったり多かったり。
…しかし、それらも全て終わってしまうと「いい話だった、続きが見たい」となってしまうのだから不思議。
先に書いたようにこの作品は序盤に本校系と分校系で分岐するようになっており、それぞれライターも違います。
そこまで極端ではないでけど本校系がシリアス重視、分校系がキャラ萌え重視になっているような印象。
他の方のレビューを見る限り本校系の評価が高いようだけど、ベクトルの違いもあるので単純に分校系が劣化という訳ではないかな。
※本校系シナリオ※
こちらでは主人公の作る心の壁と、ヒロイン視点からの語りを効果的に使ったヒロインの心理描写が主な内容。
・風祭みやびルート
主な本筋はみやびの成長と主人公の過去について。最初は完全にヒール扱いだったみやびが柔らかくなっていく過程が良い感じ。
キャラの特徴と声も相まって、デレた時の甘えが凄いのがこのキャラ。デレる時期もかなり早めで、人気投票2位なのも頷けます。
主人公の過去についてはほぼ全ルートで触れていますが、一番深く掘り下げていったのはこのルートかと。
リーダさんが可愛いのだけど彼女のルートやシーンは一切無し。
Hシーン枠は1つ。
・鷹月殿子ルート
本筋は家族愛⇒恋愛、親との対立…なのだけど、このルートが先に挙げたペース配分ミスシナリオ。
エピローグで完全に投げやりな回収がされちゃったりしてます。
ただ、それでも別に不快になる事もなく、展開とヒロインの性格もあって一番爽やかなシナリオだったかな。
たまーに甘えてくるのが良い。ただ声がどんな場面でも合うというような声質ではないので少し聞き苦しい所があったりもする…
Hシーン枠は1つ。あるべくして配置された良シーンだったかと。
・八乙女梓乃ルート
本筋はやはり対人恐怖症の克服、それと主人公の過去。このルートの序盤は梓乃より殿子が可愛い…
一番心理描写が丁寧なのはこのルートではないでしょうか。対人恐怖症の克服がメインなだけあって、しっかり描かれてます。
恥ずかしがる様子がとても可愛い。シナリオも起伏があってしっかり纏まっていたと思います。
ヒロイン視点の語りが一番上手く使われていたのもこのルートかな。
Hシーン枠は2つ。
※分校系シナリオ※
こちらは付き合ってからが長く、それから問題が発生したりする場合が多い。
・仁礼栖香ルート
なんでこんなゲームに「淫乱へと堕ちていく…」POVが入ってるのかと思えば大体こいつのせい。
とはいえ抜きゲーのようなあからさまなエロさではなく、あくまでヒロインの魅力を引き立たせる設定としてのエロさだったのが良い感じ。
「真面目な委員長キャラがエッチな事を覚えたらこうなる!」という男共の妄想を忠実に再現したキャラですね。
中盤~ラスト前は男女の爛れた性生活がひたすら描かれます。
一応両親との不和という大筋がシナリオ全体の根底にあるのだけど、展開はひどくあっさりしたもので、やはり先に書いた内容がメインに思えてならない…
シーン枠は脅威の8、なんと全体の4割。「エロシーン」のPOVの大体は彼女が握ってます(笑
ただ、同じ絵の使いまわしが多いのは気になる人にはなるんじゃないかと。
・相沢美綺ルート
大筋はあるメインヒロインとの関係、友情発恋愛行き、そしてこの学院の秘密。「友情」の尺も長く、軽い気分で進められるシナリオだったかな。
あるメインヒロインと同じ出来事が発生し、それを逆の立場から見たら…というようなシナリオ。
このキャラもシーン数は6、全体の3割とかなり多い数。
・榛葉邑那ルート
一番シナリオの作り込みに感心したルート。
大筋は巨大な財と権力を持つグループ同士の攻防・興亡なのだけど、専門の知識がないと書けないであろう内容が盛り込まれています。
とはいえ自分は流れを理解するので精一杯でしたが…
これがもしライターが片手間に得た知識で書いたものでないとすれば、素人の感想ですが普通に書店で並んでいてもいい出来なんじゃないかと。
特に作中に出てくる「物事は別に視点から見ると全く違って見える」という言葉を基にしたラストの展開が面白い。
他のシナリオで主軸になるネタバレを軽々としてしまったりするので、特に分校系では最後にやったほうがいいのかも。
シーン枠は2。
全キャラ攻略した後の仕掛け・展開も、少し狙った感を感じつつも不覚にも感動。
…長々と書きましたが高評価なだけはある作品。
ただ、やはり尺が長いので、時間に余裕のある時にどうぞ。