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HARIBOさんのハミダシクリエイティブRe:Re:callの長文感想

ユーザー
HARIBO
ゲーム
ハミダシクリエイティブRe:Re:call
ブランド
まどそふと
得点
80
参照数
228

一言コメント

ハミクリ無印で悪役ポジションだった莉々子、不器用な彼女の裏側を深堀して新たな魅力を付与した作品。 莉々子も魅力的ではあるがサブキャラの活躍(特に詩桜)も良かった。 ハミクリ無印好きなら間違いなくおススメ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想




ハミクリはいわば凹で、ハミクリ凸と合わさることで完成を迎えました(個人的意見)

その点から見て本作は蛇足になってしまうのではないかなという懸念が私の中にはありましたが、結論として申し分のない出来栄えだったと思います。プレイボリューム8時間程度(私調べ)で、個別ルートとして見た場合フルプラ相当かそれ以上のものでした。

サブキャラの一人でしかなかった莉々子という、どちらかといえば敵役であった彼女の魅力を深堀して独自のストーリーを付与していく流れは見事。

特にライターの特徴でもある“説明が非常に細かいテキスト”はプレイヤーが彼女の背景を想像する前に、莉々子という女性の情報を畳みかけてくるのです。多分もろもろの設定は後付けされたところも多いと思うのです、結構強引な描写ですし。しかしそれでも良いと思わせてくれる、むしろ良いじゃんなんて思わせてくれる手腕はこのライターならではです。

例えて言うなら、レストランで注文の品を食べたうえで、追加で知らないメニューが出てきた感じでしょうか。
「こういうのもあるんですよ、うちの故郷の名産なんです。美味しいでしょ、食べてみてくださいよ」なんて、料理の解説を畳みかけられているような。なんだか莉々子みたいですね。



以下、項目に分けて感想を。




〇ストーリー全般について


ストーリーの流れはハミクリ本編の詩桜ルートに近いように思います。
詩桜について無印ハミクリでは智宏に対して辛辣な言動が多く、彼女を苦手だという方を多く見受けました。智宏に強く当たる背景などは凸で開示され、詩桜のイメージはかなり改善したのではないかなと個人的には思っています。

これについて莉々子も似たようなことが言えると思うのです。
原作での彼女の役割は同調圧力をもって各校の生徒会をまとめ上げる、雑に言ってしまえば敵でした。特にシンポジウムで華乃とあすみに強く当たるところ、また不登校についての無理解などは主人公サイドにとってみれば看過できない要素です。
文化祭で生徒会の出し物を行うという目的が付加されるのも彼女との対立があってこそでしたし、その中でヒロインとの仲を深めるのがハミクリ無印個別ルートの基本形です。

そんな敵である莉々子が智宏とどう関わっていくのか、そして悪印象を持っているであろう生徒会メンバーとの関係性はどうなるのかが物語の重要なファクターでしたね。


ストーリーを大きく分けると、まず同人誌を起点とした智宏と莉々子の逢瀬。
文化祭の出し物を何とかできないかという打算を少し秘めて莉々子と向き合ううちに彼女の背景や性格に触れて、だんだんとお互いが惹かれていく流れ。
関係性が深まり信頼関係が構築されたところで智宏から莉々子の「同調圧力」について苦言を呈し、莉々子に自省を引き出させたところはなかなか策士だなぁと思えました。無意識かもしれませんけどもね。

次に莉々子がダマ学に訪れるところ。
莉々子が学園祭から手を引いてめでたしめでたし……とはならず、無駄に実直な彼女は謝罪に乗りこんできました。水面下で動いていた行為を白日の下に晒されたわけで、詩桜と妃愛はともかく他の生徒会メンバーにとっては寝耳に水ですからある意味修羅場。
案の定すんなりとはいかず、特に華乃からの指摘は厳しいものがありました。個人的には莉々子に苦言を呈するというよりも、智宏を会長として認めている描写にぐっと来たんですが、このあたりは後述します。

後は聖家・大森家、莉々子との仲を深めつつ、生徒会メンバーと衝突しつつも交流していく流れですね。


以下、登場人物に絡めて感想を少々。






〇聖莉々子について


「悪役令嬢」だそうですね、「悪役」ではあっても「令嬢」というイメージはそこまでなかったのですけど、父親が政治家だったということでひとまず納得です。本来、人様の娘はすべからく「令嬢」らしいので誰の娘であっても令嬢で良いみたいですけど、なんとなく偉い人の娘のイメージが私の中にありましたので。

この父親や家族、そこに連なる地元という存在が彼女を語る上では欠かせないものだと私は捉えています。



・莉々子のハミダシについて


まず作品のテーマでもある“ハミダシ”について。

他ヒロインズ、妃愛は声優、華乃は絵、あすみは音楽及び配信、詩桜は小説、アメリはモデルによる知名度など、自分の才能や努力に基づいた能力を持つことが描写されており、それが彼女らの個性です。
反面、作中で描写される莉々子の強みは“父親”に起因するものがほとんどであるように見受けられます。もちろん様々な分野で非凡であることは言及されていますが、作中で彼女が登場する際に描写される他校生徒会への影響力や同調圧力は“政治家の娘”でなければ発揮し得ないものです。

例えばアメリの両親が娘の活動にNOを告げたとして、彼女のファンはそれでアメリを邪険にすることはないでしょう。両親思いの彼女はモデルをやめるかもしれませんけれどもね。
他ヒロインズはそもそも本名を出していないので論じるに値しません。

もしも莉々子の父が「娘は私と関係ない、莉々子の言葉を気にしなくてよい」と明確に告げたのであれば、とりまきの生徒会の面々は唯々諾々と莉々子に従うでしょうか、少なくとも私にはそうは思えません。
そういう意味で、彼女のハミダシは他ヒロインズとは全く異なると思うのです……というか、別にハミダシてはいないと思うのですよね。
あすみのように父親の影響を受けないジャンルで活躍するわけでもなく、非凡な努力で各種能力は高水準ではありますが結局父親の影響力を抜け出せていないのですから。

あえて言うなれば非常に高い水準の、家柄の良い「普通」でしょうか。
しかしこの普通は智宏と対になって見るととても相性が良いように感じるのです。

というのも、まず他のヒロインズは自分たちのクリエイティブな活動を手伝ってほしいとは思っていないと思うのです。
よしんば思っていたとしても自分と並ぶほどのものは求めていないし、できないということは理解しているでしょう。手伝ってくれる、興味を示してくれることは嬉しいけど本当に求めているのは支えてくれること、横にいてくれることであり、智宏の存在は安らぎのような、内助の功のようなものを求めているのではないかと。

もちろん莉々子にもそういう部分はあるかもしれませんが、最終的に彼女は智宏を支える立場になるのではと、私は想像というか期待しているのです。

なぜならば本作で智宏の将来像は「総理大臣」と語られているから。
荒唐無稽と笑われてはいましたがあり得ない未来ではないでしょう、なによりそのための力は彼女の一番の強みである“父親の影響”が与えるもので、それの選定は莉々子に委ねられているのです。
昔気質な言い方をするなら「自分の選んだ男を王にする」ということですね。

とはいえ、莉々子自身が総理大臣になる未来もないわけではありません、生徒会長だって自分の意志でやっているわけですし。なぜそうしないのかは不明です、単にアナウンサーになりたい、興味がないというだけなのかもしれませんね、もしくは自己の才能を自覚して分を弁えているのか。

これは私の想像かつ妄想なのですが、両親の姿を重ねているんじゃないかなと思うのです。聖家はなんだかんだ仲が良いようですしね。

あとはそうですね、彼女自身が言っていた

「ジェンダーレスが浸透しつつある世の中で、私はそういった男性らしさが嫌いではありません。私自身、女性らしくありたいといった思いがありますし」

という言葉から想像するに、昔ながらの男女像みたいなものが彼女の中にあるのかもしれないです。

まぁなんにせよ、なんだか頼りない和泉総理の横で厳しく支えるファーストレディ莉々子という光景が私は見たいです。



・過去と人格形成


彼女は被害妄想が強いというか、気にしているワードを言われると過剰反応してしまう性格なのでしょう。

背景には幼少期に地元から出てきて振る舞いを「矯正」されたことがあるのだと思います。
そもそも矯正とは変化を他人の影響、意思のもと行うことですが、逆に言えば変化が強制でなければなにも問題はなく、本人が望んだ変化はむしろ成長と定義されることすらあるのですね。

莉々子のそれは親の事情に付き合わされた結果であり、強制です。本人の強靭な精神力により乗り越えることが出来たわけですが決して美談ではないでしょう。
大好きな祖父母、地元に根ざす言葉(=方言)ではなく綺麗な言葉使い(=標準語)を強制された。本人の意思に寄らず、彼女のアイデンティティは漂白されたのです。

方言を出せば笑われたのでしょう、厳しく嗜められたのでしょう。
そのような中で方言を出すことは「地元を否定」されることと同じ。
自分のミスで大好きな地元が馬鹿にされる、人によっては地元を嫌いになることもあるかもしれませんが彼女はそうはならなかった。彼女は彼女の大事なものを蓋して守ったのです。

それに対して漏れ出たワードを捉えていじることはひどく残酷な行いです。
もちろんいじる人間はそんな背景など知りませんし、客観的に見てそこまで怒るようなところでもないのです。しかし彼女にとっては10年以上にわたり守り続けてきたのですから、ああいう反応になるのも理解はできますけどね。

でもそんな彼女が

「王子様は女の子をいじるものですから…」

といじりを照れながらも受け入れるところは、彼女の根底に智宏が触れた瞬間でした。当然その時の彼女の言動も本当に可愛かったです。


また、この背景は彼女のお嬢様然とした立ち振る舞いの理由にもなっていると思うのです、なまじ方言に近しい標準語では彼女の地が出かねない。だから極端に綺麗な言葉遣い(=お嬢様言葉)へと矯正し、その結果ステレオタイプな言動は生まれたのだと。
無印の段階では単なるキャラ付けとしか見られなかったそれがこうも深みのある設定に変わるのは実に見事でした。

もちろんこれは私の妄想ですので、そんな背景は無いかもしれないし、あっても後付けなのかもしれません。しかし私には確かな説得力をもって莉々子という登場人物の魅力が伝わってきたので、素晴らしいと言う他ないのです。



・家族について


他ヒロインと比較した莉々子の特異な点に“家族”があります。
アメリは少し毛色が違うのですが、他ヒロインズは基本的に実家や親というものと距離があります。険悪というほどではありませんが少なくとも積極的に関わろうとしていない、だからハミダシているともいえるのですけれども。

その点、莉々子は両親と仲は悪くありませんし祖父母との仲も良いです。
ただ父母ー祖父母間の軋轢に心を悩ませている立場であり言うなればハブのような立ち位置ですね、父母ー祖父母間は莉々子を介さなければ今一つコミュニケーションが取れない。しかし彼女だけではどうにも決め手が足りない、だからこそ智宏の存在が活きてくるのです。

そもそも家族というものは和泉家にとって神聖なものです。
失われた、もう戻らない幸福の象徴であり、何に代えても守らなければならない聖域。
双方が嫌い合っていたり無関心なら外野がとやかく言うことではないのですが、誤解から生まれた軋轢かつそれを解消したいと願っている大事な女性がいるのなら力になるべきというのは和泉家の家訓から見て外れてはいないでしょう。

これは智宏だけではなく妃愛も同じです。

「力になれるなら行ってあげないと!家族は何よりも大切なので!」

九州に赴くことを悩む智宏の背中を押す妃愛の一言。


ただ和泉家と聖家、大森家が親戚関係になったとして、妃愛の居場所はどうなるのかなというのは正直思うのですよね。

私的な感覚ですが、和泉家は兄が妹に依存しているわけではなく、妹が兄に依存している関係性だと思っています。
世話を焼きたいのです、食事は一緒にとりたいのです、それが家族としてのルーチンであり儀式なのですから。そうして両親を失った新生和泉家は維持されてきた。
しかしそれは歪であり、いつまでもこのままではいけないということは妃愛自身が分かっているので、どのルートでも一歩踏み出そうとする智宏の背中を押さざるを得ないのです、実に切ない。

他ヒロインは基本的に智宏ーヒロインの1対1の関係性なので妃愛の立ち位置は想像しやすいものです、しかし莉々子と付き合う上ではもっと大きな“家族”というものに向き合わなければならない。特に政治家の家族などというものは一般的なそれとはかけ離れたものでしょう、言い方は悪いですが親族ひとりひとりの素行なども無視できない。

そんな家族としての価値が最も高いこのルートの中で妃愛はどこにいるのかなと、無駄かつ必要のない悲壮な想像をしてしまった次第です。



・可愛らしさとか魅力について


明日も来てほしい、感想を文章でほしい、手料理を食べてほしい……。
逢瀬を重ねていくうちにどんどん要求が過大になっていく莉々子は見方によっては少し重くてメンドクサイ女性ではありますが、こういう年頃かつ初めての恋愛であればまぁ仕方ないですよね。むしろ等身大の、恋愛に憧れるロマンチストな少女として見れば共感すら持てます。誰しも最初は幼稚で盲目なものでしょう。

また、もともとが四角四面な印象だったので、少し崩すだけでいろんな表情が出てくるのはいいですね、だらックマを手にした時の笑顔は素直で可愛い。
個人的にはテンパったときのグルグル目がお気に入りです、ホント可愛い。

アへ顔は個人的には好きですが、人によっては苦手に感じる気もするので単発で終わったのはいい塩梅だと思います。
たまに出てくる九州弁、熊本弁?も可愛いですね。

あと、先述した「女性らしくありたい」という思いからか、好きな男に迷惑をかけまいとする描写がいじらしくて。
初体験、中出しの後にもしもの事態を考えて泣いてしまい詩桜に助けを求めるところなど切なくなるシーンでした。

「泣いていたことは智宏に言わないでほしい」と頼む莉々子がまた切なくて、胸を打つのです。

というか、初体験のあとぐらい一緒にいてあげてほしい、しかも莉々子から「離れたくない、朝までいてほしい」と言われているのに。
和泉家のルーチンが彼を縛っているのはわかりますが、それにしてもさすがに智宏が悪いと言わざるを得ません。



・エロシーンについて


どちらかといえば耳年増が多かったヒロインズの中では珍しく性に無知なキャラでしたね。個人的にはそこまで無知なやついるか?という思いがあるのであまり好きではない要素なのですが、智宏の押しの強さと莉々子の押しの弱さが相まってサクサク進んだので問題なし。
あとは華乃による性教育の効果も大きいですね、むっつり華乃ちん可愛い、ありがたい。

個人的にぐっと来たことろは最初のシーンでベッドに向かうところ。

「ドアだけが開けられなくて……お願いしても良いでしょうか」
「あ、はい。お任せください」

怖がったりでちょっと及び腰だったのに、そこは言うことを聞いて開けてくれるんだなぁと。本当に可愛い。


さて、エロシーンの内容について一点。
フェラシーンでのイラマハンドルとその後のツインテハンドルを採用してくれたことは非常に嬉しいです。特にツインテハンドルは凸で華乃にねだられても実践されなかったところですから作品を越えて華乃から莉々子へ引き継がれた想いと言って良いでしょう。

しかしながら行為が浅いところに留まってしまったのは非常に残念です。
分かっています、仕方ないのです、初めてのフェラシーンでイラマに移行するわけはないのですし、ツインテを強引に引っ張ることもないでしょう。

その後のバックで本番、あえてツインテを離さず腰の動きだけで挿入を試みる、これは智宏のハンドリングテクが見られるのかと期待してしまいましたが……まぁこれも優しく終わりました。

無理を言っているのは承知ですが、できれば、できれば、該当シーンを後半に配置するとか、おまけモード等に配置するなどして、しっかりとイラマやツインテをハンドルとして使いこなせるようにしてほしかったです。



〇その他ヒロインについて


「君はもしかすると、君が自然に歩いていればたどり着くはずだった恋の道から、ハミダシてしまったのかもしれないな」

詩桜の言葉、華乃やあすみと付き合うと思っていたが意外だ、というところです。
実際ヒロインズからの好感度は高く、ことあるごとに智宏を助けてくれます。彼女らのサポートが無ければふたりの関係性はここまで進展し得ないでしょう。

記憶に残っているところについて少し言及します。



・妃愛に学園祭の取り仕切りを任せるシーン


全部妃愛に任せるよと頼まれ一旦は引き受けようとしますが「お兄といっしょに、みんなと相談しながら決めたい」と周囲の人間の感情を慮り、そして智宏自身のためになる方向へと誘導します。

実際に妃愛の想像通り、また後に詩桜にも言われる通り、あすみや華乃らのように智宏の行動で救われた人間は智宏に恩返しをしたい、助けになりたいと思っていたのでしょう。智宏に言われずとも自主的に資料を作成しているところからもこれは容易に察せられます。

そこを妃愛は察していたからこそ「全部任せる」という智宏の頼みにYESとは言えなかったのでしょう。

そしてこれを指摘する智宏に対して

「間違ってなんかないさあ」
「お兄が自分で決めて自分で動いたことだもの」

と少しおどけながらフォローする。
ホント、智宏に対する優しさが溢れてますよね……。

しかしこの会話の後に詩桜センパに会うため夜道を行くのはなんだか無印詩桜ルートの自転車事故を彷彿とさせてきます。ライターさんはこれ狙っているのだろうか…?

相談を受けた詩桜も優しいですが流石に妃愛ほどではなく、智宏が「誰にも相談せず莉々子と話をつけた」ことを間違いであると真正面から告げました。私的なものと公的なものは分けて然るべきだと、至極真っ当な指摘。

まぁそう言いつつもふたりの関係を焚きつけて煽ったのは詩桜なのだからフォローはあって然るべきなのでしょうけどね。



・莉々子がダマ学に謝罪に来るシーン


ちょっと暴走気味に謝罪する莉々子に対し、まずは華乃。

「私たちの会長は絶対に和泉で、そこは全員一致で認めてるんで」
「和泉は自分で決められる男子……人間なんで」
「素直に格好いいなって思いましたし」

と智宏が千玉学園生徒会にとって、自分にとって大事な存在であると明言。

そして「謝罪は和泉と聖さんの間の出来事です」と区別する。

“和泉が謝ってくれたこと”に納得し、莉々子の謝意は“和泉の謝罪”の中にあるものを受け取るという明確な線引きを感じたのですよね。
これは確かに真剣で誠実ではありますが、ある意味女性としてのプライドのようなものを感じたのは私だけでしょうか。

「私と智宏さんの間の出来事……私は部外者で、無関係な人間という意味でしょうか」

莉々子の問いに華乃は否定はしますが、まぁ当たらずとも遠からずな質問なんじゃないかなと個人的には思うのです。

そしてあすみのぶっこんだ質問。。

「もしかして和泉会長のことが好きなんですか?」

応える莉々子も大概ですが、これに対して恥をかかせないように「俺も好きかもしれません」と言ってのける智宏はまぁ、確かに格好いいかもしれないです、華乃の言うとおりですね。
ただこの場面でこれを聞かせられる面々は気まずいでしょう、特に華乃はなおさら。
だからこそ智宏もすぐフォローに向かったのでしょうかね、うーん、そう考えるとやっぱり気が利きますねぇ。



・詩桜について


詩桜は本作全般を通して非常に優しかった印象。たまに厳しい言葉を言いはしますが突き放すことはせず、最後までサポートしてくれていました。
先述した通り最初に煽り焚きつけた手前ということがあるのかもしれませんが、それにしても手厚い助力に違いはないでしょう。

三浦大根いじりに怒らず乗っかってくれますし、適時必要な情報を与えて助言してくれる。またさりげなく……あんまりさりげなくはなかったですが智宏と莉々子をふたりにさせようとする。
暴走する莉々子を嗜める際にも、会長である智宏を立てた上で抑え込んだりと八面六臂の大活躍ですよ。
これが無印からあったら不遇ヒロインなんて呼ばれなかったのに…。

そんな彼女のサポートで一番印象に残っているのは、初体験後の莉々子に対するサポートですね。
普通処女が嘘ついて受診してアフターピルまでもらいにいけませんよ。

加えて、智宏の重荷になりたくないからと莉々子から口止めされている中で「私は性格が悪いからな、教えておく」と自分を下げてでも恋人の心情を智宏に言い含めておくのも憎い活躍でした。



〇キャラの差別化と細かなネタ等


本作に限らずの話ですが、創作物の登場人物などが言葉の用法を100%正しく用いる必要はないと考えています。

極論、江戸時代を舞台にしたエロゲで当時の文法や会話を再現されたとしても読みにくいことこの上ないでしょうし、現代風の登場人物が大した背景も無しに古風な言葉遣いをしていたら違和感を覚えますしね。
とはいえそういう個性付けが作品のディテールを向上させることも確かで、時代背景やキャラ付け含めライターの塩梅なのでしょう。

これらを踏まえてあくまで私の想像であると前置きした上でですが、本作の塩梅は実に絶妙だと思うのです。
いくつか例を挙げます。



・華乃

「男子って生き物はすべからくーー」

すべからくとは「当然なすべきこととして」という意味であり、普通は「すべからく~べき」という形で用いられます。

華乃の用いた「すべからくーー」は「すべて」という意味で用いられており誤用なのですが、現在では市民権を得ている誤用であり、使う人もそれなりにいます(本感想でも1箇所、あえて使っています)
ですので気にする人以外は違和感は覚えないのではないでしょうか。むしろ華乃のようなキャラが用いるにはマッチしているワードだと思います。


・詩桜

「副作用がなく依存性もない重度の快楽とは……」

ここで詩桜は依存性を「イゾンセイ」と読んでいます。
本来は「イソンセイ」と読むのですが、「依存」に限らず、共存、現存、残存、併存……こういう「ソン」は「ゾン」と読むことが一般的になっています。何かの後に続く「存」は「ゾン」のほうが読みやすいのでしょうね。

実際に現代では「イゾンセイ」のほうが市民権を得ており、NHKでは2014年以降「イソン」よりも「イゾン」の表記を優先するよう変更しています。

なので詩桜の用法は現代人的に見れば妥当であり、小説家として人に伝わりやすい表現を用いたということが背景にあるのかなと勝手に想像しています。


・シキ

「既存のヒロインの中では青い髪の子がおすすめかな♪」

ここでシキは既存を「キソン」と読んでいます。
これについてはどちらを優先するというガイドラインは2025年現在無いのですが、本来的には「キソン」が正しいです。しかし「キゾン」のほうが一般的な用法であるとは思います。

シキ、あすみの用いる「キソン」にどのような意味があるのかと考えたとき、私は彼女に施された教養が背景にあるのではと思うのです。

彼女が幼少期より英才教育を施されていたことは無印等で描写されています、音楽に関するものが基本ですが、一般常識などもそこには含まれるのではないでしょうか。
例えばあすみのASMRで、フィートメートル変換だったかを瞬時に行う描写がありました。そんなに難しい計算ではありませんが、普通の女子(男子も)には一般的ではないかと思いますのでそういうところも含めて彼女にはちょっとはみ出した基礎教養があるのかなと思う次第ですね。

既存は「キソン」と読むと教えられたから、そのままなのでしょう。
普通、他人が「キゾン」と言っていればそちらに変えそうなものですが、彼女はそういうところはゴーイングマイウェイなのでしょう、なんだかんだ強メンタルですからね。ヒアウィーゴー。

他にも豚汁を「ブタジル」「トンジル」どちらで呼ぶかなども、キャラの出身や背景を想像させてくれます。
あと無印で描写されていた和泉兄妹は今川焼き、ミリ先生は大判焼き、あすみは二重焼き、華乃は回転焼きに本作では「太鼓焼き」が加わりましたね。
こういうの大好きです。


まぁこれらは全て私の想像を超えた妄想です。
ただ、そういう背景があるんじゃないかなと思って読み込むと「ハミダシクリエイティブ」という作品はすごく楽しくてですね、キャラの魅力がどんどん増してくるんですよ。
これは他の作品では味わえないのです、本当に読んでいて楽しく、登場人物らが愛しい。

だから私はハミクリという作品が大好きなのです。

FDでも新作でも良いので、本作ライターの作品を心待ちにしています。

おしまい。