多くの人はこれを「盛り上がらない」とか「起伏がない」と評するでしょう。しかし、PULLTOPらしい優しい世界観と牧歌的な雰囲気がツボって人もまた多いんじゃないでしょうか
賑やかなドタバタ劇が売りだった前作とは打って変わって終始のんびりとしたテンポで進んで行く作品。
ドタバタのドの字もない落ち着いた進行と、あえて起伏を抑えているかのような展開に
多くの人が「盛り上がらない」とか「起伏がない」とか、そういう感想を抱くだろうと感じたのは事実。
しかし、猫庭街と王国の関係を中心とした住民たちとの繋がりなどPULLTOPらしい「優しい雰囲気」は健在で
それを求めてプレイした人はなかなか満足できる出来になっているんじゃないかと思います。
シリアスも重くならないよう控えめに描いているなどある意味「雰囲気ゲー」を突きつめた一品と言えるでしょう。
言ってしまえばシナリオは二の次で、雰囲気と純愛らしさのよく出た恋愛パートが見所の作品。
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「PULLTOPらしい」と評した雰囲気を創り上げているものの1つが猫庭という街の存在。
立ち絵こそ出てきませんが名前付きの住人も多く登場し、彼らと交流する場面もたびたび描かれるため
過去作で言えば「ゆのはな町」のような温かみを感じさせる街となっています。
加えて、共通から個別に至るまで「悪意」を徹底的に排除したシナリオ。
PULLTOPの作る物語は基本的に敵役のような人物が出てこないのが大きな特徴で、シリアスの内容にしても
ヒロイン同士のすれ違いだったり、ヒロインの止むを得ない事情だったり、もしくは自然現象だったりと
とにかく「悪意」が介在しないよう配慮した展開になっています。
単に不快をもたらすだけのキャラは出てこない、というのはPULLTOP作品の良さの1つだと思いますね。
…ただ前作「恋神」に限っては若干そういった展開もあったので個人的にはらしくないなと感じたりもしましたが。
そして過去作とは違うところで雰囲気作りに一役買っているのがテキスト。
句読点を多用して文章を細かく区切る、所々で詩的な言い回しをする、などなどちょっと変わった文体となっています。
ヒロインに幼馴染が多い事もあってか言葉の真意を測ったり先読みしたりなどの「頭の良い会話」が多いのも○。
まぁ百聞は一見にしかずという事で、この辺りは体験版をプレイして貰えればお分かり頂けるかと…
ここ2作ほど連続して担当しているEXELIONのBGMも素晴らしい。
主題歌「Anthem for Kingdom」がロックとオーケストラと聖歌を足して割ったような(?)曲調で独特の浮遊感のある良曲なんですが、
そのメロディーをアレンジしたBGMが流れるのがまたポイント高いです。個人的にこういうの好きなんで(笑
ED「夏の足あと」も最近プレイした作品の中では一番耳に残るED曲でした。
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共通は少し短めで、希の転入など細かいイベントはあれど大きな起伏もなくヒロイン達やサブキャラとのテンポの良い会話が続きます。
やはりテキストや会話のノリが好きかどうかで作品の評価が大きく変わってくると思うので、ここが退屈だと始終つまらないかな…
ヒロイン達は個別に入るまで主人公に好意を持つことはないのであからさまな萌え描写などはありませんが
各々の性格を生かした魅力が表れている場面は多く、萌えるというか「可愛い」と感じるような描写が多いですね。
特に共通の全編に渡って描かれる瑠波との生活はその独特な関係もあってなかなか新鮮でした。
普段の凛とした立ち振る舞いと家でのだだっ子モードのギャップなど、このキャラならではの魅力はむしろ共通のほうがよく出てるんじゃないかな。
時代がかった小難しい言いまわしも他のお姫様キャラにはなかなかない特徴ですね。
主人公は、操の「手が届くところで世界が収まっている感じ」という評がまさにぴったり当てはまるような人物で
家事万能でよく気が利き頭の回転も早く、常に冷静沈着で声を荒げるような場面は一切ないという完璧人間でありながら
まるで母親の如く瑠波を一人にさせる事に過度に心配を見せたり、恋愛に関してはかなり悩んだりするなど人間味のある良主人公でした。
この主人公が嫌いって人は中々いないんじゃないかなと。
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個別は結ばれるまで~イチャラブを描いた恋愛パートが先に入り、その後にシリアスが入るような形となっています。
恋愛パートはライターによって多少の違いはあれど、主人公・ヒロイン互いの心情を丁寧に描写するのが特徴で、
希ルートに至ってはお互いの気持ちをわざわざ言葉に出して確認し合うなんてこっ恥ずかしい展開もあったり。
個別に入っていきなり付き合い始めるという事もなく、(きっかけは変なのも多いですが)きちんと過程を描いた上で結ばれるのが良かった。
イチャラブも萌え描写より「純愛」であるという事を前面に押し出しているように感じました。
Hシーンにさいろーがサブとして参加しているせいで、澪里(と瑠波も?)のHシーンだけ異常に濃いという現象が起こっています(笑
とはいえ、さすがに今作では卑語など若干控えめにしているような印象を受けましたが…。
数も一人2回とかなり少なめ。さいろーがいると言えどエロには期待しないほうが良いでしょうね。
シリアスの内容はヒロインが自分の将来について悩むという(悪い意味でない)平凡なパターンが多いですね。
内容的にはそこそこシリアスなルートもあるのだけど、絶対に重い空気にさせない辺りに雰囲気作りの徹底ぶりを感じます。
ただそのせいで起伏がなだらかになってしまい、盛り上がらないのはともかくあまり印象に残らなくなってしまっているのは確か。
個別の中でも特筆すべきは操ルートでしょう。
ただでさえ起伏の少ないこの作品の中で一番盛り上がりも何もあったもんじゃないルートですが、
なんにもない分だけ「友情発恋愛行き」の過程が非常に丁寧に描かれており、イチャラブも甘々で
「ゆのはな」のわかばルートを彷彿とさせるような純愛が楽しめる素晴らしいルートでした。
個人的にイチャラブの時のテキストがひらがな多めになるのがツボ。
逆に希ルートは良く言えばロマンチック、悪く言えば電波な言動と、後半の展開が早いせいで置いてけぼりになる可能性も。
そもそもが虫大好き少女という変わったキャラ付けのためあまり受け付けない人もいるかもしれませんね…
瑠波ルートや澪里ルートは後半のシリアスが少し描写不足だったり予定調和のような印象を受けたりもしますが、
恋愛パートは丁寧に描かれてて文句ないかな。
一応ルートを終えるとタイトル画面にアフターストーリーが追加されるんですが、
別にHシーンが入る訳でもなく各ルートのその後を描いた単なるショートシナリオとなっているのでちょっと肩すかしをくらいます(笑
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という訳で、シナリオの良さや前作「恋神」のようなドタバタ劇を求める人には向いていませんが
独特の牧歌的な雰囲気と恋愛描写、最近の萌えを詰め込む風潮と一線を画すシンプルな魅力の表現が好きなら是非。
いくら雰囲気が良かろうがシナリオは平凡なので決して高い評価を得られる作品ではありませんが、
ハマる人はハマる穴場的な作品になるんじゃないかと。
少なくとも体験版の時点で退屈に思うなら回避したほうが良いでしょうね。