いい意味でも悪い意味でも、ただの「人間」ではなく「創作者」達の青春群像劇。最後の描き方にはいい意味で裏切られた。紛れもなく名作と言える作品。
タイトルも主張している通り、「クリエイター」をメインテーマにした作品。
昨今、クリエイターな一面を持つヒロインが登場するゲームも多いため、正直プレイ前はそこまで大きな期待を寄せていなかった。だがしかし、このゲームのシナリオは一言感想でも述べたように、期待以上のシナリオをプレイヤーへぶつけてくれたのである…
【共通√】
この作品、事前に「共通√が長い」という情報だけ得ていたため、長いのを覚悟していたが、正直他のゲームに比べたら長めだとは思うが、個人的にはそこまで長く感じられることはなかった。むしろ、長い期間を使って主人公及びヒロイン、その他登場人物をしっかりと掘り下げて描いてくれたことが、個別√への期待感も持たせる形になっていて良かったように思える。全体的には長くても、章の区切れごとにサブタイトルの表示や、まさかの章ED曲まで流れるなど、共通√をプレイしている間はまるでライトノベル原作のアニメを見ているかのような、不思議な感覚だった。
このゲームの共通√で面白い点は、長いだけあって、実際に作中でも大きく時間が経過する点である。
大体の学園物は半年~長くても一年ぐらいしか全体でも経過しないことが多いが、この作品は共通√だけで時が約3年進む。公式サイトにあるプロフィールの学年は、個別に入った頃には+2されてるのだ。ただ闇雲に時間経過をしているのではなく、主人公が学園で出会ったヒロイン、友人や先生などとの深い交流を得て、読者に十分な納得感を与える形でスランプを解消できているため、そこは主人公を理解する上で十全なストーリーになっていたと思える。
強いて言うならば、桐葉とエレナで二回も仮の恋人関係になるのはちょっとワンパターンかな?ってぐらい。
※ここからネタバレに入ります※
攻略順
桐葉→ゆめみ→エレナ→逢桜
【桐葉√】
声優である桐葉の√は、現代において声優とはどんな職業でとらえられているか、それを持って物書きである主人公はどうするか、を書いていたと大雑把ながら認識している。親への理解、スキャンダル、そういったイベントが印象的だったが、まあ展開に一部ご都合主義感はあるものの、物語としてはいい塩梅でハッピーエンドであると思う。
桐葉というキャラも現代において声優でいるならばこういった性格や人物像になる人もいそうだよなあ、って思えるキャラ付けで、好きになれた。めんどくさいけど佳い女だよ、お前さんは……
【ゆめみ√】
久しぶりにみた「妹(実妹ではない)」キャラ。まあ私がやってるゲームが偏ってるのかもしれないが…
このゲームどのルートにも言えることだが、共通√で長い時間を描写しただけあって、恋人関係になるのが早い。ゆめみはなぜか特にそう感じた。
この娘は所謂「天才肌」のイラストレーターで、現実逃避のために絵を描いてたら才能が開花してた、というキャラだった。主人公とくっついてから逆に満たされちゃって絵が描けなくなる、というストーリーで進んでいったが、まあこの展開については予想できた感じであった。直し方も桐葉√とちょっと似てるかなって感じはした。だけどまあかわいいからいいよね…とは思えるぐらいヒロインの描写がよかった。
ロリ体系と言う割には意外といい身体してるな?ぐらいしか不満点(?)はない。
【エレナ√】
正直この√プレイしている辺りからこのゲームの面白さが分かってきた感ある。
主人公と同じノベル科で、実は主人公のトラウマでもあり尊敬するライターだったという設定の時点で関係性深いキャラだな~と今更ながら思う。
この√ではクリエイターの才能の「ネガ」な部分をテーマに、恋愛要素と上手くMIXできていた。√のなかで「才能があるから恋人である寿季を苦しめる、ならこんな才能なんていらない、普通の女の子になりたい」と問題を抱えていたエレナが、最終的には「この才能を持って、何年かかってもいつか寿季の筆を折ってやる、上で待ってるから(意訳)」とまで言い出せるようになるのは、主人公だけでなくエレナも成長しているという点を如実に示せているだろう。上記2人の√よりちょっと長かった気がするが、だからといって引き伸ばし感ある訳でもなく、終わるところできちっと終わらせている点も好印象。
ビーチボールやってる?ところのSD絵が好き。ばっちこい!
【逢桜√】
他の3人を攻略しないと選択肢が選べない、所謂グランドヒロイン。センターだけど。
共通√でも度々、「後がない」「生き急いでるように見える」という伏線や、OP曲タイトルからして
(あ、これルートの最後で死に別れるやつだな?)と予想はできていたが、いざ√入ってみて「後一年しか生きられない」と彼女の口から発せられたときは、久しぶりにこの展開に出くわしたことで正直切なかった。
だがこのゲームは「創作者」たちの生き様を描いたゲームであった。主人公はどうにか長く生きられるように安静を求めるのではなく、作中で作成してるゲーム『AS』のシナリオを最後まで書いてほしいと願うもの。この時点で、
(ああ、やっぱこのゲームはただの「人」じゃなく「創作者」を描きたいんだな)と腑に落ちて、そこからは最後までノンストップで読み進んでしまった。作中の登場人物たちはいずれも創作者側の人間なので、この作品を死んでもいいから完成させる、という展開に対し、プレイヤーである私はただの「人」なので、いつ最期を迎えてしまうのか、気持ちに整理がつかずハラハラして読み進めてしまう、シナリオと反した気持ちになれたのはとても印象的だった。死ぬな!生きろ!とは思えでもそれには逆らえず、命を燃やす逢桜の姿はとても痛ましく、同時に魅力的に感じられた。ほんとこの辺りの描写はすごく上手。この辺りですでに涙浮かべてたぐらい。
ルートの最後は本当に裏切られた。「えっ!そこで描写終わり!?結局その後逢桜はどうなったの?」という疑問を浮かべながら読み進めてみれば、『AS』は完成し、ほかの人物はそれぞれの未来を生きている。
主人公である寿季も、普通の日常を送っているように見える。が、傍に逢桜の姿はない。再開した高台に来ても、あの時そこにいた彼女の姿はない。だが寿季は彼女とともに作った新たなPNで進みだす。最後のCGには、寿季だけかと思いきや隣に「制服姿」の逢桜がいる…。という終わり方。私はこの終わり方に凄く感銘を受けてしまった。あえて逢桜の死を描かず、捉え方によっては彼女が生きているHAPPYENDにも見えるが、物語の主題として彼女は死んでもいいから作品を完成させたいと頑張ってきたため、恐らくあの後亡くなっている死に別れEND、そのどちらともとれる描き方をしているからだ。これについては正確にどちらか、というのをぼかしてる辺り、賛否両論ありそうだなと思ったが、私はこの終わり方でいい意味で裏切られ、感動した。ENDが表示されてタイトル画面に戻されたときはポカンとしてたが、ようやく心の整理がついたころには涙で溢れて画面が見えないほどだった。あれほどの感動を得たのは、本当に久しぶりだった……。
【Hシーン】
今作ではどのルートもだいたいシチュエーションが同じだったため、まとめて記しておく。
結論から書くと、すごくよかった。特に3つ目のシーン。私は純愛ゲーでありながらヒロインの目のハイライトが消えるまで犯されてるシチュ(具体的すぎる)が大好きなので、ほんとに性癖にささった。長い共通√で待たされただけあって、これは使える、と思った。あと淫語がめっちゃ出るので、そういった層にも受けそうだと思った。この娘達まるで抜きゲーみたいな語彙力してんな…
【音楽】
このゲームの感動を更に演出してたのが、BGMだと思っている。このゲーム音楽がとても良い。
サウンドトラックが豪華版にしかついてないのが勿体ないレベル。普通に発売してくれませんか…?
【ビジュアル・CG】
さすがの有葉先生なだけあって、どのCGもとんでもなく綺麗。それでいて何となく懐かしい気にもさせられた。
また、立ち絵が口パクするのが新鮮だなーと思った。紙芝居感薄れるのでぜひ今後とも続けてほしい。
【総評】
思わず寝食を忘れるほどに熱中し、読み終えた後の読後感も最高。すごく感動できる仕上がりのゲームだった。
正直ここまでの出来とは思ってなかったため、工藤啓介氏の作品にはこれからも注目していきたいと思う。
2021年を代表する、傑作ノベルゲーといえるだろう。多分全年齢版で出しても売れそうだぞコレ…
点数にあたっては正直100点に近いぐらいまで上げても良かったが、サブヒロインが魅力的過ぎたためそっちも攻略させてくれ!という願いと、サントラが今からだと手に入りにくいことの残念感を込めてこの辺りにしておく。
いつになるかは2022年春時点で分からないが、アペンドが配信される?みたいなので、そちらもプレイして最終的な判断をしたい。なのでブランドさん、早くアペンドの情報お願いします…。