一本道シナリオとしてはかなりのボリューム。単体としても十分な出来栄えだが、一気に登場人物を増やしており天ノ少女への下ごしらえをしている感じ。真崎を除いた新キャラたちが描写や出番が少なく印象に残りにくいのは少し残念。
前作の登場人物を引き継ぎ、かつカルタグラの設定を活かして新たなストーリーを構築した作品。
本作の登場人物を加えてエピソードを展開することで次の完結編への準備をしているという印象を受けました。
当然前作ありきであり、そして続編ありきであることは自明ですからその意味では本作だけでの評価は難しいものです。
玲人が冬子を見つけるという本来の目的だけ見るならば遠回りをしているように感じてしまうでしょう。
もしもそこだけにスポットライトをあててしまえばヒンナサマに関わる描写であるとか人形村関係のエピソードは全て蛇足に見えてしまいますから、内容が空っぽになってしまいかねません。虚ですね。
不満点もいくらかありますがそれはどんな作品でもあること。
どうしても前作と比較してあーだこーだと言いはしますが、掛け値なしに面白いと言える作品であることは確かです。
単体としてもそうですし、次作への期待も高めてくれました。面白かったです。
少しだけ内容について感想を。
〇狂気について
本作の狂気、偏執は理解しやすいものであったように感じます。嫉妬や利害など基本的に人間関係に根ざすものがほとんどでありましたから。
前作で「殻の少女」という絵画というか禁忌の芸術品に根ざした狂気は一般人には到達しえない領域でした。
それに比べ今回のヒンナ様などのそれは凡人たちが長い時間の中で守り育んだ偏執であり妄執です。いくらか昔であればここまでではないにせよ理解しがたい風習が残る地域の話は耳にしますから荒唐無稽というわけでも無いのでしょう。あくまで地域を、そこに住む仲間を守るためのルールです。
理花や花恋の犯行は愛憎のあまりそこからはみ出してしまったのでしょうね。
また周囲のパラノイアを解決していく玲人ですが当然彼自身も大きなパラノイアを抱えています。あくまで彼自身も狂気に呑まれた登場人物の一人でしかないのでしょう。
〇ストーリーについて
ミステリー要素にはあまり触れません。大事な要素ではあると思いますが作品の根幹は別のところにあると感じていますので。
伏線はとても多くの量がちりばめられています。そのピースがハマっていく様子は気持ちよく、面白いです。現代編、過去編、そしてカルタグラの要素。
特にカルタグラのメインであった千里教、天恵ノ会の要素をうまく繋げたなと思わせてくれました。
ただ少し思うに、もともとこの千里教絡みの設定はカルタグラの制作時点で次作に受け継ぐ予定があったのでしょうか?
上手く繋げたとは思うのですが太さの違うロープを繋いでいるような違和感を覚えてしまったのです。
まぁ考えすぎだとは思いますけどね。
あとはBADENDにもう少し独自のストーリーがあればなと思いましたね。ほとんどのENDで分岐したらすぐに終わっちゃうので。
紫ENDは最後のセリフの入れ方など良かったので、あれぐらいのものが他にいくつかあれば嬉しいですね。
〇エロシーンについて
全8シーン
冬子とのシーンはまぁ入れておきました感はぬぐえなかったですが、過去編で千鶴、理子のシーンは物語中必要でしょうね。
杏子とのキズの舐めあいセックスもまぁこんな関係もありだろうなとは思いますが魚住がチラつくのですよね…
ぐり子とのシーンはなんだかいじらしくて良かったです、なんだかんだ初心な真崎だからこそです、玲人ではいけない。
菜々子の輪姦シーンは…好きです。
佐東は数合わせ感が拭えない唐突なシーン突入でしたが、雪子までそんな扱いとは思いませんでしたね…メインヒロイン候補と思っていただけに驚きました。
〇グラフィックについて
グラフィックはこのシリーズの最も大きな要素だと勝手に思っているのですが、正直前作に比べると微妙であったと個人的には感じてしまいました。
立ち絵は好みなのです。前作のキャラも新規に描いたことはスゴイですし、雪子のむくれた顔など非常にかわいいです。
反面イベントCGについては思うところが少々。
塗りのせいか全体的にあっさりとしたように感じるところ。そしてグロ描写も控えめになっているなと感じるところもそうですが、何より迫力が乏しい。
私の好みの範疇の話なのですがどこかのっぺりしているという印象です。カルタグラや殻ノ少女では遺体の断面や血液などの粘性などもう少し肉感があったように思うのです。
本作では絵を見せられている感じなのですよね、まぁ実際絵を見ているのですが。
また加害シーンはほぼCG無しです。加害者サイドの描写がせっかくあるのならば臓腑を分けるところや四肢を切り取るところなど過程をCGで見せてくれたらなぁと思わずにはいられません。
それでこそ描ける葛藤、情動もあると私は思っていますので。
〇登場人物について
登場人物が一気に増えてその人間関係が織りなす様相は本作の大きな魅力でした。
その中でも目に留まった人物について。
・真崎 智之
彼はカルタグラの秋五を彷彿とさせるような巻き込まれ系であり、少し頼りないところも似ています。
彼の視点で物語が語られるところも多く、結果ダブル主人公のように進行している様子は物語に広がりが出てきて良かったところ。
まぁ私的にはこの作品には明確な主人公はおらずそういう役回りなだけだと思っているのですが。
だからこそ玲人の性格や思考と相反する要素を与えられているのでしょう。これから彼でなければならない役割が与えられるだろうと期待をしています。
・茅原 雪子
彼女は冬子に変わるメインヒロインだと思っていたのですが全然違いましたね。ストーリーの根幹に関わる重要な人物ではありますがそれだけです。他の面々とそう変わりません。
彼女は他者に憧れ、他者を取り込むと表現されています。しかし真に取り込むことはできないのでしょう。事実、模倣した自我は様々な干渉で崩壊していますから。
私の好きな漫画の引用ですが
「憧れは理解から最も遠い感情だ」
という言葉があります。
他者に「憧れる」雪子ではその他者を決して「理解」はできないのだろうなと思えてなりません。
そう考えると確かに彼女は空っぽなのでしょうね。
・八木沼 了一
どんどん丸くなっていきますねぇ!秋五を殴る蹴るしていたあの頃が嘘のようです。ちょっとごねたら「まぁ良いでしょう」って甘い甘い。サッカリンより甘い。なんとか罪にならないように質問する様子なんてはぐれ刑事純情派じゃないんだからと言いたくなるほど丸くなりましたね。
タバコパクられたり灰皿押し付けられたり、良いように使われたり玲人からイジられることでキャラのギャップも出てきてとても面白味のある人物に仕上がってきました。
作中で一番まっとうに成長している人物と言えるのかもしれません。
・朽木 冬子
ヒロイン交代かと思いましたが不動ですね。玲人に対するヒロインではなくこのシリーズのヒロイン。象徴と化してしまったように思います。
最後に見つかった骨が冬子であるのか、もしかしたら生きているのか、今後どうなるのかはわかりませんが、できたら幸せな結末を見たいなぁと少しだけ思います。
IFでもいいから…冬子かなり好みのヒロインなので…
まぁ、多分無理でしょうけどね…