2001年発売のみずいろを2025年にリメイクしたもの。システムなど十分な出来栄えとは言い難いが、令和現在クオリティの立ち絵で、OSなどに不具合なく「みずいろ」をプレイできることに価値がある。 血肉湧き踊るような展開は無く、退屈な、でもかけがえのない日常を再認識できる、そんな作品。(前半はネタバレなしです)
本感想はリメイクについての変更点を自分なりにまとめた上で、感想などを加えたものになります。なお、感想については無印「みずいろ」の感想を加筆修正した内容となります。
1 本作の構成・リメイクされた点(ネタバレなし)
2 作品全体から受けた印象(ほんのわずかにネタバレ)
3 登場人物について
4 みずいろシステムについて
5 音楽について
6 おまけシナリオについて
7 おわりに
1 本作の構成・リメイクされた点(ネタバレなし)
基本的にコンシューマ版、DC(ドリームキャスト)を基本としたリメイクですのでエロはありません、畜生。
確認しようにも動くマシンが無いので、PC版を基準に私が気付いたリメイク部分を雑にまとめます。
◇テキスト
変更なし。
製作側曰くあえて変えていない、とのこと。
ただ24年前の作品ですので違和感のある描写は結構あります、携帯が普及してしばらくぐらいですからスマホはありませんし液晶テレビの普及も途上でした。学校生活も半ドンですから土曜授業ありますしね。
まぁこれを全部修正しようとしたらえげつない作業量になりそうですから、あえて手を付けないというのは現実的な観点から見て妥当な判断でしょう。また良くも悪くも作品の雰囲気も大きく変わるので、それを避けたというところもあるでしょう。
◇ボイス
変更なし。
仮に変えるとしたら…日和は大丈夫、雪希もいけるか…?他のキャラは厳しそう、半分以上のキャラはキャスト変更になるんじゃないかな…。
個人的には変えても良いんじゃないかなぁと思わないでもないですが、原作の雰囲気を一義とするならばキャストは固定でしょうね。イベントに向けた部分もあるかもしれませんし。
◇立ち絵
99%新規絵に差し替えられています。
個人的には子供時代の立ち絵がたまらなく好きですね、近年の秋乃氏(原画)の絵柄は丸みを帯びたタッチになっているように感じますのでロリ絵との相性抜群です。
もちろん青年期の立ち絵も十分に魅力的で、元の絵柄や雰囲気を活かしつつうまくリメイクしてくれたなと思います。
おまけ進藤だけは旧立ち絵ですけどね(単に忘れていたとのこと…)
◇イベントCG
画像サイズの変更(640×480→1920×1080)
その他、塗りや線など現代チックに修正されています。あんまり修正すると雰囲気が微妙になるとの懸念、あとは単純に作業量の面からバランス折衷案に落ち着いたようです。本絵とフル修正の間ぐらいの味付けですね。
個人的にはリメイクならフルリメイクが良いなぁとは思うのですが、これはこれで申し分ない出来栄えなので特別不満は無いですね。
ただこの折衷案修正なのですが、全体の8割の修正に留まっているとのことで、残り2割は解像度修正のみです。
現代風な美麗な立ち絵、修正されたCG等の中に挟まる微修正CGは違和感を覚えるものでしたので、これが意味がある微修正ということならば納得も出来るのですが…。
そういうわけでも無いみたいなので全部の修正はして欲しかったですね……。
◇音楽
大きな変更は無いように思います。音質はわかりません、私の耳はカスなので。
収録曲で追加されているかもしれないものは
・smile
コンシューマでの追加曲だったはず。
・夏はマシンガン
原作発売後の曲なのでPC版にはありません、ちなみに「冬もマシンガン」という曲もありますので興味ある方は是非。
・ジョンスターのテーマ
片瀬健三郎で使われていたかな…?だいたいジョジョネタを入れるときの曲なんですが本作は無いですよね。
◇システム
流石に変更アリアリです。
24年前のシステムですからね、変えなかったら逆にヤバイですよ。
ただ、2025年水準として見てみると十分とは言い難いです。
・バッグログジャンプ
・選択肢までジャンプ
・クリック時音声停止設定
これらは本作未搭載の項目ですが、個人的には必須だと思っているものなのでプレイ時は少しストレスを感じました。
後は
・個別音声調整
・バッグログにキャラ絵表示
・スペースキーや右クリックの動作変更
などもあれば嬉しいですね。
特に右クリック時の動作が「1回:メッセージウィンドウ消去→もう1回:セーブ・ロード・コンフィグ選択画面→さらに1回:通常画面」と遷移するのですが…地味に使いにくいのは私だけでしょうか?まぁこれはこれで良いとしても、別動作割り当てはさせてほしいです。
正直、ねこねこソフトの過去作品(10年以上前)からシステムの大枠は変わっていないように思えるので、どこかで大きくシステムを更新しても良いのではないかなと思ったり(できればですが…)。
◇おまけモード
シーン回想モードはお気に入り場面を探したりと使い勝手が良いシステムなのですが、一部シーンは収録されていませんので注意が必要です。
CGモードは……本作には無いです。原作にはありましたけどね。
仕様かと言われれば仕様みたいですが、最初から搭載しないプランというわけでは無く実装を忘れていたそう。全体的なプロジェクト管理や要件定義が甘かったのかどうか実情はわかりませんが、これは流石に擁護出来ないレベルで、全体的な完成度を損なっていると言わざるを得ないところ。
パッチでも良いのでCG鑑賞モードの実装をしてほしいです。
◇名前変更
名前変更不可(原作ではありましたので、設定画面が消えています)
2001年頃のゲームにはたまにあった、主人公の名前変更システムのことです。今思い返すと没入感というか感情移入を狙っていたのでしょうかね、まぁ名前を変えてもその名前を喋ってはくれませんが。
みずいろでも「健二」という名前を変更することが出来たのですが、本作では変更できないように設定画面が消えています。
あくまで私の自論ですが、この項目がリメイクで無くなったということは、大きな意味があるのでは無いのかなと思っているのです。(もし製作側が単に忘れているだけでなかったとしたならば、ですが)
その理由にねこねこソフトおける「けんじ」という名前の連続性があると思うのです。
みずいろ以降のねこねこソフトの作品には漢字こそ違いますが「けんじ」という名前の主人公が多く登場しており、その魁がみずいろの健二です。
そして2015年に発売された「すみれ」という作品では、「みずいろ」がすみれの主人公にとって大事な作品であり「みずいろの健二」について尊敬しているという、作品を越えた展開があるのですね。
この「すみれ」がきっかけなのか、はたまた別の時点かはわかりませんが「片瀬健司」はプレイヤーが自己投影するための主人公という存在から固有の「健二」へと固定化されたのではないでしょうか。
ここからネタバレ
2 作品全体から受けた印象(ほんのわずかにネタバレ)
作品全般の感想を正直に言わせていただければ「退屈」です。
ヒロインごとに軸となるストーリーはありますがスケールの大きなものではありません。伏線もあるにはありますが大概の人はほぼほぼ気付いてしまうのでは無いでしょうか。
日常描写も淡々というか、同じシチュエーションが多いのですよね。朝は雪希に起こされて、たまに寝坊して、走ったり走らなかったりして学校に到着。やかま進藤をいじって、清香といじり合って、日和をいじって。
そして授業中は9割がた睡眠学習に励むと。
必然的にヒロインとの絡みは放課後と休日に集中するわけです、そこまでの流れが変わり映えせずいささか退屈。
ただ、こんな退屈な日常の繰り返しがねこねこソフトらしいとも言えるのですよね。後になってわかる日常のありがたみ、みたいな感じですかね、病気になって健康のありがたみがわかるとか、両親の離婚で兄妹が離れ離れになってしまうとか……あぁ、あの退屈な日々がかけがえのないものだったんだなみたいな。個人的にこういう描写がねこねこソフトのお家芸みたいな要素だと思っています。
ただ、本作にはそこまでドラマチックな展開は無いので、相対的に「退屈さ」が目立ってしまっているわけです。お話に山場を求めるのであれば、このあたりはちょっとつまらなく思えるかもしれませんね。
3 登場人物について
先述した通り本作に重厚なストーリーは無いです。しかし、登場人物の魅力はこれをカバーして余りあると私は思うのです。個別ルートの内容を踏まえて各ヒロインごとに感想を。
◇無印からのヒロイン
・雪希
わだかまりの過去を乗り越えて育んだ絆、献身的な妹。エロゲーにおける義妹のひとつの解とも呼べるのでは。
彼女は健二にとっての日常、特に家庭の象徴です。雪希に起こされることにより一日が始まり、雪希におやすみといって一日が終わる。
個別ルートでは幼い頃にもらった指輪と日和との約束が彼女を歪ませます。妹であること、恋人であることの狭間で揺れ歪む心。
このルートで印象に残っているところは、健二が自分の恋心の対象として「おれは日和が好きだ」と一時は認めているところですね。
「日和じゃない、雪希が好きなんだ」のように最初からメインヒロイン一途というわけではなく、やはり妹は妹であると一線を引いているように見えます。だから雪希も妹であることから抜けだせない、そうして歪んでいくわけです。
ここから秘めた双方の恋心を認めるようになるきっかけはいくつかあります。例えば幼い頃の習慣、壁のノックとか良いですよね、消えなかった二人の絆みたいで。
ただ個人的には、日和の「雪希ちゃんの気持ち、気づいてるよね」の一言がガツンと来ましたね。普段はほわほわとした彼女がたまに見せる強さ、良い女だなぁと思わずにはいられませんでした。
・日和
作中唯一、片岡とも氏がシナリオを書いているルート。
他のルートと違いファンタジックな要素を含んでいるのが特徴。生霊ということになるんですかね、もしかしたら健二の妄想か何かかなと現実的な解釈をしてみようと試みたのですが、宙に浮くパンツを雪希が認知している以上はファンタジーと捉えるしかないです。
ルートのテーマ的なものを勝手に解釈すると、日常と非日常の対比。
引っ越した後はそれなりに普通に暮らしていたであろう彼女が交通事故で一変、生死を考える局面になるというところなどがそれです。
健二のところに化けて出てくるのはいささか唐突ではありますが、死を目前にして父に聞かれた「やりたいこと」を考えてみたときに答えを出せなかった彼女が深層心理で願った答えなのかなと思うのです。
多分、幼少期の頃のことはほとんど忘れていたと思うのですよ。
「そういえばそんな男の子もいたような…」というレベル、でも心の中では確かに残っていた。だからあのクローゼットを縁として生霊の彼女は生まれたのでしょう。
彼女のルートで特に印象的な台詞は
「わたし…普通が好きだよ…」
生死をさまよって、生霊になって、普通のこともできなくて。だからこそ「普通」の価値が見えてくるのですよね。
ただ、惜しいなと思うところは幼少期のエピソードが乏しいところですね、サッカーをやめて日和に付き合ったらもうルート確定ですから。もう少し積み上げるものが欲しかったなと。
……ここまで書いておいてなんですが、実はそこまで日和ルートは好きではないんですよね。ファンタジーが嫌いなわけでは無いんですが、みずいろという作品全体を通して見るとなんだか浮いているといいますか。他のヒロインルートが結構好きなので、余計にそう思えるのかもしれません。
最後に、他ルートの日和について。
基本的にクラスメイトとして健二にいじられる印象が強い彼女。彼女がいるとなんだか場が和みます、”日”常を”和”ませる存在ですね。この他ルートの日和、日常の象徴がいるからこそ彼女がいない日和ルートではその価値が際立つと思うのです。
まさに「失って初めてわかる大切さ」ですね。
・進藤
ルートによって2つの顔を見せる柔と豪を使い分ける後輩、進藤。みずいろシステムの影響を最も強く受けているヒロインですね。
やかま進藤が攻略できないのはバグ(FDなどで攻略対象にはなります)
ストーリー自体は伏線を主体とした勘違いモノですね。子供の頃の恋心、ちょっとしたいたずらが人格形成に与える影響力の強さ、健二の選択の重さを感じられます。
とはいえ好きな男の子の理想に近づくために性格まで変えようとする彼女の頑張りはいじらしくて可愛らしくて、やっぱり大好きですね。
他のヒロインってストレートな恋心というよりは家族愛だったり友人関係からの移行的な恋愛じゃないですか。青年期になり自覚したこの気持ちを愛と呼んでいいのだろうか……みたいな。
でも彼女は違う。“好きだから”が幼少期からあって、その気持ちが彼女を変化させて、理想の男の子への思いを募らせて燻ぶらせて。
そして再会した王子様、でも自分は仮面を被ったままなのですよね。
“むつき”が好きだったレーズンを何とか我慢して食べて、“むつき”が得意だったクレーンを不安げに挑戦して、やっぱり駄目で。見ていて切なくなります。
そして極めつけは健二の家で愛を確かめ合うシーン。
抱きしめて、髪を括るリボンを撫でて、「むつきちゃん…むつきちゃん…どうしたんだ、むつきちゃん…」
いや、ひどい。もうやめてくれよ…と思いましたね。
まぁ、あそこで受け入れたらどうなるのか…ということも気になるところではありますが。
さて、このルート全体はお話自体そこまで捻ったところはないですし、伏線もすぐに気づくでしょう。しかし他ルートでのやかま進藤、そこに与えた主人公の選択を合わせて見ると堪らなく好きなルートになるんですよね。
単体なら大人しい後輩ヒロイン止まりかもしれない彼女がここまで魅力的な存在足り得るのは、みずいろの様々な要素があってこそなのだと感じました。
・清香
テンプレツンデレ、対等に言い合える気安い関係性。ヘリコプターかガンダムかは不明だけれどもリボンの見た目のインパクトに脱帽。絶対に邪魔ですよね、後ろの生徒が可哀想に思えます。
彼女は日和と同じくクラスメイトとして学校を象徴する存在です。
日和が“和み”というような存在であったのとは異なり、ほんの少しのキツさと楽しさを担当している気がします。キツさといっても悪い意味ではなく、お互いをいじったりディスったりと気安い会話ができる。いわゆる気の置けない関係ですね。
絶対ではないですがこういうポジション、本来なら“悪友”が担当するべきものだと思うのです。本作では友人として南山が用意されてはいるのですが、登場場面が乏しくあまり印象に残りません。えちぃ本を貸し借りするぐらいでないでしょうか、彼の目立った活躍は。
なのでそういう要素は自然と清香に割り振られているのでは無いかなと思うのです。
さて彼女のルートを簡単にまとめると継母との関係改善、そして思い出の中の実母からの脱却です。
そのキーとなるアイテムに砂絵があり、完成させるために主人公を巻き込むという流れですね。健二と共に、砂絵を誰のために作っているのかということを認識していくストーリー展開。普段は勝気な彼女が見せる弱気な表情はとても健気で可愛らしく感じました。
ところでこの巻き込む、泊まり込むという理由付けのために“砂絵が得意であった”という過去のエピソードを利用しているわけですが、ちょっと理由としては弱い気がするのですよね。私が砂絵を嗜んでいないために共感しにくいこともありますが、砂絵である必要性みたいなものが見えなかったと言えますか。もう少しポピュラーな題材のほうが受け入れやすかったのではないかなと思ったり。
ところでこの砂絵制作エピソードは清香ルートのみではなく他のルートでも行われていることが読み取れます。健二には直接明かされていませんが、清香が日和を伴って小野崎家に帰る描写がそれでしょう。砂絵はどのルートの清香にも共通する大事な要素のはずですから、他のルートでもこの設定が生きていたことは嬉しく思えましたね。
ただその場合、砂絵は未完成に終わっている気もしますが……。
・麻美
みーちゃんを失ったぼっちのあさみ姫が現状を変えたいとあがく、小さな挑戦と冒険の物語。
彼女になぜ友達がいないのかはわかりません、描写されていませんから。
イマジナリーフレンドに傾倒したから友人ができないのか、友人ができないからイマジナリーフレンドに傾倒していくのか。みーちゃんの代替として、絶対にいなくならない存在として生みだしたのか。
はたまた別の理由があるのかわかりませんがイマジナリーフレンドは彼女にとって大事な存在であったことは確かで、「さようなら」と別れを告げることは並大抵の苦悩ではないはず。それを淡々と、いつものマイペースで、でも少し愁いを帯びて告げるところはグッときましたね。
のんびりした様子は一見主体性が無いように見えますが、なんだかんだここぞというところでは強く主張するところも好きです。
あと健二との相性も良いと思うんですよね。
健二って昔の主人公らしく優しさはあるけれどもちょっと傲慢というか、我が強いと思うんです。後輩や同級生相手に対する彼を見ると少し押しつけがましく感じると言いますか。
それが麻美相手だと先輩だからほんのわずかに敬意を払いつつ、でも無遠慮さは変わらず。そして健二の強引さが吸収されているみたいに思えるんですよね、ふにゃふにゃした麻美の前では暖簾に腕押し、みたいな。
うーん、力うどんみたいですね(適当)
さて、みずいろシステムから見ると、彼女のルート分岐は誰とも結ばれなかった結末。
つまり幼少期の選択により彼女は何も変化しない、もしくは変えられないということなのかもしれないです。
彼女の過去は彼女のものであってそこに健二の立ち入る隙はないと考えると、このルートの特異さが際立つとともに彼女の強さが感じられるのです。
◇コンシューマ版(DC、PS2)から追加されたヒロイン
・冬佳
大学生の家庭教師という設定。原作が年下1、同級生2、年下2の年齢構成ですので、加える年齢としては無難。
私の感じた冬佳ルートの印象は「みずいろらしくない」です。みずいろらしい、などという括り自体私の主観でしかないのですが一応理由として、関係性の希薄さと登場人物の性格がそれです。
過去編では冬佳に出会っていませんので、当然冬佳の性格の変遷などに健二が関わる要素はありません。そういう意味では麻美と同じ「過去編で誰とも結ばれなかった結末」が彼女のルート分岐条件です。
しかし麻美は学校という居場所を愛していましたし、清香や日和というクラスメイトとも仲良くするなどコミュニティの中での関係性もありました。健二と結ばれて、健二を中心としたコミュニティの中で成長していったわけです。
では冬佳はと言いますと、基本的に健二とのマンツーマンの関係性に留まります。雪希とはそれなりに会話などもありますが、冬佳自身が雪希のことを“依頼主”として一線を引いていますのでそれ以上の関係性の進展は無いでしょう。
つまり冬佳ルートは、眠たくなる程にのんびりとした、優しい仲間たちの中で繰り広げられる“みずいろ”の世界では無いのです。
加えて、冬佳自身や周りの性格もそれを強く意識させてきます。
冬佳の言動は基本的に正論、昨今で言うロジハラになりかねないレベルに高圧的ですが。
例えば出会いの場面。傘を間違えた健二が悪いのですからそれを正し、自己の容疑を否認する健二を糾弾することは当然です。
勉強に対する姿勢も、家庭教師を依頼した雪希に対する向き合い方も、全て真っ当な指導の範疇です。しかしあの言い方では健二が反発するのは当然でしょう、というか反発させるためにあの性格付けをしているように思えます。
健二の性格も本編の彼とはどうにも違うのです。あんなに何が何でも食ってかかるような性格だったでしょうか?
多くのルートでは健二に物申すヒロインはいなかったのでそういう場面は少なかったのかもしれませんが、清香ルートでいろいろと作業を押し付けられたときの健二はもう少し聞き分けの良さと優しさがありました。「やれやれ、しかたねぇな」のような、昔懐かしのやれやれ系エロゲ主人公です。
冬佳ルートの健二にはそういうところが無く、なんだか幼稚です。そして冬佳の指導の正当性に気付くのはいいのですが、その流れがあっけなさすぎる気がするのです、詐欺やマルチに簡単に騙されてしまいそう。
冬佳に正されて、冬佳の言うことに流されて、冬佳に好意を寄せて、拒絶されて悲しんで。幼馴染の清香や、妹の雪希、再会した後輩とは違い、出会ったばかりの家庭教師にですよ?
一応擁護もしておきますが、こういうキャラ自体は嫌いではないです。
ただ、“水”のなかに浮かぶ“油”のように、みずいろという作品の中では彼女は全く溶け込んでいないので、どうにも好きにはなれないのです。
・新日和
通称「新ぽん」、新ぽんこつということですね。
家族と共に引っ越さず片瀬家に居候するという経緯を経た、妹的ポジションの日和の物語。片岡とも氏お得意の「あり得たかもしれない可能性」です。
この変化は幼少期の健二の選択によりもたらされたもので、みずいろシステムを実に有効活用したアナザールートと評価できます。
新日和はぽんこつでありつつも家事が出来るようになり、反面雪希は家事は出来ないようになり、献身的に兄に尽くす妹ではなくなりました。「片瀬家」というコミュニティはこのルートで大きく変化しているわけです。
また学校というコミュニティの変化も面白いですね、清香のことを「小野崎」、清香からは「片瀬君」「早坂さん」など関係性の変化が見て取れます。
さてこのルートのストーリー展開を雑にまとめると、引き伸ばしにしていた引っ越しというものに対して日和が悩みながら答えを出す物語ですね。
本来の日和ルートは「別離」という要素に「事故という不条理」を加えて大切なものに気付く流れでしたが、新日和では「積み重ねてきた同じ時間」の中で日常の価値を再認識し、別離してもその価値を損なわず維持していけると判断したのだと私は思っています。
また別離を経ることにより家族から恋人へと関係性を変化させていくことも出来るようになったわけですから、距離が離れることにも一定の価値があるのですよね。
最後に、離れていく距離、積み重ねた時間という要素をOP曲「みずいろ」と絡めて少し。
この要素は歌詞中、「守りたいものや夢も 距離と時間が消してしまっても ぎゅっと」という部分に通じるのではないかなと私は感じていて、この新日和ルートはみずいろという作品を象徴するものだと思うのです。
4 みずいろシステムについて
幼少期の選択により未来の関係性が変化するこの構成は「みずいろシステム」と呼ばれ、この後のねこねこソフト作品に受け継がれていきました。
このシステムの面白いところは、登場人物の性格や関係性がガラリと変化しつつもそれを納得させてくれるところ。
わかりやすいところでは進藤ですね、やかま進藤おとな進藤と性格が一変する様子は最初こそあっけにとられますが、幼少期パートを見ればこの変化に納得できます。彼女の人格形成は「おとなしい子のほうが好き?」という問いが発端になっているわけで、まさにみずいろシステムによるものです。
この変化、主人公の選択が為した結果と考えるとむしろ業が深いとまで思えるのですよね。
先と同じく進藤を例に挙げますが、彼女の本来の性格はやかま進藤であったはずで、それを変化させるだけさせてそのままお別れですよ。もちろん健二は悪くないです、だからこそ業が深いのです。
進藤は健二との出会い、問いへの答えが無ければ、活発な彼女でいられたのでしょう。
雪希はあの指輪が無ければ、日和との約束がなければ縛られずただの妹でいられたはずです。
日和はどうなんでしょうね、マクロ的に見れば引っ越さず事故に遭わず平和に過ごせたと見ることができるかもしれませんが、まぁこれは穿ちすぎでしょうか。
その観点から行くと、新日和は健二によって救われたのかもしれませんね、それはそれで別の悩みを生むのかもしれませんが。
清香は……正直あまり変わらないと思います。両親の離婚は変わらないでしょうし、砂絵を作り続けることも同じく。健二と出会い砂絵を作るほうが予後が良い気がします。
麻美はみずいろシステムから外れているのは先述した通り、彼女はみずいろシステムという運命の業とは違うところにいる気がしますね。
冬佳は…もう全然みずいろシステム関係ないです。だからみずいろらしくないって感想を先述したわけですし。
あとは制作面に目を向けて考えてみると、複数ライター作品との相性が良いんじゃないかなと。
例えば複数ライター作品で、個別に入って主人公やヒロインの性格が変わったなとか思うことがありませんか?ディレクターがうまく調整すればマシにはなるかもしれませんが、必ずしもうまくいくものではありませんし、それはそれで良さを潰すことにもなりかねません。
みずいろシステムはそれを許容しつつ、納得させることができるシステムなのです。
5 音楽について
まず主題歌のみずいろ、掛け値なしに素晴らしい。
歌詞は作品にマッチして、何度聞いても飽きない名曲だと個人的に思います。オルゴールバージョンも最高。
BGMは粒ぞろいで、曲と登場人物、シチュエーションがしっかりと思い起こされます。キャラのテーマソングは明るめの曲が多いですが、BGM全体でみると少し寂しげなマイナー調の曲が多い気がしますね。
特に好きな曲をいくつか。
・鳴る高架線
響く低音はまさに鳴る高架線のよう、高音で奏でられる笛のメロディーは吹きすさぶ寒風のようで。二つの音が合わさるこの曲は、吹きすさぶ寒風に鳴らされる高架線を見事に表現していると思います。
・いっしょに
進藤のテーマソング。
明るい曲調の中に少し寂しげな雰囲気を合わせもったこの曲は実に彼女らしいと思います。後発のCDなどに収録されているのですがボーカルバージョンもあります。
・スカーレット
切なくて、でもキラキラとした、大切な曲。
後発作品でボーカルバージョンが作られています、アレンジも多数。
6 おまけシナリオについて
・やかまサイドストーリー
“2003年:バルドねこ大会の賞品として用意しました”とのこと。
※バルドねこ大会:バルねこフォース(ねこねこファンディスク2に収録)というアクションゲーム、戯画の出したBaldrForceの公式パクリゲームの大会。
この大会で優勝したユーザーさんがやかま進藤のシナリオが欲しいと要望を出して製作されたもの。ライターは片岡とも+東トナタ。
「しょんぼりファンクラブ おかえしCD3」に「~さつき~」というタイトルで収録されていたものが原版ですね。
・探偵健三郎
“2002年:実質シリーズ最初ドリキャス版より”とのこと。
一応ドリキャス版より先に発売された「ねこねこファンディスク」の中にも「探偵 片瀬健三郎」というタイトルで収録されています。ちょっと内容違うと思うんですが…調べられていません><
ちなみにDC版及び本作では2話しか収録されていませんが、後発のPS2版では3話まで収録されていたはずです、参考までに。
あと他に何かのおまけにも収録されていたはずなんですが見つけられませんでした。
・ヒロミさとう
初出、完全におふざけ、こういうの大好きです。
プレイ時間は正味20分も無いかな。キャラデザ可愛い、SD絵も可愛い。
7 おわりに
製作時間の少なさが理由なのか、CGの修正具合の非統一、システム全体は古く必要十分を満たしているとは言い難く、CGモードに詰めの甘さが残るなど微妙に感じるところも多く手放しで褒められる完成度ではないです。
とはいえ、令和の世にみずいろという思い出の作品をリメイクしてくれたことには嬉しさしかありません。年月を経た再プレイにより見えてくるものも多くありましたし、やっぱり自分はみずいろが大好きなんだなと再認識できたことも嬉しかったですね。
出来れば多くの人に好きな人にやってほしくはあるんですが、惜しむらくは手の入りにくさ。
公式通販という販路の細さ、ショップではソフマップが売ってはいますが豪華版のみ。新規ユーザーがやってみようかなという入り口には到底遠いわけで、もしもDL版があれば気軽に手を出せるんじゃないかなとは思うのですよね。
退屈な作品かもしれない、プレイ中に寝てしまうかもしれません、でももしかしたら良さをどこかで感じられるかもしれない。今じゃなくても、1年後、5年後、10年後にふと思い返してやってみようかなと思ったり。
もしかしたら「退屈な普通も、案外悪くないかも……」なんて感じるかもしれない。
そんなときのために、手に取れる環境を構築しておいてほしいと願いを込めて、本感想を終わります。
ここまで読んでくれた奇特な方、ありがとうございました。
「それじゃあ…さよなら…」