ナルキッソスが同梱されており、通じるところ、相反するところも感じる作品だった。展開の急さ、終わり方の強引さはちょっと微妙なところ。
これ単体で評価するならばちょっと気になるところが目立つ。
その理由は展開、特に後半が急すぎるということ。
「雨の世界」の設定は抽象的なところに留まっているし、彼女が過ごしたあの神社のお話にしても具体的な説明は無い。
ふわっとしたまま雨の世界のお話は展開されていき、切なく閉じる。
と思いきや郎女が帰ってきてなんやかんやハッピーエンドである。
あとがきで「強引にハッピーエンド」と書かれていたのを見たときに、あぁその通りと納得してしまうくらいに強引だった。
言及されている通り、この先に「水のマージナル」があり、「雨のマージナル」はそのイントロダクション的な位置づけなのだろうと思う。
具体的なところは読んでいないので何も言えないのだが。
ナルキッソスも同梱されていることだし、ナルキッソスとの対比について少し触れよう。
ナルキッソス世界の、7Fの住人には終わりが確実に訪れる。むしろ普通の人よりも圧倒的に早いタイミングで。その短い生涯で考え、自分の証を次代に残していく。
雨の世界では終わりがいつ来るのか定かではない。無限に思える日々の中で心をすり減らしていくわけだ。次の人間が来れば拒絶するなり押し付けるなりできるとは思うが、500年来ていないのに希望が持てるはずもない。来ないのとほぼ同じことだ。
人は死を意識して初めて生きるという実感を持つという。ナルキッソスではそれが一つのキーポイントである。
反面死を意識しない雨の世界では、生きているという実感は希薄にならざるを得ない。現世で生きていたころにはむしろ常に実感していただろうに皮肉なことである。
それでも、死の恐怖を認識してでも前世に帰りたいと願う気持ちが「反省」ということなのだろうか。
生きたいと願う人にとって、生きられるのに死にたいと願う自殺などは許されざる行為かもしれない。
それでも、冒頭の主人公のように日々に擦り切れて行く人の他愛無い、生きたくない気持ちまでを責められるモノでもない。
本当の意味で死を実感などしていないのだから。