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I_dreamed_a_dreamさんのカタハネの長文感想

ユーザー
I_dreamed_a_dream
ゲーム
カタハネ
ブランド
Tarte
得点
100
参照数
1363

一言コメント

二部以上で構成されるエロゲの最高傑作のうちの一つ。カタハネというタイトルでありながら最終的には「カタハネ」ではいけないと明示されるシナリオ構成。今後このシナリオを越える、多部構成式エロゲが出てくるのだろうかというくらいの完成度。シナリオもすばらしいが、笛氏によるおとぎ話のような作画や松本慎一郎氏によるBGMがシナリオを引き立て、同人レベルを超越した歌唱力を持つ観月あんみ氏による歌声で物語が締めくくられる、スタッフが総力を尽くして100点の境地にたどり着いた渾身の力作。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

はじめに:今回のレビューでは、共通、カバ√、アン√をシロハネ編、
final、secretを含めたクロハネ編すべてをクロハネ編、
ココ√でクロハネ編からシロハネ編へ戻った時以降のシナリオをココ√と扱わせていただきます。

●カタハネの主題について
物語を読ませるに当たっておそらくは最も重要なもののうちの一つであり、
シナリオが評価されているエロゲーでも大多数は多かれ少なかれライターが話に詰めた伝えたいことがあります。
これがあったかなかったが、ぼるしちやエアフェアとの最大の差であると思います。
話の主題は「忘れないこと」の重要性であり、二回も見せる必要があったかどうかの是非はともかく、
歴史が語られなかった未来を見せてから、歴史が語られた未来を見せることで、
はっきりと主題を強調していると思います。
シロハネ編では結局、クロハネ編の登場人物は誰一人、カタハネという物語には貢献しておらず、
シロハネ編はクロハネ編の登場人物を誰一人として救済しておりません。
一応、カバが正史を伝えようと劇をしましたが、
エビデンスのないシロハネ編の未来では歴史が覆ることはない可能性が高いため、
クロハネ編の登場人物が救われることはないと思われます。
その、言わばbad endを見せられたからこそ、
ココ√でクロハネ編の登場人物が救われたのを見て、
記憶の大切さというのがわかる気がします。
ライターが言わんとしてることは至極単純な、
「死んでしまった人は記憶の中でしか生きられないんだよ」という漫画やドラマにありがちなセリフなのです。
しかし、それを言うための舞台設定を大きくして、
最大限に効果的にそれを聞かせるためのシナリオを作り上げたのがすばらしいです。
ココの製作者は、悲しみを背負わせないために忘却を与えたと姫サマが仰りましたが、
物語の結論は、悲しみを乗り越えて、死を受け入れて、記憶していかないといけないというものです。
私の主観ではシナリオ重視のエロゲのなかでは、比較的メッセージ性を薄くしたエロゲだと思いますが、
しっかりとした主題に沿って物語が描かれていたと思います。
(注:一応補足しておきますが、メッセージ性の強い=良作というわけではありません。メッセージ性が強いと説教臭さが鼻につく場合もありますので。)

●シナリオ構成について
クロハネ編と比較して何かとけなされる傾向にあるシロハネ編ですが、
話の構成上眠くなるのは仕方がないと思います。
陰鬱とした世界設定で、最終的に戦争寸前にまでなるクロハネ編との対比として、
平和を象徴するためのおだやかなシロハネ編が存在しています。
シロハネ編で沈む展開が一切ないからこそ、今のココが心底幸せであることが理解できます。
すべてがココ√につながることを考えると、
シロハネ編もクロハネ編も等しく、踏み台でしかないと思います。
どちらが優れているかではなく、物語が終わったときに感じるのは、
カタハネというタイトルでありながらのカタハネの否定。
翼は対となることで初めて意味をなすということ。
ココが記憶を取り戻してからがカタハネの本番であり、カタハネのすべてです。
劇がどうでもよくなるのはご愛嬌です。
すべてが終わってみれば、「死」を理解できなかったココが、
ぼんやりとであるが「死」を理解するようになった壮大な成長物語がカタハネの本質なのかもしれません。

●泣きゲーとしてのカタハネ
世の中には数多くの感動するエロゲーというものがありますが、
泣き所を明確に示して、ライターがここで泣くのですよと指定している、
ユーザーを泣かせるエロゲーが大多数です。
もちろんエロゲに限りませんが。
ライターが明確に泣かせようと思って描かれたシーン以外で泣けるエロゲーというものはほとんどないと思います。
片方を貶めるような表現でしたが、露骨に泣かせるエロゲを否定してるわけでは一切ありません。
最も感動する場面に向けてシナリオを組み立てて、最高のシーンで持てる限りの演出を駆使するシーンであり、
単純なシナリオ構成力に加えて演出力も必要となりますので、
多くの人を感動させるシーンを作るにはかなりの難易度が必要となると思います。
というか演出ですべって泣けなくなると悲惨です。
具体的なゲーム名は挙げませんが、エロゲやってると演出ミスで涙が出ないというのはどうしてもぶち当たります。
そんな感じで泣かせられるエロゲも泣けるエロゲのどちらが上かという問題を提起したいわけじゃないことを理解してくれると助かります。
本作品でいうと、デュアの最期やアインとの別れ、ココ√ラストなんかはライターが泣かせにかかったシーンだと思います。
特にラストのmemories are hereインストをBGMにかけたシーンは卑怯です。もちろん褒めています。
一方、カタハネには泣かせられるシーンだけでなく、
勝手に涙が出てくる、ライターが泣かせにかかったシーンなのかがよくわからないシーンがあります。
CG名「よみがえる記憶」のココが記憶を取り戻すシーンです。
演出面から考えますと、BGM自体もそこまでしっとりとした曲ではなく、
CGも泣かせるためのCGとは思えませんでした。
登場人物が誰一人涙を流さず、場の空気も涙が出てくるような空気だとは思えませんでしたので、
本当に泣くシーンなのかどうかわかりませんでしたが、何故か涙が止まらないシーンになりました。
初回プレイ時はここで初めて私は涙を流しました。
未だに何でこのシーンで泣いてしまうのかがわかりません。
本当に勝手に涙が出てくるシーンだと私の中では思っています。
一度このシーンで泣いてしまってからはずっと泣きっぱなしでした。
カバに記憶を語るシーンですら泣けるのが意味不明でした。
クロハネ編secret storyからココが記憶を取り戻して劇が完成していく展開と、
ラストのレインがすべてを話すシーンからアインの墓で別れを告げるシーンの展開を詰めたカタハネは泣きゲーの最高峰です。


基本シナリオ:95点
加点:原画・CG+2点、BGM+1点、キャラ+2点、ボーカル曲+2点
減点:√構成-1点、

・シナリオ
ココ√がすべて。
ココというキャラにとことん感情移入したら「よみがえる記憶」のシーンで勝手に涙が出てきてそのあとずっと泣きっぱなしになります。
クロハネ編もそれなりに感動するシーンはあるけれども、すべては最後に続く布石でしかないです。

・キャラ
物語は“ココ”から始まる。
最高のメインヒロインにして主人公。
ココにどれだけ感情移入できたかで作品の評価が決まると言ってもいいでしょう。
デュアやアイン、レインなど、ほぼすべての登場人物の拠り所となったカタハネ世界の平和の象徴。
あまりにも完璧すぎるキャラを作ってしまったせいで、Rococoworksになったあとは、
ずっとココを超えるキャラを生み出せずに苦労しているようにも見えます・・・。
ヴァニタスで今度こそカタハネ級になることを期待していますが。
今後Rococoが名作を生み出すためにはココの幻影を振り切らないといけないのではないでしょうか。

・CG
笛氏の描く絵本のような原画が特にシロハネ世界の雰囲気とマッチしています。
カタハネにおいては、CG名「よみがえる記憶」や「約束」、「ありがとう」などの笑顔のシーンが非常にインパクトがあります。

・BGM
松本慎一郎の本領発揮。ラブジュでクラシックベースの楽曲を作っているだけあって中世ヨーロッパ風の曲が良い味だしています。
シロハネ編とクロハネ編でのBGMの毛色の違いがすばらしい。
サントラの値段は何とかならないものでしょうかw

・ボーカル曲
観月あんみ最強伝説。松本慎一郎の秘蔵っ子と言うべきなのか、love solfegeのエースが満を持して登場と言うべきなのか。
Love solfegeを以前から知っている方からしたらようやく登場という感じでしょうが、
私のような知らなかった人からしたら何でこんな人が埋れていたんだよという印象。
Alea jacta est!も名曲ですけど、こっちはシナリオ補正がガンガンにかかるし、あんみさんの歌が上手すぎるせいで・・・。
最後にmemories are hereが作品を締めてくれて本当によかった。
人によって訳しかたが異なりますが、歌詞がシナリオとリンクしすぎて、
シナリオが曲を高めて、曲がゲームの評価をさらに高めるという相乗効果が半端ない。

・システム
ワイドモニタが普及してないときに生まれたのがもったいなかったです。

・総評
シナリオだけでなく、クリエイター全員で評価を押し上げたエロゲ最高峰の作品の一角。
これよりもシナリオが良いエロゲは出てくる可能性はありますが、
これよりも総合的な完成度が高いエロゲが出てくるとは思えません。
ということで100点をつけさせていただきました。
いつかこれを超えるエロゲが出てきて欲しいですが。






・おまけ
Memories are here和訳
人によって訳し方が違うと思いますので、私が訳した一例を記載しました。
基本的にヒメサマ視点で、シナリオ補正が露骨にかかるように訳しました。


瞳を閉じると泣きたくなんてないのに
勝手に涙が溢れてるのに気づくの

あなたに一番初めに出会った時から
悲劇を迎えると悟ったの
(※1)

あなたと過ごした日々はとても遠く
息を感じられるくらい近かった

その優しい微笑にずっと魅せられて
いつかまたその笑顔を見られるのかしら

終幕でもないし「終焉」なんかじゃ断じてないわ
あなたが悲しむ顔は見たくないの
絶対に忘れないで

私たちは自分の道を作ってるの
いつか終わりは訪れると知っていたけど
気づきたくなんかなかったわ

私のこの想いが、
ジャマするすべてのしがらみを切り開き
道を開くの
(※2)

鼓動は高まり
無数の瞳が私たちに釘付けとなるの

輝く想い出はここに
忘れたくないわ
忘れられるものですか

神様が渡した台本なんて間違ってる
二人の奇跡はハッピーエンドよ

輝きに包まれて・・・

私はカタハネになりつつあるの
あなたと同じね
さあ翼を合わせて大空へ行きましょう
(※3)

同じ時を過ごせた喜び
あなたと一緒にいれたおかげで
幸せに満ち溢れているわ

怖いものなんてあるはずがないの
新しい道への扉だと理解してるわ

そう、優しく包み込んでくれる
雲の広がる大空への扉だと
(※4)

私の想いがあるのは今よ
過去にも未来にも存在しないわ

二人の記憶はここに
儚き忘れ形見よ
あなたが他の道を選ぼうとも、
私が嘆くことはないわ

あなたなら覚えていてくれるはず
私はこの景色をずっと覚えているわ

たとえ遠くへ
ずっとずっと遠くへ行っても
誰にも奪われてなるものですか
想い出はココに・・・

訳注
※1:一目惚れしたときからとでも訳すべきなのでしょうが、EDでのヒメサマとエファの出会いのシーンから控えめな訳し方にしました
※2:ヒメサマの姓の「ドルン」が茨の意味であることから、thornが王妃としてのしがらみを暗示しているものと解釈しました
※3:普通、対としてなる翼はwingsとして複数形にするので、wingはどちらか一方の羽であると解釈し、カタハネと訳しました。
※4:to以下はnew worldにかかるというか、new worldの言い換えと判断しました。