これでいい。これがいい。これが見たかった。SPINに欠けていた猫忍成分がいくらか補完されている。
正味1時間強ぐらいのボリューム、少ないといえば少なく物足りなさはあるがプチプラFDということを考えれば十分。個人的に申し分ない出来栄え。
本編SPINでは「なんだかちょっぴりシリアスめに」のお題目のもとに明確な敵を作り、主人公も主人公らしく、猫忍も頼りがいを増していた。お話としての面白さは明確に上がっていたが、どこか物足りなさも感じていたのである。
私は、朝のスズメの鳴き声を聞いて「美味しそうですな、ニンッ」と語ったり、あつかましく要求しては尻を噛まれたりとしょうもないドタバタコメディを、ゆらとたまとマヤの腹パンしたくなるぐらいのクソウザい掛け合いを求めていたのだ。
結論、SPINではまとも?な主人公と猫忍による真っ当なストーリーが展開され確かに面白かった。チカには少々“あの頃の猫忍”の気配を感じたが、出番が乏しく遅く活かし切れていなかったように思う。
まぁ猫忍新時代はこういうものなのだろう、むしろ尖ったテキストを書いていたライターが人口に膾炙する文章も書けることは賞賛すべきことなのだ。これはこれで良いものなのだと納得した。
納得していたのだが、本作ではほどほどに“あの頃の猫忍”が帰ってきていたことに私は嬉しくなった。
もちろんゆらやマヤのようなレベルではないが、屋敷や町を舞台にドタバタと駆け回る彼女らを見てあぁ、懐かしい。微笑ましいなぁと感じさせてくれたのだ。
またそれと同時にわずかイラつきも感じさせてくれるのだ、あぁ、コイツ言うこと聞かねぇなぁ、腹パンしてぇなぁとふと思わせてくれる。
特に際立っていたのはやはりチカだろう、本編で感じさせた片鱗を見事に広げて見せてくれた姿には喝采しかない。実に微笑ましく、イライラとさせてくれる。加えてチンチンもイライラさせてくれる。
このイライラを若干S気味に攻めるエロシーンで解消させてくれるのもまた良い。たまには躾けないとね、彼女の隠せない服従心のようなものと相まったこのシーンはシコリティが高かった。
出来ればラーメンを食べるシーンがもう一度見たかったかな。
ちなみに、裏を返せばそういう“猫忍らしさ”から外れたところに藤花はいる。
個人的には“猫忍”として見た場合の彼女はそんなに好きではないが、SPINのストーリーの屋台骨的な存在として彼女の存在が不可欠なのは言うまでもないだろう。
特にチカは菊丸との主従関係がないので、彼女に対する単純な力・ストッパーとしての存在も大きい。
さて、作中、チカのやりたい放題ぶりを見て「猫を飼うのはこういうものだ」という言葉があったように思う。
まさにこれなのだ、猫忍は人間ではない。むしろ人間ではない、ペットのような立ち位置でしか得られない魅力がある。例え躾けたって躾けきれるわけがないのだ、幼稚でいい、だって猫なんだから!
都合が悪くなったら「ニャハハ」で良い。「ぴょーんぴょーん」でも良い。反省したと思ったらまた繰り返しても良い。
その時は「こやつめ、ハハハ」と言いながらケツを叩いてやればいいと思う。
今後の作品展開がどうなるかはわからないが、本作で戻ってきた″猫忍”成分を加えて、里見猫忍、ハルキ殿たちと関わる展開を期待せずにはいられない。
シリアスとコメディ、幼稚さのバランスは非常に難しいと思うが、ここをうまくやれば…これは見えたでござるな?天下。ニンッ!