なるほど、未完成と言われる理由が分かった。未解決の謎を考察するのが正道なのか、童話のように考えるとむしろそれは無粋なのかもと考えさせられる。
世間で未完成とよく言われているが所詮は人の捉え方次第なのだからどうかなと思いながらプレイ。……申し訳ないが私としてはこれは「未完成」だ。
プレイ前に少し仕入れた情報によれば最初から続編のけれ空が計画されていたと耳にした。そのコンセプトで作られたと考えると、本作単体ではやはり「未完成」と言わざるを得ない。
後半で少しだけ考察しているが明確にされない謎が多く残されている。推察はできるのだが当然明確なアンサーはないわけで考察者の考えどまり。
続編もなにもないんだよ、ということであれば考察ゲーとして皆の想像の中でも結論をつければよろしい。
しかし本作は違う。続編があると述べている。その中で語られた真実・結論がありふれた奇跡だとか、祈りだとかでもなんでもいいのだ。続編がある以上はそれをもって物語全体を評する俎上に上る。
仮に「ひぐらしのなく頃に」が出題編で終わっていたらどうだろうか、「バルドスカイ」がDive1で終わっていたらどうだろうか。私が本作に感じるものはこのようなところだ。
それを踏まえるとやはり「未完成」という評価に行き着いてしまう。
ゆえにストーリーについてあまり評価を述べられない。
後半の展開がどのキャラでもいっしょだとか、個別ルートなのに共通部分が多すぎて繋がりがおかしいとか疑問はあるのだが。全体像が見えていない以上は単なる不満点にとどまる。
作中の舞人の言葉を借りて評するが「人の言葉を否定するならだ、まずはその明確な否定理由をもってくるべきだと俺は思う。 」
この状態では材料が乏しくて肯定も否定もできない、悪い意味でだ。
ただ、伏線のようなものを気にせずもっとふわっとした解釈で楽しめるのならまた違った評価になるのではないかなという気持ちもある。
こだま先輩の語る「童話」のようなものだ。テーマ性のようなものは確かにあるがそれを逐一説明せず、ちょっとアバウトに、あえてメルヘンチックに表現する。解釈はどうあれ根底にあるものは変わらないのだけど。
端的に言うなら考えるよりも感じろってことかな。
だったら続編あるよなんて言うなって思っちゃうけどね、シュモクザメに食われてしまえ。
さて、ここまで語ったことは「それ散る」「けれ空」を合わせた物語としたうえで「未完成」と定義しての評価だ。「それ散る」単体としてはストーリーについては前述のとおり。しかしテキスト、音楽、CGなど本作単体で輝くところは多くある。以下に少し書こう。
〇テキスト
やはり王雀孫氏のテキスト。単純な面白さもそうだが、ギャグとシリアスの表裏一体感が絶妙なのだ。ギャグを言っているにもかかわらず薄皮一枚隔てたところにシリアスの影をひそませている。ひたすらギャグを畳みかけているように見えてもストーリー進行には何ら悪影響がない。
これはなかなかできることではない王雀孫氏ならではのお家芸だ。俺つばで惚れ込んだその原型を確かに見た。
個人的に気に入っているところに小町の引っ越し時の「おそばにまいりましたー!」がある。
あの時点では引っ越しそばを使ったダジャレでしか無いが、小町ルートの終わりまで行けば「ずっとそばに置いてくれて、ありがとうございました。」に繋がる。
このように単発でしかないと思っていたネタが連続性を帯びて登場してくる流れは胸を打つものがある。
しかしやはり掛け合いを通してみても俺つばの方が私は好ましく思えてしまうのだ。
2000年付近という古いネタのせいもあるとは思うが、登場人物と世界の広さかなと感じている。
俺つばでは複数の性格の異なる主人公が個性的で膨大なキャラと様々な掛け合いを繰り広げていた。内容も自虐、逃避、排他、傲慢など関係性が多岐にわたる。飽きさせるということがなかったのだ。
反面、それ散るは登場人物がそこまで多くは無い。ボケ、ツッコミなどがほぼ固定化されていてワンパターンになってしまっている。
十分に面白さのあるテキストなのだが、俺つばのそれを見た後だと少し物足りなく思える。
クローズドな世界なりの集約された良さはあるが、どちらがいい、ということを語るのなら私は俺つばなのだ。
〇CG
CGはなんだかんだ言われながらも西又御大、安定感がある。時代に合わせてアップデートされて可愛らしい。古い絵柄を敬遠する新規ユーザーには絵は大事なポイントだ。たまに体位がおかしいというか人体構造上変な角度になっているものもあるがご愛敬かしら。
背景はちょっと物足りない、モブに表情がなかったりと寂しい絵面。しかし俺つば、SHUFFLEなどなどからNavelのキャラがひっそり登場しているのは憎い演出。こういうのたまらないんだよ。
〇キャラ、声優
好きなキャラにだけ少し言及する。
まずは小町。
性格的というか属性的なところが好み。やはり昭和の男としてはテンプレ的な幼馴染を愛するものなのだ。ホントだよ?
さて小町の名前は聞き及んでいたが声優さんまで気にかけたことは無かった。この声質、俺つばの好きなヒロイン、鳳鳴に喋り方が似ている。私の脳みそに響く大好物。
ところで他の声優さんが交代している中、彼女役の方は代わっていない。旧ボイスだけかも?なんて邪推をしてしまったがアナザーストーリーやドラマCDなど新規ボイスもあるようでなんだか嬉しく思えた。
男性声優もなんだか聞き覚えのある特徴的な方が多い、耳が幸せだ。
あとはこだま先輩。
とりあえず外見。幼い見た目に豊満なバスト。私は全身に桃色の血潮流るるむっつり助兵衛でございますから。
自分が妖艶なレディであるかのごとき根拠の無い自身、お姉さんぶるしぐさと言動もイイ。しかし髪を切ってほしくは無かったな、あのときの私の気持ちを表現するなら「ぷじゃけるなよ」しか無い。
加えて、彼女の語る童話の概念は作品全体に通じるような気がして目を惹いた。
〇ムービー
曲もムービーも素晴らしい。BasiLというかNavel全体の話になるがSHUFFLEシリーズもつり乙シリーズも俺つばもOPが素晴らしいのだ。ムービーを見てこれ面白そうと思わせてくれるブランドNo.1(私調べ)。
efのOPの様に特別な技術クオリティがあるわけでもないし、いただきじゃんがりあんRのように独特のセンスがあるわけでもない。
歌と、それに合わせた案外普通の演出なのに引き込んでくれるのは不思議なものだが凄い。
・考察みたいなもの
物語を私なりに少しだけ考察してみた。調べてはいないが多分考察されている方もおられるのではないだろうか。
中途半端かつ少し思いついたことだけなので間違っていてもご容赦を。><
〇舞人、朝陽、桜香について
桜の木の精霊ないし神様的な存在と考える。
桜の丘で現在2本の桜の木が描写されているが、それは朝陽や桜香の木。舞人の木は丘を下ったときに消失しているものと推察。
舞人は丘を下ったことで霊的な存在から人間(のようなもの)へ変化した。
〇丘で遊んでいた女の子
舞人の母親と考えるのが無難か。
時系列はあまり考えないが、彼女が最終的に舞人を連れて丘を下らせたのだろう。
〇記憶が消えるということ
恋愛感情が双方に芽生え高まることで生起する現象。「それは舞い散る桜の様に」記憶と言葉たちが消えていくEDの描写はなかなか胸を打つ。
桜香の「ひとつにはなれない、一人になるだけ」という言葉もこれが理由。
しかしなぜそうなるのかの理由は私にはさっぱりわからない。
〇矛盾
朝陽の「ヒトの子が」という言葉。丘を下りて人間(のようなもの)になった舞人に向けるには少しおかしい。これまでの考察では人から生まれたわけでは無いと考えているためである。
などなど、その他整理のついていないこともあるがあまり深堀しようとは考えていない。あんまり考えても前方後円型脱毛になってしまうしね。
けれ空が発売されると言うならばそれはそちらの解決編にお任せしよう。
というのも、私としては自分で考察するよりも物語の中で表現してくれるほうが好みだからだ。せっかくエロゲという媒体を用いてくれるのならそれを十全に味わいたいと思う。
王雀孫氏のテキストではないのは不安材料ではあるが、けれ空による物語の完結、楽しみにしている。したっけな!