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K@Sさんのサクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-の長文感想

ユーザー
K@S
ゲーム
サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-
ブランド
得点
99
参照数
839

一言コメント

待ちに待った作品

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

さっそく感想を書いていきたいと思います。
思いっきりネタバレ要素を含むと思いますので、
知りたくない方はプレイ後に読んでみてください。

<感想>
この作品をプレイし終えて言えることは
期待通りの素晴らしい作品であるということです。
シナリオの構成も良かったですし、
何度も読み返したくなる箇所もたくさんありました。
特にV章以降の直哉の葛藤、構想を作品にする姿が
印象深かったです。

さまざまな作品の引用表現を用いて、ものがたりを展開させていくところや
徐々に伏線が回収されていく構成は素晴らしいです。

ただ、個人的には抽象的な表現の解釈が苦手な部分もあるので、
意味を取れない部分もあったのですが、
そういう箇所はもう一度読み返して、
この作品をよりいっそう理解できればいいなあと思います。

<シナリオ>
以下はシナリオの感想です。
ちょっと長くて、読みにくいですが、
目に留まったところでも読んでもらえるとうれしいです。

I章、II章:
共通ルートでは
直哉の父である健一郎の葬儀から始まり、
美術部での日常、
そして
薙健一郎の遺作の制作から完成までが話される。

III章:
つぎのような攻略順でプレイしました。
稟→真琴→氷川→雫

(稟ルート)
このルートでは凜が弓張を離れることとなった原因と
それと主人公たる直哉が絵を描かなくなった原因との関連に焦点が合わされています。
吹が最初に主人公と出会った場所が稟と関係のある場所だったとは。

(真琴ルート)
真琴と親である校長との関係、中村家との関係や圭の置かれている状況が詳しく語られます。
まさか圭が養子だとは思いませんでした。

(氷川ルート)
氷川との幼少期の出会いから現在に至るまでの関係が語られます。
先年桜の伝承の真相も明らかになるので、
この物語の背景を抑えるという点でも重要なルートだと思います。

(雫ルート)
このルートでこの物語が大きく動き出します。
雫の置かれている状況や夏目家と中村家の対立の背景、
稟がいったいどのような能力を秘めていたのかなどなどが明らかになっていきます。
稟が初期段階の攻略可能キャラだったのですが、
ここまで重要な位置づけだったとは思いませんでした。
逆に最初にプレイさせておかないと、
シナリオがうまくつながらないというわけだったのですね。
あと冒頭に登場するフリードマンというキャラはかませキャラかと思っていたら、
雫をめぐる中村家とのいざこざにおいて、重要なキャラだったのはかなり意外でした。

そして上記の四人のルートが終了すると、
最終章に向かって、タイトル画面に「IV」の選択肢が現れます。

IV章:
ここで健一郎と水菜との出会いに関する回想が始まります。
直哉の母たる水菜や藍たちがどのような状況に置かれて、
水菜はそれに立ち向かうためにどのような努力を重ねていくるのかなどが明らかになります。
健一郎は夏目家に助力を求め、
彼女たちを救う姿がとても良いです。

V章:
この章は上記の四人のヒロインとは付き合わなかった物語となります。
周囲からの影響を受けて、直哉は再び絵を描き出し、
ムーア展に出展する作品を描き上げます。

長山がこのルートで重要なキャラクターへと変貌するとは思いもしませんでした。
これまでのルートでは、自分の自尊心のために、主人公に執着する人物だと思っていましたが、
直哉が再び筆を執ることきっかけをつくった人物の一人ではないかと感じています。

そして、この章で衝撃的だったのはまさかの圭の死です。
直哉と圭の作品がムーア展でノミネートされ、
最終的に授賞式で圭の作品が賞を受賞したことが発表されるが、
本人は会場に姿を見せず、
のちのち圭が交通事故で亡くなったことを直哉たちが知ることになります。
圭の抱いていた直哉とともに絵の道を歩むという夢が叶えられなくなったことに
直哉は苦悩します。
その原因は直哉が稟や氷川を救ったことで絵描きとしての右手を失ったことにあるのではないかと
直哉は悩みます。
主人公が「その行為が正しいかどうかは分からない」と決断し、
今は立つことを選択します。

このルートの最後では、
圭の死をきっかけに雫が留めていた稟の記憶と絵の才能が稟に戻り、
直哉と稟は美について論じ合います。
そのまま稟は海外に行き、
直哉は受験に失敗し、来年再度藝大を受験するというところで終わります。

VI章:
このルートは誰とも付き合わず、藝大を卒業し、
弓張学園で非常勤講師として勤務している直哉の話です。
直哉と関係の深い人たちは弓張を離れて、
それぞれの人生を歩んでいます。
直哉だけが弓張にとどまり、弓張学園に勤務しています。
ある日、長山が現れ、直哉に新しい作品を世に発表するといいます。
そして、長山率いる集団が教会の壁画を改変してしまいます。
直哉もまたこの事件を受けて、動き出します。
それは何年もの歳月をかけて練り上げた計画でした。
その作品はステンドグラスを通した光彩という絵の具によって
さらに「櫻達の足跡」がさらに改変されることによって完成するものでした。
未来の美術部となる桜子、奈津子、ルリヲ、鈴菜が関わってるというのも
大きな意味を持っていたのだと思います。
 
作品発表後に長山と言葉を交わしている際にでてきた
直哉の
「やっぱ、作品を作るって気持ちのいいもんだ」
という言葉は単純なことだけど、
いい言葉だと思いました。

それと
「作品は何のために生まれてきたのか、それさえ見誤らなければ大丈夫だ」
というのが最終的に直哉が手にした作品に対する考え方なのだと思います。

直哉の凄みというのは
天才の作品に感銘をうけても、自分ならどのような表現ができるのかを考え、
それを具現化するという点だと
V章以降をプレイして感じました。

最後に晴れて、直哉は来年度から弓張学園の正式な美術教師となったので、
次回作の「サクラノ刻」に向けての布石は整ったわけですね。

<キャラクター>
どのキャラも個性的過ぎます。
稟と雫が下ネタに走りすぎなんですが。

この作品で一番魅力的なキャラは
夏目 藍だと思います。
藍は母親である水菜の妹という点でしか
直哉とは血のつながりはないが、
夏目家という点でつながっており、
家族として主人公にとって大切な存在であると思うからこそ、
藍をもっともこの作品で魅力的な人物だと思います。

ちなみに一番かわいいイチオシキャラクターは
ノノ未ですね。
このキャラがHP上で消えたときはショックでした。
発売前に発表されたOPムービーに一瞬映ったので、
登場を心待ちにしていました。
III章の雫ルートで幼少期のノノ未が登場し、
これは後々成長した姿が見られるのではないかと期待が膨らみ、
やっとXI章でその姿を見ることができました。

再度OPを見返してみると、どのシーンもすべて意味があるのだと改めて感じました。

<音楽>
どの曲も素晴らしすぎて、これがイチオシということができません。
はやくサントラ集が発売されないかなあ。
各楽曲をじっくり聴きたいなあ。

上記のとおり、この作品は私にとって大満足の作品でした。
「素晴らしき日々」にならぶ出来だと思っています。
続編として「サクラノ刻」が製作予定のようなので、
いつ発売されるかは不明ですが、
発売を楽しみにしています。
もちろんノノ未の姿をもう一度見れればいいなあと思います!!