構成の妙
桜庭氏の過去作『クロノボックス』でも触れたが、本作の体験版のような不気味で、これから何か凄いことが起きそうな仄めかす文章が氏の真骨頂であると個人的に思う。
だがこれも『クロノボックス』で触れたのだが、仄めかした結果を親切心なのか知らないが明かしすぎる。
本作の登場人物たちも過去のトラウマや実験が原因で狂気に陥っているのだと明確に描かれているが故に、不気味さはない。
やはり狂気とは説明できない、過去のトラウマに依らない、我々の理解が及ばないところにあると思うのだ。
体験版段階ではその"狂気"の片鱗が見えた。だが塔に監禁されたあとからそれはすべて霧消してしまった。
そして蛇足ルート
ホームページのB級映画のような煽り文句、声優の裏名義を利用したメタetc…
などの伏線を利用した劇中劇であったという真相が提示される。
過去に『夢幻廻廊』でも本編の一要素としてお屋敷に壁があって、その先は撮影スタジオだったという同じような話があったが、今作は一要素ではなくオチにこの設定を持ってきた。
exプロフィールにあるような存在しない性愛で繰り広げられた架空の狂気が、実際に存在する死体性愛と結びついて現実の狂気として事件が起きるという構成は見事だったと思う。
そしてこの蛇足ルートの登場人物たちは前述の劇中作とは違って、過去にどんなトラウマがあっただのの説明が一切ないのである。
そう、これだよこれ。この説明されない得体の知れなさを求めていたんだ。
このような全てをぶち壊しかねない展開に踏み込めた桜庭氏には賛辞を贈りたい。
…でも個人的には蛇足ルート前の警告は不要だったと思う。
だってもし批判されてもあくまで蛇足ってことだからね!って逃げ道用意してるみたいじゃない。