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HARIBOさんのWHITE ALBUM2 EXTENDED EDITIONの長文感想

ユーザー
HARIBO
ゲーム
WHITE ALBUM2 EXTENDED EDITION
ブランド
Leaf
得点
95
参照数
810

一言コメント

主人公が耐えられないと思う方へ

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

名作と呼ぶにふさわしい作品であると思うし、自分の趣味にも合っていた作品でした。
が、万人に勧められるかというとそうではないと思いますし、耐えられないと感じる人がいるのも大いに理解できます。

その最たるものは主人公・春希の行動についてであると私は思います。
ですのでこの感想では彼についての言及に終始しますのでご了承を…


さて、様々な人が主人公:春希の優柔不断さが気持ち悪い、耐えられないと言います。確かに読んでいてやきもきするシーンも多いです。
これでもかというほどに雪菜とほかの女の間で気持ちを揺らし、すれ違ってはひとまずの決着をつけます。
そして選択に後悔しては自罰的な気持ちをこぼすのです。
これを各チャプターごとに繰り返すんですよね。いい加減にしろよと少し思うところは私にもありました。


しかしながら決断とそれを貫く意思があれば浮気しないでしょう。自分の決断に後悔しないクソヤロウであればハーレムルートまっしぐらかもしれないです。学園時代の雪菜とかずさであれば受け入れそうですよね、ハーレム。
つまり三角関係というか、そのようなストーリー仕立てであるためにはこの主人公でなくてはならないのかなと思うのです。
ただ、これはストーリーを構成するための役柄という側面から見た春希の位置づけです。


次に春希の過去や、心情から推察する彼の行動原理についてです。

彼は他者から、特に家族など近しい人間からの拒絶への恐怖が異様に強いように思えます。
陳腐な言葉ですが承認欲求が過大であるともいえるかもしれません。
特に麻理ルートでの「俺を見捨てるんですか」という言葉にはそれが強く出ていました。

原因としては両親が離婚し、母子仲が冷え切ったことなどが考えられるでしょうか…


まぁとにかく彼は居場所を欲していたのです。

それが故のクラスメイトへの過干渉や委員長、雑誌編集部でのオーバーワークなのではないでしょうか。
それは彼を認めてくれる居場所であったでしょうから。


家事ができない同級生、純粋に頼ってくれる後輩、頑張りを認めてくれる上司は彼を認め、求めてくれます。
その要素から見るとかずさは各ヒロインの上位互換ともとれます。
そのような中で一番強い彼女・雪菜は天秤にかけられると軽いのでしょう。少なくともCCでの彼の判断基準では。

加えて、雪菜との関係を確立させるためには必然的に小木曽家との関係を直視せねばならないのです。暖かく優しい小木曽家。理想的な家庭です。
気づいていましたか、「父親」があそこまで登場するのはあの家庭だけでした。またクラスメイトの家に図々しく介入するのに彼は「母親」にしかアプローチをしていないように記憶しています。

これだけ見ると彼は「父親」が嫌いなのかと思うのですが、特にそういった描写はなかったように思います。離婚の末母親についていってはいますが父親と険悪ではなかったはずです。あえて言えば家庭も含めて理解できない、といったところでしょうか。

認めてほしい、居場所が欲しいという彼にとっては理解不能なそこはパンドラの箱のようです。
つまり小木曽家という箱には彼にとって目を背けてきた要素がてんこ盛りだということです。しかし彼が人間的に成長し雪菜と歩むのならば避けては通れない道、その先に希望があるということにもつながっています。
そのためには自分の過去と向き合う痛みを伴うでしょう。

それに比べればかずさとの関係性はとてもシンプルです。批判をいただくかもしれませんが、「傷の舐めあい」でしょうか。
ただそれは決して悪いことでは無いのです、お互いの欲求がそこで満たされているのですから。
不幸なことがあるとするならば、そんな彼を思う周りの人間が多すぎるということなのだと、私は思います。


そのようなことを考えてみると、聖人君子のように見えて裏ではひどく人間的な側面を見せてくる。
すべてのきっかけの雪菜の告白を受け入れたことも拒絶への恐怖からともとれる。
別に春希が好きなわけでもなければ擁護することもないですが、少しだけ意識してみると、少しだけ物語が楽しくなるかもしれないと思うのです。


主人公を単なる記号ではなく行動、思想に過剰なバックボーンを持たせすぎたせいなのか。
とても人間的で身近にいそうで、しかしこんな人間は認めたくない。
ひょっとしたら私の、あなたの、誰かの恋愛に通じるものがあるのかもしれません。現実の人間って論理的でもないですし、過去の何かに縛られていることも多いでしょう。

良くも悪くもシナリオライターが魂を込めた結果、彼は好き嫌いをここまで論じられほどの「個」を得られたのかもしれないです。

的外れな考察かもしれないですが、もし主人公が受け入れられないと思っている人が少しだけプレイしてみようかなという気持ちになればと思います。


またプレイしなおして加筆、訂正するかもしれませんが現状にて