この作品は「ランスファン」向けか、はたまた「ランス未経験のおっさんゲーマー」向けか、
アリスソフトの真意は分からないが、少なくとも表題の2つ以外のクラスターに対しては、
残念ながらあまりリーチできていない作品ではないかという印象を受けた。その理由を
「ランス未経験のおっさんゲーマー」たる私自身の雑感を基に考えてみたい。
まず最初に自分自身のプレイ動機から述べる。ランスシリーズに対して、特に「ランスⅥ」と
「戦国ランス」に対して、私自身は以前からかなり興味があった反面、実際のプレイにはなかなか
踏み切れないでいた。その最たる理由は、「ゲームとして面白く、やり込み要素も強いが故に、
多くのプレイ時間を消費する時間泥棒的な作品」という印象に因るものだ。こうした要素は、
主にCSのやり込み系RPGに多大な時間を割く傾向の私にとって、まさしく悪魔の誘惑である。
一応はちゃんとした社会人生活を送っている身であることを考えた以上、CSゲーム以外の
やり込み作品に踏み込む勇気は、残念ながら今のところ私には無い。これがランスシリーズを
敬遠してきた私自身の背景である。
さて本作の場合だが、OHPにて喧伝されているように、1周のプレイ時間が15~20時間という手頃な
ボリューム感、5000円程度の手頃な価格、シリーズ処女作のリメイク作であるという3つの要素が、
私に購入を促す切欠となった。これらの要素は、未経験のおっさんゲーマーがランスシリーズに
気軽に触れるための魅力的な条件であると言えるだろう。
全体的なゲームシステムに関して。結論から言うと本作は、「RPG要素がちょこっとだけ入った
昔風味のADV」である。基本的なシステムはコマンド選択型ADVであり、半ば総当り的に色んな
コマンドを選択し、色んな女の子に節操無くちょっかいを掛けていくノリである。従って
シナリオもかなりあっさりしており、物語を楽しむというよりは、その場その場の展開を楽しむ
作品である。
一方で、フラグ管理がなかなか厳しく、時間制限イベントもあるため、その周回での取り返しが
効かない場合も存在する。こうした部分のシビアさも、典型的なレトロADVの傾向を再現している。
それ故、昔のエニックス、elf、C's ware辺りの作品に慣れ親しんできたおっさんゲーマーであれば
抵抗感無く入っていけると思われるが、「10代20代の若いビジュアルノベルゲーマー」といった
クラスターにとっては、必ずしも敷居が低いとは言えないバランスである。
RPGパートについて。基本的にキャラの育成要素やバトルの戦略要素はほとんど無い。チップバトルや
カード捲りのダンジョン探索といったシステムは、初回プレイであればそこそこ楽しめる出来だが、
2周目以降のプレイを促す程の魅力は無い。本作には一応、チップコレクションや敵キャラコレクション
のように、コレクター向きのやり込み要素が用意されているものの、キャラ強化や戦術拡大とは
無縁の要素であるため、無意味な作業感を伴う確率の方が高いだろう。少なくとも私の場合は
やる気が全く起きなかった。
キャラ画に関しては、個人的には良かったと思う。エロシーンの絵やテキストのクオリティも
十分なレベルであったと思うが、やはりエロシーンはボイスが無いと何とも味気無い。従って
私にとっては、全くおかずの役割を果たせていない作品であった。
総括すると、ゲーム全体としてのノリやテンポは良く、中だるみすることも無いため、コンパクトな
プレイ時間に反して密度の濃い作品であったと思う。周回プレイ向きでは無いが、初回次は十分に
楽しめる良作であろう。また、ランス未経験の私にとっては、シリーズの世界観やノリの一端に
触れる機会を十分に提供してくれた作品だったと思う。従って「ランス未経験のおっさんゲーマー」が
ランス世界に触れるには適した作品であると言えるだろう。
また、他のレビューを見る限り、本作は「ランスファン」の方々にも概ね好評のようだ。確かに
本作は、ボリューム的にも内容的にも、ランスシリーズのFDであると認識する方が理に適っている
かもしれない。シリーズを欠かさずプレイしてきた方にとって、「ランスⅨ」までの繋ぎとしての
役割を、本作は十分に果たしていると言えるのではないだろうか。
しかしながら冒頭で述べたように、「ランス未経験のおっさんゲーマー」&「ランスファン」以外の
ユーザー向けかと言われると疑問符が付く。やはり最近のADVやビジュアルノベルのシステムと
比べると、ナンパ路線の総当り的コマンド選択型システムは、面倒臭さの方が目に付くだろう。
また本作のシナリオは、シナリオ重視型の超大作とは比べるべくもない。キャラ画は良いが
他作品を遥かに凌駕するレベルという訳でもない。そしてその他に、本作における訴求材料は
何かと考えると、ぱっと思い浮かばない。
従って、アリスソフトの商品戦略に関する真意については、憶測の域を出ないため、ここであれこれ
考察することは控えるが、今後の重要な主要購買層たる「10代20代の若いビジュアルノベルゲーマー」
というクラスターの牙城を切り崩していくために、更なる果敢なチャレンジが要求されることだけは
想像に難くない。そしてそうしたチャレンジの姿勢は、全てのユーザーの満足度向上にも繋がるので、
引き続き注目していきたい。