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HARIBOさんのアマカノ2 ~Perfect Edition~の長文感想

ユーザー
HARIBO
ゲーム
アマカノ2 ~Perfect Edition~
ブランド
あざらしそふと
得点
85
参照数
137

一言コメント

今までのアマカノシリーズの良さを引き継ぎながらも、主人公とヒロインの立ち位置や関係性を工夫することにより、新たな魅せ方を盛り込んだ良作。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

私はアマカノシリーズを、ストレスを可能な限り排除した、イチャラブ特化の作品であると認識している。
反面、山場に乏しく冗長な展開は退屈でもあるが、それは織り込み済みで制作されているはずだ。無印、SS、それぞれの+。作品を追うごとにストレスは排除され、イチャラブは洗練されている。
では本作もその方針で、イチャラブをより追及した作品であるのかといえば、そうであるが、それだけではない。過去作とは違う工夫がいくらかあると私は感じている。
それらを踏まえて、本作の感想をいくらか区切って以下に。


〇ヒロインの外見について

まず、過去作ヒロインたちの外見、というか身長。
年上ヒロインは聖:165、 涙香:167
年下ヒロインはこはる:152、奏:151……まぁほなみは162あるが。

対してアマカノ2は、年上、ちとせ:153。年下、玲:163。

年齢と身長が必ずしも比例する必要は無いが、一般論で言えばそこはおおむね比例するものであり違和感を覚えにくい。
性格も年下ヒロインには素直であるとか、若しくは若さゆえの反発、ツンデレ要素などポピュラーなものが付与されていた。

そこに注目してみると、本作のヒロインらは過去作から見て真逆の設定を付与しているように思える。これは2からのユーザーというよりも、従来のアマカノユーザーに対して、今までと少し違う味わいをどうぞというちょっとばかりの配慮なのかなと想像している。


〇関係性について

今までは街の外から舞台の街に引っ越してきていたが、本作では最初から地元である。
つまり、すでに構築されている関係性がある。
その最たるものは「姉」であるちとせ。そしてそれに対応する「妹」である玲。

ただ、この「姉と妹」という関係性、とても薄っぺらいのである。実妹とか義妹とかそんな土俵にすら上がってはいない。
ちとせはともかく玲は即席にも程がある。

ただ、その薄っぺらさが本作の大事なファクターなのである。

実の姉、妹との恋愛というものは相応の障害がある。それが義理であっても皆無というわけにはならないだろう。それを乗り越える描写が近親モノの妙ではあるが、これを描くのにストレスは排除できない。
ならばあえて書かない、というのも一つの表現ではあるのだ。イチャラブが一義であるなら障害を乗り越えるためのプロセスは邪魔になりかねない。
しかし、それらをすべてオミットしてしまうとリアリティに欠けるのである。エロゲにリアリティを求めるのもナンセンスかもしれないが、舞台が現代に即しているのなら程ほどなリアリティはあるに越したことはない。

とはいえ現代を舞台に「姉・妹」的なキャラ付けはしたい。
そういう声に応えるために、幼馴染の女の子に「姉・妹のような」関係性を付与することもままある。今までの関係性から一歩踏み出すための葛藤を物語の主軸に据えるわけだ。だが、これにも多少のストレス要素は含まれる。
本作で採用されているのはこの形式である。
ただ、それはあくまで導入の手段としてであり、関係はとても浅い。。

兄さん、姉さん、姉さまなどと呼んでいるが、それらが表面的なものであることは誰の目にも明らかである。
姉のような存在、妹のような存在。姉はまだ幼馴染要素があるが、妹に至っては久しぶりに会った従妹だ。
私の生きてきた狭い世界であるが、高校大学以降の世代で、あんな関係性の幼馴染を持つ知人はいない。まぁいたらいたで腹立たしい、もちろん嫉妬です。
そもそも玲にしても「ドラマみたいな」って言われているわけだし。

ただ、このリアリティのなさはむしろ「ちょうどいい」のである。
エロゲならまぁ普通の範疇、そして障害を生起させる必要がないので「アマカノ」として都合がいい。

そしてこのちょうどいい、薄っぺらい関係性をストーリーの中でほどほどに否定するのである。

ちとせは「年上とか年下ーーそういうのじゃなくてひとりの女の子として見てほしいから」と告げ、関係性の進展を促す。
ここで大事なのは、前述したような葛藤、例えば関係性が壊れることを恐れているわけでは無いこと。姉弟から恋人への変化に戸惑い、羞恥する彼女のいじらしさをそこに充てることで、正のベクトルの魅力を引き出しているのだ。

また、玲も付けられたばかりの「妹」のラベルをすぐに「恋人」に付け替える。
当初の従妹、そして妹の関係性は、彼女の掲げる「合理性」によって構築されたはず。それを否定して作られた恋人という関係性だが、その過程にさしたる葛藤は無い。むしろどう見ても非合理な場合にも「合理性」を標榜する様は確信犯であり、もういっそ清々しい。
そしてエピローグで輪廻転生に触れ、もう一度従妹から始めようという一幕は、合理性の欠片も無いのに「その方が合理的、ですよね?」で締めるのである。否定という要素が確かに残っているのに、正のベクトルに転化している様子は見事であり、作中の言葉を借りれば「浪漫」である。

これらの流れを見ればわかるように、否定してもその関係性が無くなるわけではないのだ。
重要なのは「恋人」であること。恋人となった後のこと。

エロシーン導入までの流れもそれを強調している。
恋人となったから即SEXというのもいいものだが、付き合ってからSEXまでの間でしか描けないものも沢山ある。繋がりを、触れ合いを求めるのは恋人として当然なのだが、一線を越えることには少しの恐れがあるのだろう。ヒロインらも付き合ってしばらくの夜には覚悟を決めていながらも、少し尻込みをしていた様に見える。
そこに主人公が「したいけど、待つよ」と諭すことにより、自分の恐れに気付かせてくれるわけだ。この流れはヒロインの内面描写をうまく表現できていたと思う。


〇結灯について

結灯について触れていなかったので少々……。

彼女のルートでは、彼女を選択すればするほどアマカノグラフが下がっていくのは面白かった。
ここからわかるように、このルートでは他ヒロインには無い「負」の感情が存在する。これを最初に感じさせるのは個別序盤で、明確に主人公に対して拒絶を打ち出しているシーン。
髪をほどき表情を一変させる結灯を見たとき、「面白いな」と思いつつも「やってしまったな」という気持ちが私には浮かんだ。「アマカノ」で、主人公があるルートで周囲の人間から少々理不尽な扱いを受けたシーンについて、ユーザーから苦言を呈されたと聞いたことを思い出したのだ。
強い言葉でいうなら「無駄シリアス」だったはず。個人的には無駄もクソも無いと思うが。

結論をいうと、シリアス気味であったが懸念は払拭された。
アイデンティティの齟齬、両親との不仲という障害は、言ってしまえば「結灯の認識のみ」で解決したからである。
作中の言葉を借りるのなら、ちとせルートの「気持ち次第で見え方も変わる」というところだろうか。
どこにも悪人はおらず、問題解決の流れは主人公の行動が彼女の心を絆し、実家との懸け橋になったことによる。

むしろこの一幕により結灯の様々な表情を見せることができたのはうまい。
エピローグで最後に見せたはにかんだ、ちょっと意地悪な笑顔は最初のよそ行きの笑顔があってこそ伝わる魅力である。
このルートは冗長になりがちなアマカノの構成に一石を投じるものであり、そのシリアスのさじ加減は見事であったと思う。

ちなみに、引っ張ったにしては父親との和解があっさりしすぎているとか理解が早すぎるとか思わないでもないが、これを深堀することにあまり意味は無いのだ。むしろ弊害となりえることは先述した通りである。



〇主人公について

イケメンで思いやりがあって、がっつかない、無限の包容力。言葉選びにも学がある。
彼の行動や選択には、おそらく失敗がない。

人間味を感じないほどにパーフェクトな主人公である。ヒロインが主人公によって変化することはあっても、主人公は変化しない。
個人的にはもう少し彼なりの個性や失敗があっても良いのになとは思うのだが、そうするとヒロインの存在が薄れるのかもしれない。

例えるなら、主人公は器、皿だろうか。
ただ広く、しっかりと受け止められる真っ白な皿であり、食材や料理たるヒロインを受け止め引き立てることこそが一義なのかも。


〇CGについて

シリーズを経るごとに進化していくピロ水氏の原画は素晴らしい。
書き込みの繊細さから醸し出される独特の雰囲気は確かな個性であり、この作品の魅力の半分を担っている(個人的感想です)

知人曰く「人妻感」という感想が一番腑に落ちたのだが、裏を返せばロリ系には向かなくなっているのだろうかという懸念はある。
もともと貧乳が存在しないことには忸怩たる思いを抱えていたのだが、こはるなど正統派年下ヒロインは確かな魅力があった。

本作はそこを捻っていると先述した通りだが、もしかしたらピロ水氏の画風に合わせたのだろうか…?



〇システム、エロシーンについて

この作品のシステムはエロシーンに関係するものが多いので、まとめて。

システムは発売年代を考慮して十分である。ボイススキップ、シーンジャンプなど揃っており不満はない。

E-moteはあるならあるにこしたことはないが、正直あまり動かないのでウリにするのは弱いだろう。まぁ、後付けなので仕方ない面なのかもしれない。
次回は「きまぐれテンプテーション」や「ねこパラ」のようなE-moteならではの動きを期待したいところだ。


最後に、エロ関係のシステム設定が次の通りである。それぞれ言及する。

・ヒロインの陰毛表示
 今までもあったのだが、今作の強みは「色」である。今までの陰毛は全て黒色であったが、それぞれの髪色に合わせて変化させてきており、嬉しくなる点だ。
もちろんオンである。

・射精カウントダウン機能
 何の意味があるのか私にもわからない、抜きゲーでよく見るやつである。でも嫌いじゃない。
絶対にオンである。

・ヒロインのハート目機能
 個人的にはやりすぎたハート目は好きでは無いが、終盤エロシーンの感極まったシーンのハート目は大好きだ。本作のそれは、フェラシーン以外は満足である。
迷いながらもオンである。

・エッチシーンジャンプ(おあずけ機能)
 この機能は一部エロゲで見たことがある、エロシーンスキップ機能である。シナリオメインの作品であればまぁわかる。またエロ不要のユーザーにも歓迎されることだろう。
しかし、この作品はエロシーンが1ヒロイン6シーン×3=18シーンである。純愛モノとしてみれば相当に力が入っているシーンだし、尺も結構長い。製作側にしてみれば見てほしいモノなはずだ。
それを、スキップしてもいいよと言ってくれているのである。
寿司屋に例えれば、一所懸命仕込みをしたコハダやアナゴなんかを拒否されて新鮮な生寿司だけのコースを用意するようなものだ。ユーザーライクにもほどがある。
これをスキップできるだろうか、私には出来ない。
絶対にオフである。

エロシーンの内容はそれぞれキャラの特性に合わせて構築されている。
例えば結灯はエロシーンに至った時期では主人公に対する悪感情が払拭されているので、イチャラブ感のあるエロシーンのみと思いきや、一部シーンであの表情を見せてくれたのは素晴らしい。
ちとせは本番シーンが少ないのはちょっと残念な点かなと思うが、まぁそれは数でカバーしているとすれば問題ない。

ちなみにどのヒロインもフェラシーンでの上目遣いがとてもエロく、見事である。アマカノシリーズに共通する良さであると認識しているので、これは嬉しい点であった。


〇挿入歌「観覧車」について

一応言っておくが、曲はいい曲だと思っている。メロディも歌詞も聞いていて心地よい。
ただ、アマカノに使われるにしては少々使い方に疑問がある。

この曲は「めぐる季節の約束とつないだその手のぬくもりと(ダンデライオン)」で使われるはずだったDucaの曲である。公式では明記されていないが、実質発売の見込みは無いようだ。

Duca繋がりかもしれない、権利的なものがあるのかもしれない。どちらにせよ使われなくなった名曲に活躍の場を与えたことは素晴らしい。
ただ、使用シーンはどうだろうか。

告白シーンで流れるのは良い。
だが、作中で初めてこの曲が登場したのは、屋上で玲がキーボードを弾き歌うシーンである。
思い返してほしい。「玲が、キーボードを弾いて、歌う」のである。
すべての声優が歌に対応できるわけではないので、Ducaが歌うこと自体は良い。だがドラムなど、バックの楽器も全部のせなのはやりすぎである。事前に打ち込みをして準備していたというなら理解も出来るが、風情も何もあったものではない。

そもそも歌ありの楽曲というものは、シーンの印象を一変させるほどに強い武器であり、諸刃の剣といえる。
だから直接関係の無い歌を使うシーンはEDだったりと限定されるわけである。

例えば「さくら、もゆ。」という作品では「さくら、もゆ。」という挿入歌があり、ストーリーで大きな意味を持つ。
「WHITE ALBUM2」という作品では様々な劇中曲が登場人物らにより演奏され、曲に思いを乗せ、思いを変化させていく。

この「観覧車」は、玲にとってなんなのだろうか。
昔懐かしの曲、親に教えてもらった、学園祭で歌う予定。そのようなバックボーンは無いように私には感じた。
感動的なシーンで、楽曲がその感動のファクターを担うには相応の説得力がいるのだ。
これでは、いささか白けてしまう。


ちなみにこの感想を書いている途中で、玲のキャラクターソングがあることに気付いた。

「挿入歌「観覧車」のカバーアレンジを収録!」

あざらしさん、屋上のシーンはせめてこれを使ってくれよ!!