無茶な導入、ちぐはぐな個別、そしてトゥルーの超展開。前作と似た作風にも関わらずあまりに酷い完成度、一体全体どうしてこうなった…
前作「涼風のメルト」で高評価を得たwhirlpoolの新作、吸血鬼をテーマにした物語。
トゥルーシナリオがあり、人間ではない種族が登場し、過去編とまでは行かずとも過去の出来事が深く関わってくる…等々
大まかな作風・構成は前作に似ているのだけど…その完成度は本当にどうしてこうなった。
突っ込みたい所は多々あるのですが、１つずつ挙げていくと
①導入の無茶なハーレム展開
物語は吸血鬼シルヴィアの来訪をきっかけに、ヒロイン達が次々と主人公の彼女候補に名乗りを上げるところから始まります。
幼馴染から妹に至るまで次々と主人公争奪戦に参加する事にも違和感はありますが、まぁそれは別段珍しい展開でもないので置いておくとしても
それじゃあ皆の事を考えて１日１人ずつデートしていこう、などと真面目に話し合いを始めるのは見ていてどうにもサムい。
ハーレム状態になっているだけならまだしもそれを理論的に解決しよう、というのはちょっと現実の感覚とかけ離れてて寒々しさを感じますね…
それ以前の問題として、ライターの力が未熟というのも寒さに拍車をかけています。
説明口調が多かったり、主人公の独白が長かったり、ちょっとした出来事を大げさに描いたり…
ハーレムというさじ加減の難しい状態、吸血鬼とそれを監視する教会の組織なんてただでさえ厨二臭いテーマなどの
言わば「ぶっとんだ設定」にプレイヤーを受け入れさせる努力も足りず、結果として一歩離れた所から物語を眺めているような感覚を終始味わいました。
②謎を引っ張りすぎて盛り上がらない個別
吸血鬼やら教会やらこの作品ならではの設定が色々ある訳ですが、そういったものに対して
そのほとんどに説明がされないまま話が進むため、個別は常にハテナマークを浮かべたまま話を進めることになります。
そりゃ謎をある程度残して最後に明かすというのはよくある事ですが、それにしたって説明が足りなさすぎ＆明かすのが遅すぎ。
それに加え、ほとんどの個別で「教会の強硬派」とやらが各ルートの障害となるのですが
その強硬派に所属する人物がほぼ全くと言っていいほど出てこず、登場人物の言葉の上でしか現れないため
「よく分からないけど邪魔してくる敵」というような漠然なイメージしか抱けないまま敵対する事になります。
全く画面に出てこないものが邪魔してきて、出てこないまま解決してハッピーエンド！と言われても実感が湧かないのは当然でしょう。
③トゥルーの超展開
これだけはもうフォローしようがない程に酷い。
それまで殆ど出てこなかった真ヒロインが突如として幅をきかせ始め、全く掘り下げてこなかった吸血鬼の発祥などが語られ始め
そうこうする内に悪の化身みたいな敵が登場し、いきなり異世界に飛んで軽くバトルして勝ってめでたしめでたし。
…もう何がなんだか、その場で思いついたかのような設定の連発で全くついていけず…
前作にも終盤にバトル展開がありましたが、それまでの設定の積み重ねがあったから突然のバトルにも付いていけるのであって
今作はトゥルーでいきなり新しい設定を語りはじめ、それを元にバトルを始めるもんだから完全に置いてけぼりです。
主人公も大概ダメな部類に入ります。
ハーレム状態の時の独白も大概サムいですが、何より軽率な行動をしようとしすぎ＆不慮の事態でキレすぎ＆周りに当たり散らし過ぎ。
そりゃ多少はキレたほうが年相応という感じがしていいじゃないかとも思いますが、さすがに頻度が高すぎかなと。
主人公の父親も制作者の都合のいいように「動かされている」感がアリアリ。
教会と深く関わっているかと思えば敵対したり、都合のいいところで登場する割に主人公には何も教えてくれなかったり…
その場その場で話を動かしやすいように立ち位置を変えさせられている感じがしてイマイチ好きになれませんね。
それじゃ萌えに関してはどうかというと、イチャラブパートも少なく、Ｈシーンも本編２回＋おまけ１回で計３回と数はありますが濃くもなく。
日常パートの端々でヒロインに魅力を感じる事はありますが、やはりイチャラブが少ないためそれ目当てという訳にもいかず…
こちらも特筆する程の事はない出来となっています。
…という訳で、最初のハーレム展開で萎えさせられ、個別もしばしば茶番にしか思えないような展開が続き
トゥルーで完全に置いてけぼりにされるという、個人的には１つも楽しむ事が出来なかった作品でした。
絵は文句無しに素晴らしいのでそこだけは評価できますが…
体験版をプレイしてノリやテキストに寒さを感じたなら回避する事を強くお勧めします。