人が死ぬって、そんなに特別なことではないと思う。
一言でまとめると「とても普通のお話」。
SF要素は流石に普通とは言い難いですが、それを除いて登場人物らの行動や最後を考えれば「そうなるよね」と腑に落ちる。
ただ、それがストーリー構成として面白さに寄与していたかというと疑問が残るので高評価というわけにはいかない作品でした。
◯ストーリー、希死念慮などについて
「希死念慮」
不勉強で申し訳ないですが、この言葉を私は初めて知りました。
漠然と「この世から消えてなくなりたい」、「楽になりたい」という心理面だそうです。
別に中二病を気取るわけではないのですが…そういう感情、普通にありませんか?
私は小学生のころから、散発的にそういうことがありました。プールで泳いでいるとき、このまま沈んでしまえばいいなとか、高台から飛び降りてしまえば楽だな、とか。少しばかり行動したこともありましたが、未遂というほどではないかな。
ですので、おじさんの語る「中学生のころから~」のくだりは共感することしきりでした。
別にそこまで嫌なことがあったわけでは無く、まったく凄惨な人生歩んでいませんし、なにかきっかけがあったわけでは無いです。ただ、タイミングと何かが揃えば多分死んでいたでしょう。それは別に特別では無くて、普通のことです。
ソーダの自殺シーンが唐突過ぎると言及している方を見受けました。皆でお祭りを楽しんで、そのすぐ後にというのは確かに急ですがそこに連続性はないのです。
むしろお祭りを楽しんだのならそこが最高のポイントです。逆に問いたいです、今死ななくていつ死ぬのかと。
シンジュの最後は、あえて言うなら前向きな第一歩。まぁ欲しかったものが手に入れられなかったというか、手に入れようとあがいた末が見えてしまったが故の絶望、というのもあるかもしれませんが…どちらかといえば「満足」したんじゃないですかね、私はそう感じました。
穿って見ていけば、心の傷や苦しみ、トラウマなどが彼らの根底にあることはわかるかもしれません。唐突に見えた自殺も、彼らの視点心情をもっと増やせば理解しやすい感情に落とし込めるでしょうね。
しかし私にはその考察そのものがいささか不粋に思えるのです。
なんで死んだ、失恋だいじめだと警察が分析のために考察するのはお仕事で、やるべきことです。
しかし一般に動機というものは世間を納得させるためにあるだけのものに過ぎません。最後に残るのは死んだという純粋な結果で、動機は後からいくらでも後付けできるのです。
更に言えば、この作品はその動機を「天使の羽」というファンタジック、ミステリアスなアイテムで曖昧なものにしています。
その聖域をわざわざ侵してまで知ることは、やはり不粋ではないでしょうか。
消えたいから死んだ。
ただ、それだけで、普通のこと。
死を美化する必要は無いですが、死を特別視する必要もない。
だから、この作品の死はシンプルで、唐突であることにこそ意味があると思います。
まぁ、所詮死んでいない人間の戯言ですが。
ちなみに、反感を頂くかもしれませんが、個人的には、あくまで個人的にはですが、梯子も死んでいたほうがすっきりしたな、と少し思います。
※考察される方を否定するわけではないです。私は、したくないというだけです。(できるだけの頭が無いとも言える><)
◯SF要素について
羽のせいでいささかファンタジックに、派手めに修飾されているように見えますが、希死念慮自体はもっとシンプルなものなのでは。「羽」はそのきっかけというか、少し背中を押す程度でしょうか。
そもそも、個人的にはその天使関係のSF要素が不要ではないかと思うのです。
この作品の妙は、彼らの願望や希死念慮をシンプルに、ともすれば伝わりにくい程に簡潔に描いているところだと思うのですが、SF要素がそことマッチしていないように感じるのですね。
しかしSF要素を抜いてこの作品を突き詰めたヒューマンドラマにして面白いかと言えば、たぶんあまり面白くはなさそうです。現状のストーリーだけみても今一つ盛り上がりに欠けていることは否めないので……。
雑にまとめてしまうならバランスが悪いのですね。登場人物と言う前に、作品の構成が歪です。
〇九条兄妹について
九条兄の言動は胸糞とまでは言いませんけども…希死念慮というには感情がはっきり過ぎている気がします。彼を形容するなら破滅願望ですかね。死にたいわけじゃないと思いますよ、実に生き汚く真っ当です。一見、歪に見える彼が一番真っ当というのは皮肉というか、面白いですね。
彼は物語を通しての掘り下げが足りないです。物語の根幹に関わる背景を持っているので出番が遅くなったり少ないのは仕方ないかもしれませんが展開が急すぎます。
彼の過去をモノローグで述懐させるとかでもして、メンタルを見せてあげないとただのチンケな悪役にしか見えないですよ。しかも和解がやたらスピーディーですし。
「死」に向かうソーダらはその速さがプラスに働いていましたが、彼らと九条兄は見せるべき顔が違うのです、だって死にたがっていないのですし。せっかく独特の立ち位置を用意したならきちんとキャラを立てて、存在に厚みを与えて欲しく思いました。
あとペネムを恋人とした後、その立ち位置が天にスライドしたのはそれでいいのか…?とちょっと思いました。
まぁ人間味の無かったペネムが徐々に人間らしくなっていったということは一種の「同一化」と捉えることができ、存在が相似であるなら良しとできるのかもしれません。天使としての力を得ていた天は客観的に見ても天使であるのでしょうし。
うーん、でもやっぱりペネムはペネムとして、天は天として愛する姿は見たいですね。
◯エロシーンについて
シナリオボリュームから見たエロシーン割合は十分でしょう。尺はしっかり、CGやシチュエーションも申し分ない。
特に目を見張るシーンは、チンコを抜いたあと、精液がアナルに垂れるところですね。
ほどほどの精液がアナルを隠しすぎず彩る、素晴らしいシナジー効果を見ました。
〇まとめ
テーマは確かに一本通ったものを感じました、しかし表現する術が伴っていないか、十分な選定が為されていない印象。
少数に刺さるという点であれば評価できますが、客を楽しませてやろうというエンタメ性は薄く、総合的には微妙というところ。
ただ希死念慮という言葉を知った、漠然とした気持ちに名前があったことを知れたのは少し嬉しかったです。
なので「完成度としては微妙だけど、個人的には嫌いじゃない」という感想で締めさせていただきます。