「温故知新」という諺が一番この作品を表すのにふさわしいだろう。 新訳ボーイミーツガール泣きゲー。
「都会を離れて田舎(離島)へ。
少年は不思議な少女と出会い絆を深める傍ら、出会った島の住人と悲喜こもごものエピソードを経てコミュニティを築いていく。
しかしこの島にははるか昔から続く神秘の伝承と呪いがあったのである。主人公にも浅からぬ縁、この因縁を断ち切ることができるか……!」
ざっとまとめてみましたが、某Key作品の二番煎じにしか見えないですね。
泣きゲーとしての要素が徐々に弱っていくヒロイン、行きつく先は「死」なんて実に使い古されたテンプレで。
テンプレでいえば貴種流離譚要素もあるかもしれません。
もちろんテンプレは強いのです。10代もしくは20代前半のピュアな感受性であれば問答無用で泣いて、感動すること請け合いでしょう。
また同じようなフォーマットを用いた作品はいくらもあります、悲しいことに擦れ切った私の心には、楽しめてはいても「なるほど」程度の感想しか抱かせないのですが。なので、こういう作品は若からぬ私には向かないんだなと決めつけていたのです。
決めつけていたのですが、プレイし終わって「あぁ、良かった」と余韻に浸っていた自分に驚いたんですよね。
近年でこういうジャンルをプレイすると微妙に思う点を蹴っ飛ばしてくれたというか。
いつもは冗長なテキストに辟易することが多かったのです。
でもこの作品で冗長に感じるところはほぼなかった。
不思議ヒロインの性格や口癖が、どうにも受け入れがたいことがありました、うぐぅとか。
でもこの作品は気になりませんでした。主人公と同じく「異邦人」という背景がそれに説得力を持たせていたのかもしれませんが、それよりもヒロインの「強さ」に惹かれてしまったのが理由ですかね。
秘められた伏線に言及するとき、メインストーリーとの温度差が大きく冷めてしまうことがありました。
でもこの作品はメインストーリー中でそこにあまり触れておらず、ヒトとヒトの関係性、心理面の描写に終始することで話をブレさせませんでした。
ファンタジー要素はちょっとスケールが大きすぎるなとは感じましたけども。
あまり言及されなかった謎は「TRUTH」で開陳されます。これは本筋を阻害しないためですね。
加えてそういう要素をあまり好まない人に「これ以上は見ない」という選択肢を与えているのかなと。
〇登場人物について
・リルゥ
ヒロインの中で一番好きでした。
使命第一、主人公に対して明らかに壁を作っていた序盤から、どんどん変化していく彼女の心理描写が秀逸。比嘉に対する怒りや嫉妬は実にご尤もで、主人公の優柔不断ぶりと嚙み合った一幕はリルゥに感情移入してしまいました。気になっている男が別の女の手を焼いて自分を見てくれない、あんなのイラつきますって。
特に気に入っているシーンはシャツの補修に幼児服を利用したところ。幼児服を着る予定の弟妹はリルゥにとって一番大事な「家族」だったわけで、それを主人公のために使うということはその優先順位の付け替えをしたことを意味します。
ここは自分の大事な居場所を決定づける重要な決断であり、「あなたはどうしたい?」と他人に決断を迫る彼女らしい有言実行の一幕でした。
・比嘉
好きというわけではないですが印象深いキャラクター。
属性付けをするなら「ドジっ子」かもしれませんが、彼女はドジっ子というよりも…まぁ、ね。
ああいう感じで職場を去っていった後輩がいたことを思い出して、何かできることはなかったのかなと少々センチメンタルな気分になってしまいました。
その後の展開で背景が明かされて、頼りになるお姉さんにジョブチェンジしていったので何とも言えない気分になってしまいましたが、まぁそのほうが良いですよね。
彼女は単独というよりも、他のキャラと違う属性からの言動で真価を発揮していたように思います。
恋愛を後押しする面々とは違う立ち位置からリルゥの心を解きほぐしましたし、信念とアンバランスな力など代替できないポジションですね。
前半で使えないところを印象付けてからの後半の活躍は見事でした。
・方言
登場人物といえば、うちなーぐちはたまにしか使われなかったのは少し残念。
「沖縄の離島」という非日常感を出すにはもってこいだと思うのですけど……まぁ声優さんの都合上仕方ないのでしょうね。
〇沖縄の離島という位置づけ
一般的に「沖縄の離島」を日常と感じる人は多くないと思います。つまり必然的に「非日常」として受け入れられやすいのですね。また非日常であってもファンタジーでないのが面白いところ。
例えば御嶽やノロ(祝女)、ユタなどといった単語を理解できなくとも、「そういうものがあるんだ」と受け入れられると思います。沖縄で実際にある文化ですから。
実際私の記憶でも「親戚のおばさんがユタだから、あの人の言うことは信じたほうが良いよ」なんて言われたことありますから、内地よりもそういう文化は地域に根付いていることは確かで説得力はある設定だと思います。
そしてこの絶妙な舞台は別世界の設定をユーザーに受け入れさせるのに一役買っているように感じるのです。
簡単にまとめると、先に「未知の事実」を納得させた上で「未知の架空伝奇」を植え付けるプロセスですね。
先述したようにちょっとスケールを大きくさせすぎた嫌いは感じますが。
※沖縄について悪く言うつもりは無いです。私も内地生まれですが沖縄の離島で数年過ごしたことがありますし、楽しい場所でした。
〇おわりに
昔に隆盛を極め、なおもジャンルとして生き残っている古典泣きゲーの骨格があるのは確か。
しかしその中で、冗長な表現や伝奇要素など不要だと決めた骨は容赦なく抜いています。肉付けも今の時代に合わせてなのかライターのスタイルなのか定かではないですが、読みやすい文章で構成されているように感じます。
現代語訳、いや新訳、ボーイミーツガールの泣きゲーといったところでしょうか。
「温故知新」という諺が一番この作品を表すのにふさわしいと思います。
燃えとか、専門分野の知識とか、そういう飛びぬけたものがあるわけでは無いのです。エロはもちろん無いです。
伝奇要素も意図的に抑えられていますし、設定で気になるところも当然あります。
でも、そんな疑問点を脇において物語に浸らせてくれた。
なにより自分がこういう作品を十全に楽しめることを教えてくれた。
本当に良い作品でした。