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HARIBOさんの恋愛×ロワイアルの長文感想

ユーザー
HARIBO
ゲーム
恋愛×ロワイアル
ブランド
ASa Project
得点
75
参照数
440

一言コメント

バトルロイヤル形式の恋愛。 なんだかプロレスっぽいかなと思える。 掛け合いは流石アサプロ、面白い。前半は良いのだが、個別はせっかくの魅力を自ら捨ててしまっているようで少し残念。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

恋愛とロワイアル。このロワイヤルとはおそらくバトルロイヤル、複数人での戦いのことを指すのだと思います。一般的にはプロレスの試合形式がポピュラーでしょうか。
この作品は良くも悪くもそんな感じの”プロレスらしさ”を感じさせてくれるものでした。



〇共通ルート


共通ルートでは”プロレスらしさ”の良さが遺憾なく発揮されています。
みんなでリングに上がり、思い思いの武器を持ち、誰彼構わず戦いを繰り広げる様子は正にバトルロイヤル。
次は誰が誰と戦うのか、どんな手段を取ってくるのかなど想像させ、その斜め上を見せてくれるのは本当に読んでいて楽しいです。

また、汐音:蒼、乃々香:愛のようにサブキャラクターがセットになっているのもセコンドのようで上手い。リングサイドからパイプ椅子を差し出すかのようにお助けの一手を差し入れてくれるのですよね。
この二人に関しては個別ルートでセックスさせるという搦め手まで用います。言わばセコンドがリングに上がって戦い始めたような形ですね。
これは蒼ちゃん先輩が好みの私としては願ったり叶ったりでした、満足。



〇個別ルート


さて、共通ルートではプラスということは、個別ルートではマイナス要因を強く感じたと言うこと。
その理由として「登場人物が記号的すぎる」ということをあげます。

記号的ということ自体は悪くないのです。バトルロイヤル形式である以上他者と被らない武器が必要ですので、わかりやすい差別化はむしろあるべき。
毒霧、パイプ椅子、バットなどの武器を持たせて、人物にヒール、悪役などの役割を付与していくようなものですね。

幼馴染、妹、お嬢様生徒会長、アイドル。それらにヤンデレ、ツンデレ、元カノなど様々な属性を付与して下ネタ変顔も辞さないとばかりのカオスな掛け合い、ディスり合いをさせているわけで、こういうのが好きな人にはたまらないでしょう。私も大好きです。
これだけ用意すれば特別なストーリー展開を用意せずともお話は自然と動き面白くなるのです。

しかし、いざ個別に突入するとこの良さは鳴りを潜めてしまいました。
なぜかと言うと、記号的すぎるがゆえに人物に深みが無いから。エロゲの登場人物なのですから大なり小なり属性に依存したキャラ付けであることは当然なのですが、その割合がとても大きい。先に挙げた大きな魅力、掛け合いの良さも幼馴染や妹などの属性、身長やバストサイズなどのイジり合いに依るものがほとんど。
これらは複数人の掛け合いだから良さが出るわけで、人が少なくなればなるほど表現出来るバリエーションが減っていくのです。

個別では共通に比べて、ヒロインと主人公の1対1で物語を展開させる流れが基本となります。
本作の主人公は正直個性に乏しい。バトルロイヤルの景品・トロフィーのような立ち位置なのであえてそうしたのかもしれませんが、ヒロインと物語を進展させるには正直力不足は否めないところ。

加えて付き合う理由もまりや由奈以外ではまったく説得力が足りていません。そりゃあ登場人物たちに「〇〇を選ぶとは思わなかった」と言われるわけです。

他ヒロインやサブが加わることによって面白さは一時的に復活しますが、それは共通ルートの劣化に過ぎません。先に述べた蒼や愛とのセックスなどはその最たるもので強烈なカンフル剤です。尤も一時的なものに過ぎないのは言うまでもないことですが。


そのカンフル剤が無いまりルートは正直微妙。一人だけノーセコンドマッチをさせられているのはかわいそうにすら見えます。

彼女の持ち味、持ち前のイカれた前向きさで周りを引っ掻き回す様子は、他キャラが優位な状況においてこそ強く発揮されていました。
自分のルートで優位性を獲得した状況では一人相撲の様相を呈しており、なるほど、幼馴染が負けヒロインというのもあながち間違ってはいないんだなと認識させられたほどです。


そんな中で特異なのはグロリアスノウの二人のルート。
もちろん他ヒロインとの掛け合いはありますが、割合として多くを占めているのは由奈と蓮菜の戦い。共通では見せなかった健気さや勤勉さ、困難を越えた成長なども描写されています。

三角関係の描写としても良い出来ですし、長い付き合いの彼女らゆえの軽妙なディスり合いも重くなり過ぎずいい塩梅でした。

ただ、これはバトルロイヤルではないと思うのですよね。主人公という存在を賭けて戦う二人の女の子の決闘、1対1の普通のマッチ。確かに出来は良いのですがコンセプトに照らせばいささかミスマッチだと思います。

作中の監督の言葉の引用ですが、

「CMってのはわかりやすさがなによりも大事だからな。深みを出してもしょうがない」

二人のシナリオに深みを出すことは良いのですが、本作の魅力・コンセプトとは違うのでは無いかなと少し思ってしまったり。

どちらに価値を見出すのかは人それぞれかと思いますが、私としてはバトルロイヤルの良さを最後まで見てみたかったのです。