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HARIBOさんの空に刻んだパラレログラムの長文感想

ユーザー
HARIBO
ゲーム
空に刻んだパラレログラム
ブランド
ウグイスカグラ
得点
85
参照数
325

一言コメント

あおかなと比較されるのも当然だが、セールスポイントは結構違う。劣等感、嫉妬、羨望、努力、才能、諦観、克己、厳しい部活動の中にある青春の心理描写がウリ。テレプシコーラについてなど演出不足は否めず欠点は目立つが長所は確かにある尖った作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

蒼の彼方のフォーリズムの本編内容には触れませんが比較として演出等に言及する部分があります。違うゲームについて比較することは好ましいことではないかもしれませんが、後発で似通った題材を取り上げていることから流石に無視できるものではありませんでした。ただ一言申し上げると、本作はあおかなとは明確に異なる魅力があり十分に面白い作品であることは確かです。


さて、私がプレイ前にこの作品について聞いた感想は「汚いあおかな」。
どんなダーティーなキャラが出てくるのかと思ったものですが、意外にみんな競技に対してまっすぐなスポーツマンばかりでいい意味でも悪い意味でも期待を裏切られました。

スポコン青春モノとしては尖っていますが高水準。
中でも団体競技で必ず存在するレギュラー争いにフォーカスした描写は見事。これは運動部のみならず演劇や吹奏楽など限られたパイを奪い合う要素があれば必ず発生する問題。
単純な勝ち負けによらない、プロとは異なるたった3年間に込められた情熱の描写はライターの力量を感じられ素晴らしかったです。



〇ストーリーについて


大筋ではご都合主義なところが目立ちます。基本的な展開は似たような不和、軋轢、和解、挫折、成長などの繰り返しですし、TRUEに関してはそこが特に顕著です。
前半に第2のタリスマンも使えない劣悪な環境と第1との軋轢にフォーカスしていたところが後半で触れられなくなったことや、伏線らしきものが多数放置されていたことも気になりました。

しかし私が本作で感じた良さはテレプシコーラに対する部員たちの意識の違いやレギュラー争いに関する心理描写に尽きます。

勝つためか、楽しむためか、競技に対する姿勢の違い、熱量の差。
先輩に花を持たせるべきか、後進に道を譲るべきか。
そこまで本気でやらなくても、それぐらいは真面目にやるべきだ、意見の衝突。
自分のため、誰かのため、恋人のため。

まぁ自分の体験にリンクさせてしまったのですよね。部活しててこんなことあったなと。
流石に第1、第2の待遇差と選民意識はちょっと極端すぎるところは感じますけども強豪校であればこんなものかもしれないです。

加えて、多くの登場人物にユニークな性格を付与し見せ場を与えてストーリーを展開させたのは見事。さほど長くないシナリオボリュームゆえにどうしても使い捨てになってしまうキャラは多いのですが、うまく独白を挟みつつ魅力を引き出せていたように感じます。ただ独白パートが試合中に挟まることで試合のテンポが悪くなりがちなのは諸刃の剣かもしれません。

最後に個別ルート、これには不満が残ります。
1時間強の短さもそうなのですが、どうしてもおまけ感が拭えない。ヒロインと結ばれてイチャイチャしてそれなりにエピソードがあって終わり。結ばれたからこそできるTRUEとは違う強みが無いのです。せっかくのエロゲであり「恋する女の子は無敵」のようなことを言うぐらいならそれを証明してほしかったものです。そしてエンドロールなしでサクッと終わり余韻ゼロ、ひどい。
これがタイトル画面選択のアナザー的シナリオだったらまだ許容出来たのですが…。



〇宝生歩について


活躍の機会はあまり多くなく、監督にしても他チームにはいないポジションなのでその能力を比較できず抜きんでて評価されることもない。ヒーロー的な役割を期待すると肩透かしを食らいそうです。
ただ個人的には彼はこれでいいと思います。
なにも主人公が格好良く立ち回るのが全てではないはず、彼には彼なりの役割があるのです。
アウルの面々をつなぎとめているのは間違いなく彼です、それも「呪い」と言ってもいいレベルで。
飛びたくても飛べなくなった彼を前に、飛べる彼女らは飛びたくないとは言えないでしょう。
また呪いであると同時にアウルの面々の原動力でもあり、彼がいなければ戦う理由が無くなってしまいます。



〇テレプシコーラという競技、演出について


既存の競技では無いので当然イメージはしにくく。
演出も中途半端なアニメーション、足りないCG、代り映えのしないカメラアングル。同じことの繰り返し。
ここはあおかなと比べて明確に劣っていると言わざるを得ません。十分な素材を準備し効果的に組み合わせればドラマチックで臨場感のある演出ができるのは過去に証明できているのですから、後発でこのクオリティでは苦言も呈さざるを得ないでしょう。個人競技であるあおかなのFCと比べ本作のテレプシコーラは団体競技、ただでさえ必要な要素が増えるのに素材が全く足りていません。せめて俯瞰図等があれば多少なりとも理解しやすいと思うのですが…。

またクオリア含めて作中で背景は語られていますがあまり深くはないです。社会でのクオリアの活用、浸透度であるとかクオリアを用いることができない一般人との軋轢もさほど描写は無いです。海外リーグとかもだいぶふわっとしていましたし。言い切ってしまえばテレプシコーラの成り立ちやルールも結構曖昧。読んでいて首をかしげる要素もあったのですが、この物語の主軸は部活動を通して描かれる心情、青春にかける情熱などであるのであまり言及するのもまぁ野暮なのかもしれません。

と言いつつもルールについてどうしても気にかかったところに「反則」があります。
記憶が曖昧で間違ったことを言っていたら申し訳ないのですが、ヘイローを保持していない選手に対してリジェクトを使うと反則、故意の衝突を起こせば反則などというものがあったはず。これらが作中で適用されたところは無かったように思います。そもそも反則によってどのようなペナルティがあるのか不明なのですが。
反則により得られるメリットがペナルティを上回るのならそれを選ぶ選手がいてもおかしくは無いでしょう。相手に反則を強いる局面も当然取りうる選択肢となります。
様々なスポーツで故意にファウルをもらいに行ったり、審判に見えないように反則を行うことはよくあることですし、それも一つの技量でしょう。

勝ちに貪欲であればそのような選手がいても不思議ではなく、むしろいなければおかしいと私は思います。
その点、本作に登場する人物らはいささかまっすぐすぎます。遺愛などは歪んでいると表現されていますが彼女の戦術は自分の強みを活かしたパワーとテクニックプレイに過ぎません。
対戦する各選手らも一見悪役のように見えてもテレプシコーラに対しては真摯。
心底の凡人が真っ当な手段で手が届かず、それでもなお勝利を望みダーティーな手段を選択してしまう人物がいてもいいのではと少し期待してしまったのです。

葛切には一流の選手が集まるのだからそういうプレイヤーは淘汰されてしまったのかもしれないですけどね、まぁ反則のルール周りはもう少し固めてほしかったなという話でした。



〇システムについて


システムはどう見てもよろしくない。
いろいろかゆいところに手が届かないですが、クイックセーブ、ロードも無いのは驚きました。技術的に難しいこともないと思うんですが…。

またコンフィグの設定項目は少なめですが綺麗にまとめられている…ように見せつつもそうではなく。
個別ボイスごとに音量変更できる機能があると思いきや、テストボイスがみんな同じ「ズキュン」とは驚き、ジョジョかよと。
この効果音で設定してもキャラごとの音量差に対応できないです、専用のサンプルボイスを撮る必要までは無くとも普通の日常ボイスを設定してほしい。
でも通常のボイス設定ではリアの「空に刻んだパラレログラム」ボイスが採用されているのがさらに謎、なんで。

あと私の環境だけかもしれませんが硝子のボイスが何故かミュートになる現象がちょいちょい発生するのです。音量バーを0にする以外に個別オフにする手段は無いはずなのに何故かミュートになる、なぜ硝子だけなのかホントに謎。

そして特にひどいのはセーブ・ロード画面から終了をクリックするとエラーを吐いてしまうバグ。前回終了時からの既読判定、セーブ情報もリセットされるというおまけつき。これは数人の方からも情報頂いたのでおま環ではないはず。
ゲームの進行に支障をきたす部類でありこれは全く擁護できないものです。

追記
強制終了バグは例外処理で起きるようです。
頂いた情報によると「吉里吉里のシナリオファイルにload_exitの処理がないから。セーブ画面ロード画面はESCボタンが終了ボタンに判定される。」だそうです。



〇誤字脱字について


疲労→披露みたいな変換ミスはぽつぽつありますし、助詞抜けも散見されます。これらはまだマシ。いや、もちろん良くは無いのですけど個人的には許容できるところ。

ただストーリーに関わる部分のミスはどうなのかなと感じました。
例えば「カーディナル」表記、「ス」に夜月が酷くこだわっていたという描写があるぐらいなので抜かしては欲しくなかったところ。
加えて、トゥルーでエアロパーツ戦前に「カーディナルス戦を前にしたほたる先輩は驚くほどパフォーマンスを低下させていた」。エアロパーツ戦の前の誤記とは分かるのですがこれはあんまり。

あとボイスと文章のずれは気になりますね。文では「藍住先輩」なのにボイスは「ほたる先輩」など。

その他にも細かなものは沢山あります。
どれもデバッグで改善できる問題であることを考えると作品全体としての作りこみには疑問を呈さずにはいられないものです。



〇まとめ

ストーリーの大筋に関しては粗が大きいですが、部活動を通した心理描写は素晴らしいの一言。
惜しむらくはバランスの悪さ。演出、素材不足が足を引っ張って表現したいものに足かせがついているように思えます。

正直、反感を買うかもしれませんが既存のスポーツを題材にしたほうが理解しやすいものになったのではないかなと思う面があります。心理描写からくる本作の魅力は題材が変わっても損なわれるものでは無いと感じていますので。というよりも本作の主軸がテレプシコーラにあまり依存していないということなのかもしれないです。

これはあおかながFCという架空スポーツを軸に総合力で完成度を高めたこととは相反します。
ですので似てはいますが立脚するポイントが違うものでありパラレログラムにはパラレログラムにしか無い良さがあるのです、欠点は目立ちますが面白い作品でした。