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HARIBOさんのルリのかさね ~いもうと物語り~の長文感想

ユーザー
HARIBO
ゲーム
ルリのかさね ~いもうと物語り~
ブランド
ねこねこソフト
得点
85
参照数
169

一言コメント

絵、システム、テキスト、色々と古臭い作品。だがこの古臭さと片岡とも氏の淡々とした文章が組み合わさった寂寥感は他では代えがたい力がある。それを感じさせてくれた作品。 なにより、新作として「らしさ」を見せてくれたのがこの上なく嬉しい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

一言で言ってしまえば、古臭い作品だなと。絵や塗りは古いし、システムも時代遅れ。そして最たるものはシナリオ。
まぁこの古臭さ無くては出せない魅力もあるのだけれども…。
ただ、カタルシスを感じさせるストーリー構成やエモーショナルな泣き所、手に汗握るバトル展開が評価される昨今においては、逆に新鮮に映るような気もする。

個人的には、一度の解散はあれど20年以上に渡りエロゲを作り続けてきたねこねこソフト、片岡とも氏の原点回帰と呼びたい作品だった。


〇タイトルとシナリオについて


一部例外はあるが、ねこねこソフトの作品は基本的に色が作品名につけられている。テーマとしてストーリー構成に絡む程度は作品ごとに違うが、それなりに色が重要なファクターであることは共通している。

本作、「ルリのかさね」では「ルリ」なのだろう。そのまま捉えれば「瑠璃」、ラピスラズリに通じ深みのある青系統。正直、るりいろ自体が作品に強く結びついているようには思えなかった。
つまるところ、「ルリ」はあくまで「初駒ルリ」の名前である。珍しく付けられたサブタイトルの”いもうと物語”からもそれが窺える。

むしろ重要なのは「かさね」なのだろう。

「習ね」は神仏習合に由来するかさね、だろう。抽象的な概念を象徴している。
異なる存在が合わさり一つの存在となる。親戚とはいえ、他人であったふたりが兄妹、そして夫婦となる。なるほど「習ね」である。

「重ね」は物質的、習慣的なものを象徴する。
二人の時間をかさねた、ということは基本として、それを支えた「モノ」も重ねられている。
主人公を思って雪駄を「重ねた」。
ご飯をしっかり食べるように、茶碗にご飯を「重ねて」盛った。
主人公が付けていたおみくじ帳は、るりに引き継がれ、そして主人公も「重ね」ていった。

佑咲ルートで、はじめは5円、次は50円、おそらく10年近くは積み「重ね」てきた賽銭の金額は、つまりその年月の象徴である。主人公側のジュースも同じく。
佑咲の語る「私は貯金箱」という言葉は、そこだけを切り取れば自嘲だが、この「重ね」がそれを自負に変えてくれている。二人の間でしか伝わらない、だからこそ価値のある表現であり、実に見事だった。

依知子ルート、彼女はバイトを重ねて、何を得たのか。何かが見つかると期待して、しかし夢は見つからなかったのだろう。
じゃあ、無駄だったのかといえばそうではないはず。主人公との出会いはその「重ね」が無かったら無いのだから。

重ね、貯めた貯金は使い道を失っていたが、賽銭箱という行き場を見つけ、新たな時を重ねる一助となった。

各ルートで「かさね」はテーマとして強く描写されているが、やはりルリルートが割合として大きい。
だからこそ、タイトルは”ルリ”のかさねであり、”妹”の物語なのだろう。



〇各ルートについて


ルリ

2ルート用意されている、片岡とも氏お得意の「あり得たかもしれない可能性」である。

・RURI

ヒロインが死没するという、使い古された描写であるが、このライターの朴訥とした描写は不思議な寂寥感を感じさせてくれる。
泣かせてやるという意気込みを感じないといえばいいのだろうか、淡々と、淡々と、あぁ、そうなるよなぁ、死ぬよなぁ、死んだなぁ。……寂しいな、みたいな。

言ってしまえば山場が無い、だから楽しくは無い。でも、あぁ、良かったなぁと感じたものは嘘じゃない。
片岡氏の言葉らしいが「人の感情を揺さぶる(泣かせる)には、喪失の悲しみと達成の喜びが頂点」だそうだ。前者の手法において片岡氏は独特であり、誰にも真似は出来ないのである。

さて、このルートで特に心に残っているものに「おみくじ」がある。
子供の作った、陳腐な手製のおみくじ。お兄ちゃんが誉めてくれたからと、子供ならではの無邪気さと健気さがそこにはあった。
しかし病に倒れたるりには、「おみくじ」は憎いものとして映った。
そして二人がかさなろうとしたとき、「おみくじ」はその助けとなった。

ただの「モノ」だけど、二人にとってだけはそうではない。ねこねこソフトお家芸の真髄だった。


・RURI/RURI

「皆いつかは死ぬ… だが今日じゃない」~映画 バトルシップ~
ルリが死ぬという未来を回避した未来である。

少しだけ前向きに、社交的になったルリとちょっと暖かい周りの人々の物語。
特筆することは無いのだが、RURIを重ねて見ることでこのあたりまえの日常がとても奇跡的で、あたりまえでは無いことを感じさせてくれるのが秀逸。

特に気に入っているシーンが、雨のところ。
「二つの水たまりが重なって一つの水たまりになる。間にはか細い道ができる」

重ねた何かが溢れて、手を伸ばして、誰かに重なるのだ。
閉じた二人の世界で終えたRURIルートと対照的な本ルートを象徴している描写だったと思う。


・佑咲ルート

「誰かを、何かを変えようとするより自分を変えたほうがよほど簡単である」、とは自己啓発で良く語られる言葉である。私はあの言葉好きではないが。

佑咲は関係性を進めるのに、他者に依らず自分で進む強いヒロインである。学生時代より変化した性格とファッションも自分で選んだのだろう。

「15万7865円もお賽銭をしたでしょう!一つぐらいは願いを叶えてよ!」

一見他力本願に見えるが、

「もう、待ってばかりの私じゃないんだから!そばにいさせてよ!」

と、すぐに自分で意思決定を行う。

「かさねた」賽銭をしっかりと活用して自分の力に変えていくのは、実に祈りの本質であると私は思う。作品のテーマにも合致していてなかなか良かった。


・依知子ルート

うーん、悪くはないが。
何者かになるために貯めたお金を、最終的に賽銭箱に貯金をぶちまけるところは先述したとおり「かさね」に通じていいのだが…。

孤児院育ちであるところとか、大学生であることとか、もろもろの設定が活かしきれていないように思う。正直バイトしか記憶に残らない。



〇システムについて


時代遅れだったラムネ2から…なにも進歩していない…。正直、これは商業ブランドとしてはお粗末である。せめてボイスカットとバックログジャンプ下さい。

あと姉夫婦と父親が死ぬシーンのテキストあたりはどのルートでも共通のはずだが、ルートが異なる場合は未読になってしまうのがちとストレスだったかなと。

バグはラムネ2と比べればマシではあるが、やはりもうちょっと頑張ってほしいところ。
キャラ名が「主人公」「ヒロイン」とかデバッグで気づいて欲しいものである。



〇キャラの外見について


ルリの立ち絵が時代を経ても変化しないのには少々違和感。
RURIは病気なので成長が鈍化したから、というのは理解できるので良い。しかしRURI/RURIでも、他ルートでもあのままなのは流石に変では?
「外見が気に入っていたから~」というのはスタッフルームで語られている通りだが、同じく「ちょっとやりすぎたような」とあるので、片岡氏も違和感は覚えていたようである。

ロリならではの魅力も素晴らしいとは思うが、健全な成長という意味での「あり得たかもしれない可能性」も見てみたかったなと、そんな希望である。



〇おわりに


「るり」よりも「かさね」に意味を持たせたのはねこねこソフトとして特異である、と途中で述べたがそれよりも驚いたことがある。
それは本作が単体として成り立っていることである。
前作、「ラムネ2」しかり「すみれ」しかり、過去作品を踏み台にしていた。つまり旧来のファンがターゲットであったのだが、本作はそうではない。新作だ。

しかも時代に合わせたテイストなのかと思えばそうではない。冒頭のとおり、非常に古臭いのである。だが、この古臭さと片岡とも氏のテキストは私の心を掴んで離さない。

刺さる方がどれほどいるのかはわからないが、「らしさ」を新規ユーザーに向けたことは何よりも評価できることであり私が望んでいたことである。

ねこねこソフト作品を触れたことの無い方に、胸を張って勧められる作品に出会えて嬉しかった、そんな春の日のこと。