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Immature_boyさんのジーザス13th -喪失われた学園-の長文感想

ユーザー
Immature_boy
ゲーム
ジーザス13th -喪失われた学園-
ブランド
XUSE
得点
68
参照数
2201

一言コメント

「久遠の絆 再臨詔 FV 在庫整理版」のおまけ特典と考えれば、それなりに楽しめる作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


10数年前にPS2版の「久遠の絆 再臨詔」をプレイして、かなり楽しんだ記憶を持つ私だが、
その後は同作に触れることは無かった。悪評高い「オリジン」や、忠実なリメイク作という
評判の「FV 単品版」が近年発売されたことは知っていたが、購入には至らなかった。しかし
今回、FV版が新作とセットで発売されることを知って、「これはお得なんじゃないか」と
購買意欲を煽られた結果、衝動的に購入してしまった。もちろん本命は「久遠の絆」であり、
本作「ジーザス13th」は前座として軽く楽しもうという位置付けであった。

結論から言うと、本作は色々と残念な部分が多いものの、評価できる部分もあり、そこそこは
楽しめた作品である。私の場合は前述のように、本作には過度な期待をしていなかったため、
本命のための前座としては十分な作品だった。尤も、本作の方を本命として購入された方は、
かなりの確率で失望されたことであろうことも想像に難くない。

以下、本作の振り返りをしてみる。ネタバレを含む部分はできるだけ最下段に記述する。



<古臭い印象と難易度について>

他の諸兄も仰っているように、本作は全体的に古臭い印象を受ける。一目瞭然なのは絵であり、
ヒロインのデザインや塗り方が数年前の作品のように見える。私は大して気にはならなかったが
気にする人は気にしてしまう出来だと思う。

そしてもう一つ、古臭い印象を与える原因がある。それは難易度である。はっきり言って
本作の難易度は相当に高い。通常の選択肢がただでさえ多い上に、「探索パート(※1)」の
組み合わせも絡まって分岐条件が複雑である。また、フラグ立ても非常にシビアであり、
例えばヒロインの固有イベントを1つでも逃すと、そのヒロインの真ENDには辿り着けないと
いった鬼畜仕様である。

私は某攻略サイト様のお力をお借りして、色々と総当りを試してみながらプレイしたが、
最近の作品とは比べ物にならない難易度であることを実感した。一昔前のサウンドノベルや
Innocent Grey作品に匹敵する難易度だと思う。

それゆえ、例えば私のように、攻略難易度が高い作品が好きなプレイヤーにとっては、本作の
難易度の高さはやり応えを感じられるため、一定の好評価対象に成りうるのだが、そうではない
人にとってはたまったもんじゃないだろう。ここ最近の、選択肢が少なく「読む」ことに重点が
置かれた作品に、慣れ親しんでいる人には全くお奨めできない作品である。


※1:本作にはヒロインが4人(クリス、さんご、ソフィア、菫)いるが、このうちクリスか
  さんごのどちらかをパートナーにして、「道しるべ」を得るために学園内を探索する。
  探索場所は合計7箇所、探索回数は1箇所につき1回であり、1√につき累計5回~7回の
  探索パートがある。クリスを選び続ければクリスの好感ポイントが、さんごを選び続ければ
  さんごの好感ポイントが上がっていくことは言うまでもない。残る2人のヒロインの場合は、
  原則として、クリスの探索パートには菫絡みのイベントが、さんごの探索パートには
  ソフィア絡みのイベントが発生する。以上の内容を踏まえて、ヒロインの好感ポイントを
  調整して、狙いのヒロイン√に入れるように上手くコントロールすることがプレイヤーに
  求められる。この他にも幾つかの仕様(例えば、第1回目の探索パートナーは必ずさんご)が
  あるが、面倒臭いので割愛する。



<世界観と各種設定について>

詳しい内容はOHPを参照していただきたいが、本作の世界観自体はしっかりしていると思う。
また、主人公の名前を筆頭に、「真珠姫」「EVA」「ER」「ロストリージョン」「失楽園戦争」
などなど、腐女子に受けが良さそうな厨二的呼称を持つ各種設定が多く織り込まれている。
これらの設定については、作中で登場人物達が、ゲームの進行テンポを阻害する勢いで
懇切丁寧に説明してくれるので、OHPによる事前学習は特に必要ない。

しかし問題は、こうした色んな設定の多くが、作中では活かされること無く、投げっ放しに
されたまま物語が終わってしまうという点にある。とにかく「死に設定」が本作には多い。
これについては次項で触れる。



<シナリオと脚本と構成について>

OHPにも有るように、ほとんど面識の無いVIPの祖父の遺言によって、突然「わだつみ学園」
というエリート校(笑)に編入させられ、半ば強制的に「真珠姫」という学園の実質支配権を
持つ生徒会長になることを目指しながら、色々な謎や怪奇現象に直面していくというのが
大まかなシナリオの流れである。

このシナリオの骨格そのものは悪くない。また、不慣れな学園生活の日常の中で、不穏な事件が
断続的に起こり、それらの一時的解決を通して舞台の謎が1つずつ明らかになっていったり、
あるいは新たな伏線が追加されたりといった感じで物語は進む。「探索パート」に限っては
クリスの場合もさんごの場合も、内容とテキストがほぼ同一なのでダレる可能性はあるが、
進行を阻害するようなライターのオナニー的言葉遊びも大して無いため、基本的にはそれなりの
緊迫感を持って物語に没頭できる脚本になっていると思う。

ただし本作の問題は全体的な構成にある。本作は共通√:個別√=6:1ぐらいの配分であり、
起承転結のうち転までが共通√に含まれる。それゆえ、結の部分が尺の短い個別√に強引に
詰め込まれる形になっている。結果として、終盤は非常に駆け足であり、フルコンプしたと
しても、回収されていない伏線や、活かされていない設定がごろごろしている有り様である。

本作の舞台である「わだつみ学園」に限っての一部始終に関しては、某ヒロインの真ENDを以って
一応解決したと言えなくもない。しかしその場合においても、裏に潜む黒幕や、主人公に関わる
謎については、エピローグでも結局触れられないまま、物語は終わってしまう。はっきり言って
締まりの良くない打ち切りENDである。これこそが「設定」だけは大風呂敷を広げ過ぎた本作の
最大の罪だろう。非常に残念である。

ちなみに、上述の某ヒロインの真ENDはまだマシな方で、別のヒロインの真ENDの場合、
「真珠姫」を目指すこと自体がいきなり無かったことにされ、超展開的な方向転換を以って
話が終わってしまう。勿論、謎の解決も伏線の回収も何もあったもんではなく、プレイしている
側としては ( ゚д゚)ポカーン とする以外のリアクションは何も無い。あたかも連載10回ぐらいで
巻末に追いやられ、そのままひっそりと打ち切られてしまうジャンプの漫画のようである。



<エロシーンについて>

OHPには「迫力のアニメーションに注目せよ」との謳い文句があるが、結論から言うと、
外国人おたくが作ったアニメーションGIFレベルであり、Jellyfish作品やOverflow作品の
エロシーンには及ぶべくも無い。静止画よりはマシかもしれないが、本作の場合はエロの
シチュエーションがどうもイマイチなので、実用性は大して無いと思う。別枠で局部拡大して
さんごのおま○こを舐めるシーンは唯一良かったのだが、しかしそれだけ。

また幾つかの和姦エロシーンでは、明らかに場面にそぐわない不穏なBGMが流れる。
はっきり言って意図が分からない。

結論としてエロについては、本作ではなく低価格アニメーション抜きゲーを買われた方が
コストパフォーマンスが高い。



<残る謎とか、その他言いたいこと(ネタバレ大いに含むのでご注意)>


・蒔梛のERというか正体というか、結局のところ「いつ、どうしてそうなったのか」について
 全く触れられなかったのが不満。しかし、「久遠の絆」の主人公に関する設定のように、
 「まつろわぬ神」的な何かが身体に封印されていることを彷彿とさせてくれる。というか、
 「久遠の絆」の設定の丸パクリなんじゃないかと思わなくも無い。製作会社も同じだしね。


・菫ENDの最後、蒔梛の目が赤く光るCGで終わるのが何とも不気味だったが、これについても
 何の説明も無いのが不満。この√の蒔梛は「覇道」に侵食されてしまったという解釈で
 良いのだろうか。


・エリート校であるはずの「わだつみ学園」の描写がどうもいい加減な印象。まず、登場する
 学生の多くは俗物的発言が目立ち、DQN臭がぷんぷんする。ERは高いのかもしれないが、
 到底エリートとは思えないような連中ばかり。また、あれだけ選択科目が多い中で、きちんと
 カリキュラム管理を行なって運営することは不可能ではないか。フィクションとはいえ
 突拍子が無さ過ぎる。その一方で、宿舎の食堂の背景画が現実の学食過ぎてワロタ。


・風を操るERに関して、ERレベル3がシルフ、ERレベル4がフレスベルグなら、ERレベル5は
 何なのだろうか。おそらく製作者は考えてなどいまい。


・クリス真√は入るのが最も難しいと思う。クリスのフラグイベントは漏れなく回収し、
 クリス寄りの選択を徹底するのは原則であるとして、落とし穴になり易いのが、さんごとの
 最初の強制探索パートの場所選びだろう。「道しるべ」に関係する「泉」「宿舎」「沼」は
 必ずクリスと一緒に行くとして、菫が絡む「チャペル」「校舎」、CGが回収できる「温室」も
 クリスと一緒に行くとなると、残る選択肢は「岬」しかない。実際、色々試した結果、最初の
 さんご探索パートの場所選択を「チャペル」と「校舎」にした場合、どう足掻いても
 クリスBAD√にしか行けなかった(「温室」は未試行)。従って「岬」が無難だろう。