ハッピーエンドとバッドエンド、ほんの少しでもクリエイターを目指したことがある人達には刺さる作品
ずっと発売を心待ちにしていた本作品。
共通√→ゆめみ√→エレナ√→桐葉√をプレイ後、1週間ほど時間を空けてから共通√2周目→逢桜√の順番でプレイして合計30h~ほど。
メインである逢桜√だけはどうしても話の流れとして共通√からそのままプレイしたかったため2周目から始めることにした。
・共通√が話数ごとに完結、それぞれのヒロインにスポットライトを当てているのが非常に良かった。
→個別√よりも共通√が大半のシナリオ量を占めているけれども、それによって高校生活2年分の時が流れる話作りになるのが個人的に好みだった。初見のプレイ時は、話数ごとに次はどのヒロインの話になるのだろう、と続きが気になる引きになっているのも新鮮な感覚だった。
⇨反対に個別√(ゆめみ、エレナ、桐葉)を共通√の後にプレイすると、少しボリューム不足に感じてしまう。ただ個別√も更に長くしてしまうとそれこそ莫大なプレイ時間を要求されることになるだろうとも思った。
・魅力的なサブキャラが多い。
→共通√が長い分、他のサブキャラとの絡みが多く、会話のテンポ感が良かった。
⇨サブヒロイン達(結菜、紫音や大人4人組)の個別√も是非見てみたかった。
・個別√(ゆめみ、エレナ、桐葉)
→そこまでボリュームもなかったので、逢桜√の後だと可もなく不可もなくといった印象。ゆめみ√とエレナ√は恋愛を中心にクリエイターの在り方を問い掛けてくるシナリオ、桐葉√は声優とのスキャンダルや刺されたりとスペクタクルな面が多いシナリオだった。ブチギレられながら胸ぐら掴まれて告白してくる桐葉のシーンが、今までに経験したことのないヒロインからの告白シーンだったので個人的にはお気に入り。
・メイン√(逢桜)
→これについて書くためにここへ感想を投稿したと言っても過言ではない気がする。
共通√の最初から、病気を抱えてるのを匂わせる描写が度々入っているのでモヤモヤしながら共通√の最後まで読み進めていった。まさかフランス留学自体がそもそも嘘だった、とはプレイ中に思いつかなかったけれども。
個別√に入り病気が明かされて余命残り一年という重い現状を突きつけられ、果たしてどういうふうに終わらせるのか、それだけを見届けるために読み進めた。
心のどこかで、最後は病気を乗り越えて幸せな結末で終わるだろうと高を括っていた。途中から逢桜がハッピーエンドのシナリオを描けるようになったことで、物語が良い方向に進んでいたからこそそう思った。
でも結果として「奇跡なんか、いらないんだ」と逢桜が言った通り、逢桜との死別を仄めかすエピローグで話は完結した。
正直に言って、どう考えても賛否両論になるラストの描き方だったとは思った。それこそ逢桜が最後に言ったみたいな『人によってはバッドエンドの結末』に違いない。多分、この√における病気のことも死別する結末のことも、『物語の上でのお涙頂戴な設定』と言う人は沢山いるだろうと思う。でも自分はクリエイターとして生きた逢桜を最期まで見届けて、物語の設定という言葉だけでその一生を片付けたくないなと思ってしまった。それだけ逢桜というヒロインは、等身大の女の子としての魅力とクリエイターとしての矜持を持つ魅力が詰まっていたキャラクターに見えた。何かを書きたい、描きたい、作りたいと一度でも思ったことがある人なら、逢桜が選んだ道も間違っていない人生の終わらせ方だと思えるんじゃないだろうか。自分はこの結末に対してこれはバッドエンドだと、間違った生き方だとは口が裂けても言えない。
逢桜は物語の中で、自分の意志で死ぬまでクリエイターであることを選ぶけれども、逆に言えばシナリオ、作品としては彼女の意志に関係なく死を選ばさせられたとも言える。良し悪しは置いておいて、前向きに生きているヒロインが死を選ばされるシナリオというのは、本当に心の底から辛い。幸せな未来を生きている姿を、どうしても読み進めているうちに何度も何度も思い描いてしまった。それなのに話は進んでいけばいくほど残酷な会話や描写が増えていく一方だった。その中でも1回目のHシーンで「薬の副作用で、子供はもうできないんだ」と逢桜に告げられた時の衝撃は未だに忘れられない。好き合ってる高校生が平然と受け止められる事実じゃないし、何より現実として重過ぎる。
物によるけれども、作品においてヒロインとユーザーが向かい合っていられるのは時間が限られている。その中でもシナリオゲームという媒体は、何十時間もそのヒロインの声や仕草・表情を、見て聞きながら会話を重ねていくから、それだけ情が沸く。30時間ほどこのゲームをプレイしてきて、最後にヒロインが死別としていなくなってしまう、というのは精神的にやはりキツい。この結末に持っていきたかった理屈も、作品としての終わりを迎えるために必要なことだとも分かってはいるけれど、感情ではやっぱり納得しきれなかった。
シナリオライターの方も「逢桜や寿季に対して情が沸いてしまい、『奇跡』を起こそうか悩んだ時もありました」と設定資料集で述べていたのが唯一の救いだった。
アペンドでアフターストーリーとIFストーリーの配信が決定しているみたいなので、ユーザーにとってではなく、作品全体としてではなく、逢桜や寿季というキャラクターにとってのハッピーエンドが描かれることに期待したい。
逢桜√の結末に対して納得出来ない批評みたいな感想になってしまったけれども、この終わり方じゃなかったらここまで心に残る作品にはならなかった。この物語で生きていたキャラクターには幸せになってもらいたい、と強く願えるほどには、自分にとって大切な作品になったと思う。