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KYさんの穢翼のユースティアの長文感想

ユーザー
KY
ゲーム
穢翼のユースティア
ブランド
AUGUST
得点
93
参照数
1066

一言コメント

オーガスト作品は初だが、これが今まで萌えゲーを作っていたメーカーの作品とは思えない…。余計な先入観を抜きにしても、シナリオ重視の作品として素晴らしい出来でした

長文感想

これまで聞いてきたメーカーの作風的に萌えゲー寄りな作品にもなり得ると思っていたけど、とんでもなかった!
OHPの印象通りの重厚な世界観を最後まで描き切った素晴らしい作品でした。
熱い展開が多く、テーマ性もあるため終わった後は鳥肌立ちっぱなしで感慨に耽ることができた。

今更あまり詳しいレビューをしても仕方が無いので感想メインで。


構成はメインヒロインであるユースティアをラストに据えた一本道の、途中で分岐として他のヒロインのルートが存在する形。
1章フィオネ、2章エリス、3章イレーヌ、4章リシア、そして5章ユースティア。
ユースティア以外のルートに入るとそれ以後の章の展開を無視したハッピーエンドになってしまってますが、まぁ致し方ないかと…

話の舞台は一介の用心棒だった主人公が出世していくのに合わせて変遷して行き、
1・2章では「牢獄」での血なまぐさいダークな展開、
3・4章では「上層」における聖職者や貴族たちとの駆け引き、
5章では各々の信念を元に都市全体を揺るがす事態が起こり、最終的にはセカイ系に。

最初は牢獄から始まった舞台が進めるにつれてその内容と共に変わって行くのが新鮮で、一粒で何度も味わえるような印象です。
だんだん範囲が広くなり最終的に都市全体という超大きなスケールになりますが、
尺が長く丁寧に描かれており、章ごとに順序を踏んでいるため付いていけないという事も無いでしょう。


まず何といっても、終始繰り広げられる相手の言葉の真意を探り合うような会話が見ていて非常に楽しい!
シリアスな場面だけでなく日常会話もそんな感じで、まさに頭の回転が速い人物同士の会話という感じ。
特に後半は貴族たちの腹の探り合いという事もあって非常に緊張感があり、ドキドキしながら進められました。
バトル描写も申し分ないし、文章力に関しては文句無し。

また、立ち絵のある登場人物全員に敵味方関わらずそれぞれの生きてきた過去が描かれ、存在に重みがあるのも素晴らしい。
この人物にはこういう過去があって、こういう想いを持って今ここにいる。
それをしっかりと描いた上で物語を作っているから展開に重みが感じられるのでしょう。


一番完成度が高く盛り上がったのは4章でした。
傀儡にされているだけだった少女が、主人公に促され周りの環境の変化も受けて立派な王へと成長する。
他の見所も多い章ですが、この成長物語が特にズバ抜けて素晴らしかったですね。
彼女が成長した姿をヴァリアスに示す場面はこの作品屈指の名場面かと。

逆に5章はセカイ系の展開&ハッピーエンドではないという事もあって賛否両論になるのも致し方ないかな…
それまで苦悩するヒロインを諭し、導く役割の多かった主人公が今度は苦悩する立場になるので急にヘタレたように感じる事もあるのでしょう。
しかし、主人公が成長し前に進む、という過程を描くための必要経費なので、仕方のない部分もあるかと。
ラストの展開もハッピーエンドにしようとしたらかなりご都合主義になってしまうので…

個人的には3章が一番無理矢理な展開が多くて残念だったかな…
信仰という物に対する限界や矛盾を指摘するカイムに対する聖女イレーヌの信念、ラヴィニアとの絆などを描く場面は良かったんですが
いかんせん最後が駆け足気味で、ちょっと無理があったかなと…


登場人物の中ではルキウスが作品のテーマの1つを担う人物になってきます。
特に彼が終盤でカイムに放つ言葉はかなりグサッとくるものがありますね…
序盤では敵か味方かすら分からない彼がカイムにどのような影響を与えるのか、注目しているとまた面白いんじゃないかと。
個人的に一番好きなキャラクターです。

主人公カイムは完璧主人公の部類に入るでしょう。バトルで強く頭の回転も速い、およそ欠点のない人物。
5章に限らず全体的に立場が明確に定まっていない為フラフラしているように感じたりもしますが
ルキウスが5章でしっかりとプレイヤーのモヤモヤも精算してくれるので終わった後で不満を感じる事は無かったですね。

ヒロインに関してはやはりシナリオ重視の作品という事で萌え描写は少なめ。
もちろんヒロインの魅力が出ている場面はチラホラとあるけど、シナリオ構成を考えてもヒロイン目当てという訳にはいかないかと。
Hシーンに関しては本編では各2回と少ない代わりに、クリア後に選べるショートストーリーで1~3回、合計して平均4回。
娼婦三人組に関しても一人1回ずつ入っており数は申し分ないですが、さすがに内容は薄め。


元が萌えゲーメーカーという事で途中で萌えに走って雰囲気が壊れてしまうくらいは覚悟していたのですが
見事に方針転換が出来ており、純粋にシナリオ重視の作品として素晴らしい出来でした。
もちろん3章のように不満な部分もあるけど、それを補って余りある世界観と4章の素晴らしさ。
萌えゲーメーカーという先入観を捨てて是非やってもらいたい作品です。