ドキドキワクワクはしない、楽しいっと感じるわけでもない。 エンターテインメント作品としてみると無いない尽くし。でもこの作品はなんだか胸を暖かくしてくれる。 あの日の僕を思い出して、今日の私を見つめる、そんな作品。
世界も救わない、大病もない。人も死なない、登場人物にさしたるトラウマもない。家庭環境が悪いわけではないし、親族も普通の人。
ドキドキワクワクはしない、楽しいっと感じるわけでもない。エンターテインメント作品としてみると無いない尽くし。でもこの作品はなんだか胸を暖かくしてくれる。
少しだけ切なくて、でもほんのり癒されて。
大人の世界と子供の世界は交じり合うことは少ないのですよね。価値観も違うし、見ている目線が違うから。
でもそんな彼らが交じり合う瞬間があるのです。子供は少し背伸びして、大人は幼い日に思いを馳せて。相手との境界線がぼやける、まるで黄昏時のよう。
出会いのきっかけはそれぞれ、過ごした時間も違うのですけど、「120円のなにか」で結びつけられたその時間を共有する彼らの時間は60億分の一の出会い。
日常と呼ぶには歪なのですけど、非日常と言い切るほどでもない。
このモラトリアムのような曖昧な時間の描き方は本当に真似できるものでは無い、ライターの真骨頂に感じました。
好きなシーンをひとつあげると、冬の終わりで主人公が眼鏡を外すところですね。
コンタクトを失った小雪が見る、信号機の星々。それは彼女にしか見えない美しい景色ですが、現実とは異なるものです。
主人公は自ら眼鏡を外してその視界に歩み寄ったのですよね。
大人と子供、最後まで線を引いていた境界線にそっと踏み込む優しい一歩。
ご都合主義というか、それは犯罪だろうとか、そんなことあるかと感じることは沢山あるんですけど、なんだかどうでもよくなっちゃうんですよね、思考の放棄です。
黄昏時のひと時ですからね、少しだけ境界線が曖昧なんですよ、きっと。なんてね。