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HARIBOさんの蒼の彼方のフォーリズム Perfect Editionの長文感想

ユーザー
HARIBO
ゲーム
蒼の彼方のフォーリズム Perfect Edition
ブランド
sprite
得点
90
参照数
178

一言コメント

減点方式ならもう少し低いかもしれませんが、FCというテーマが気に入ったなら欠点を補って余りある。あと個人的にみさきルートが気に入れば倍プッシュ

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ずいぶん昔に恋チョコをプレイして中身の薄さに何とも言えない寂寥感を覚えていたのでspriteの作品は敬遠していたのですが、あおかなはプレイして良かった。

全体としては王道スポコンものって感じなので、めちゃくちゃ尖った描写などはないんですけれどやっぱりFCですよね。これがあるおかげで王道展開にさらなる彩を添えて、かつ作品全体に流れの良さを生み出しています。中だるみしにくいというか。
渡辺僚一氏が担当されたそうですがFCなんて設定を良く思いついたものです。


〇FCについて

架空のスポーツではありますが、結構シンプルなのでそこまで理解しにくい感じではないです。むしろ深くは設定されていないのでそんなことできるんだって思うこともしばしば。
作られてから歴史の浅いスポーツということもポイントかもしれませんね、物語の大事な部分にかかわってきます。

また、演出も特別技術がすごいわけではないのですが臨場感があります。グラシュから延びるコントレイルを画面の動きで良く表現されているのが一因かな。あとはカメラアングルというか、視点の移動ですかね。

FC関連のBGMもいい。一進一退、空域の支配者、逆風を超えてなどがお気に入りです。
特に逆風を超えてを聞くと明日香のエアキックターンや部長の高速が思い浮かびます。



〇各シナリオ、ルートについて

才能と努力。凡人と秀才、そして圧倒的な天才。それぞれの関係性が見どころと思います。特に明日香とみさきの対比が個人的にキモ。

まぁ明日香ルートが王道ルートなのでしょうね、他のルートはそれぞれ特色はありますが以下に。



〇みさき

一番好きなルートでした。みさきは「中途半端」というのが私の中の印象です。明日香のように飛びぬけた才能は無く、真白ほど他人の才能が見えないわけでもない。部長ほど突き抜けた思想を持っているわけではない。
ただ、やればそれなりにできてしまうんですよね。ある程度のところまででしょうけれど。だからこそ本物の天才にはどうあがいてもかなわないのがわかるんですよね。
悔しいけれども、どうしようもない。泣いてわめいてもみっともない。だから、逃げるんです。自分を守るんです。
「あたし、FCやめるから」「空飛んでぐるぐる回って馬鹿みてー」なんて。
一緒ですね、晶也と。

また、共通ルートの進藤と明日香の試合で、みさきは明日香の敗北を望んでいたように思います。
自分が健闘して負けた強敵に初心者が勝つなんて自尊心ぐちゃぐちゃになりますよね、自分との闘いで本気じゃなかったなんて知ったらなおさら。
あそこでのみさきの反応はチームメイトとして褒められたものではないですが、私はとても共感しました。憧れでも何でもない、ただの汚い「嫉妬」です。
昨日までの弟子が、劣っていたはずの友人が自分に並び、追い越して、手の届かない場所へ飛んでいく。努力しても届かない。じゃあ、逃げるしかないですよね。

そんな現実逃避をするみさきをどのように復活させるのかがエロゲゆえのキモです。
そして晶也を助けるためにFCを続けた、戦う理由を己以外にも求めたわけです。そうでもしなければバケモノとは戦えないのでしょう。

ちなみに、作中でみさきは「天才」と評されていましたが、私にはそうは思えなかったです。

沙希との試合のスモーも相手がなんとか付き合ってくれたゆえですし、明日香との試合では未熟なヘイローのミスに助けられています。
少し歯車が狂えば負けていた試合ですが、秀才がパートナーと二人三脚の末に伸ばした手が天才の足先に届いたのでしょう。

とはいえ、ゆがんだ二人があがいた結果、わずかですが報われた気がしました。


〇明日香

失礼ながら、バケモノ。明日香は「傲慢」が私の印象です。
無意識なのですよね、天才というものは。何より恐ろしいのは自分の楽しいという欲望で際限なく成長し周りを巻き込むところです。作中でみさきは明日香に自分の大切なモノが壊されるのが怖いと言いました。
壊す側にはそんなつもりはないのです。ただ新しいことを試したらそうなっただけ。
こんな後輩がもしも部活にいたらと思うとぞっとしますね、私は。
鳥籠を提起してこれまでのFCを否定したのが沙希。それに共感した明日香が対応したらアグラヴェインセカンド、そしてバランサーオフ。目まぐるしい進歩、パラダイムシフトと呼ぶのでしょうか。
これを楽しく思えるスカイウォーカーもいるのでしょうが、今までのFCを研鑽していた凡人には己が否定された気がしそうなものです。いささか卑屈な考えかもしれませんが。

また、このFCの変革はほかのルートにはなかったものです。戦う土俵が違うと言えばそれまでですが他ルートのFCが陳腐に見えてしまうところが…
これがトゥルールートなどであれば納得はできたのかもしれませんが、能力のインフレが過剰な印象を受けたのです。
他ルートがせいぜいナメック星でフリーザと戦っているのにこれだけ魔人ブウみたいな。

あと晶也の飛行までのハードルがすごく低いんですよ。真白ルートでみさきと勝負するときに少しだけ本気で飛ぶだけでゲボはいてたのに…



〇莉佳

印象は「愚直」といった感じでしょうか。
努力による実力はあるがずば抜けた才能があるわけではなく、愚直さゆえに伸び悩む。
そこからFCの楽しさを通して異なる価値観を吸収して成長する、といった感じです。結構王道ですよね。
そしてさっちゃんの存在は明日香に対するみさき、みさきに対する晶也のような存在と言えます。つまりラフプレイの黒渕を生み出したのはほかならぬ莉佳である、と。そこから彼女の救済を目指すのもまた王道ですね。

ただ、他校の生徒があそこまで練習に参加するのはどうなんだろうと少し思ってしまいました。


〇真白

真白の印象は…なんだろう。
他のヒロインと違うのはFCの才能が明らかに劣っていることでしょうか。FC経験もなく成り行きで始めたものですね。
また、みさきや莉佳のようにFCの過去エピソードも無いですし、明日香のようなFCラブってわけでもないです。
それでもみさきを部に戻すために届くかわからない努力を重ねる健気さ、また負けて強がり、隠れて涙を流す素直さがあります。

ヒロインズのなかでもっとも凡人ですがそこに彼女の価値があるのでしょう。
そういえば髪をアレに巻き付けるシーンはこの作品ではなかなか攻めているなと思いました。


〇サブキャラ

人数も申し分ないですし、要所要所で見せ場もありよく活躍していました。
進藤は中ボスで途中で新ボスのかませ犬になりアドバイザーに落ち着くというテンプレでした。

一番気に入ったのは部長でした。FCシーンで一番を上げろと言われたら部長VS沙希ですから。
というのも作中でFCを本当に楽しんでいたのは明日香と部長だと私は思うんです。他の面々はトラウマだったりいろんなしがらみに縛られている印象があります。
そんな中で自分のやりたいFCを突き詰める姿勢は本当にかっこいいですね。


〇総評

ルートごとの矛盾などライター複数の弊害は感じましたが、それ以上に各ルートの個性が際立っていました。
特にみさきルートの等身大の感情表現、FCという素材を作り上げたことは欠点を補って余りあるでしょう。減点方式ならもう少し低いかもしれませんが加点方式で採点してこの点数です。