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JSBZTさんの夜巡る、ボクらの迷子教室の長文感想

ユーザー
JSBZT
ゲーム
夜巡る、ボクらの迷子教室
ブランド
SAMOYED SMILE
得点
85
参照数
352

一言コメント

必ずはやて√をやってから、きな√をプレイされてください。 また本作には逢魔刻モードという、ヒロインの内面を覗けるシステムがあるのですが、きな√のみ使わないことをお勧めします。 本作(きな√)のテーマは「相互理解」です。 そしてそれは不可能だ、と考えている人ほど、ぜひプレイして欲しいです。 この作品にはひとつの答えがあります。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

以下は苦言と余談です。

本作は多人数ライター作品には珍しく、共通√がOPまでと非常に短いです。
ゆえに各√ともライターの意図が反映されやすい状況にあったと思います。
しかしそれがライターの文章を基に、実際にゲームを作る段階ではかなりの齟齬あったと見受けられます。
でなければ逢魔刻モードなんていう、ネタバレ誘発装置を実装しようなんて考えにはならないはず。
きな√の最大の見せ場は、過去の清算と未来、一致していたと主人公ときなそれぞれが考えていた認識に、根本的なズレがあったことが発覚する部分です。
しかしこの逢魔刻モードを使用してしまうと、きな√の序盤でこのことが露見してしまうのです。
これはあまりにも致命的。
はやて√ときな√のコンビニ店員の声優を利用したメタトリックの比ではありません。(比ではありませんが、このようなことをするならば、√を固定して欲しかったです)
近年はわかりずらいという批判を恐れて、お客様への配慮が重視されているエロゲ業界ですが、このモードの実装もその一環だったのでしょうか。

さてこのきな√を書いたライターさんはエロ助の情報によると画用紙という方だそうです。
√のプレイ中から薄々感じてはいましたが、作品集等見る限りでは女性ライターであることがわかります。
きなの部屋での主人公の無力さや、翌朝、自分なりの答えを見つけ、自身で乗り越えるきなという強い女の子は男性の視点ではなかなか描けません。
直後のベンチでのシーンも見事。理解できないことを前提に、それでも一緒に生きる、ずっとそばにいて幸せを望むという提案には心が震えました。
その後の「誰かを恨んで生きるんじゃなくて、誰かを好きになって生きて欲しい」は某作を思い出しました。
ただ某作との違いはそこから先の言葉があることです。ここにひとつの答えがあると信じさせてくれる、そんな作品でした。

他にもきなの途中計算のミスがメタになっていたり、
主人公の与り知らないところで、虫嫌いを克服していたきなの描写がラストシーン、
などなどこのライターの力量の高さが伺い知れます。
商業作はこの作品のみで、乙女ゲーム同人で作品を発表されているみたいですが、また機会があれば他の物語も読んでみたいです。