あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! おれは歌舞伎みたいなエロゲをやっていたと思ったらいつのまにかスーパー歌舞伎エロゲを見せられていた… な… 何を言ってるのか わからねーと思うがおれもいつからスーパー歌舞伎になったのかわからなかった… あとおっぱい見えそうな服が気になって集中出来なかった…
「忠臣蔵」という誰でもタイトルぐらいは聞いたことのある物語を題材にしており、ストーリーの骨格は申し分ない。原作が良ければ必ずしも面白くなるわけではないのだが、そこをきちんとエロゲとして肉付けをして仕上げてきたことは素晴らしい。ライターの重すぎず読みやすいテキストも寄与している。
また時間の制約のないエロゲという媒体を用いることにより、ドラマや映画であれば尺の都合上カットされがちな小ネタを入れ込むことができたのも大きなメリット。
商業作品であれば文量などは予算の都合上ある程度の制約が課されるものだが、同人作品がスタートであるということはそこを度外視できた理由の一つなのだと思う。結果論ではあるが。
さて私はあまり忠臣蔵に明るくない、というかほぼ無知である。なので設定についての齟齬や何処からが作者のオリジナル展開なのかは断言できない。
しかし作者が相当に資料を読み込んだであろうことは想像出来る。細かいところで稽古の際に用いる袋竹刀などは時代背景をよく反映させていると思う。
そのうえで自分の考えをプラスしエンタメ作品として完成させることは容易ではないだろう。
ここまでの作品を企画・ライターと原画家の二人で作り上げたということは熱意と才覚あってのことだと思う。
〇ストーリーについて
全般を通して粗さが非常に目立つが、その粗さをカバーする十分な熱量と勢いを感じ取ることが出来た。
終盤の展開については多くの方が言及されているとおりで、個人的には置いてけぼりにされた気分で十分に楽しめなかったのだが、最初からこれが終着点と定めていたのであればやむなしか。
矛盾というか、腑に落ちない点が結構あるのだが女体化歴史改変もので言及するのも無粋なのかもしれない。
1~3章
おそらく一般的な忠臣蔵のストーリーに則っていたのだろうと思う。
そこに過去転移、主要人物の女体化への戸惑い、知識や剣の腕前をループするごとに向上させていく様子など定番であり思白い。
ストーリーの骨格は忠臣蔵というメジャータイトルから流用しているわけで、そこから大きく外れない展開は読み応え十分と言える。
また忠臣蔵の登場人物は多数おり、それぞれの魅力を描くには各勢力に与しなければ難しい。それをループごとに上方であったり江戸であったりと居場所を変化させ、視点を移動させて描いていたのは見事。
特に内蔵助は現代を生きる主人公目線ではお家断絶からの奮闘、歴史で学ぶ活躍などから主役・切れ者のイメージを持ちやすいものである。しかし当時の赤穂藩の者からすれば「昼行燈」の印象が強かったはずだ。それを各方面のメイン・サブキャラクター達から語らせ認識の違いを浮き彫りにさせている。
町人と武士の違い、仇討ちの意義などを自分の中で咀嚼していくうちに徐々に現代人の価値観から江戸時代の価値観へと変化していく直刃は主人公らしい主人公だった。
ヒロインらの想いによって後押しされ現代へ戻る流れも実に良く収まり読後感が良い。
4章
美談とされる忠臣蔵に疑問を呈する流れは素直に面白かった。
勝者が歴史を作るというのは事実、時の勝者が過去の歴史を変えることも当然あるのだろう。誰かに光を当てれば影が必ずできると直刃は作中で言っていた通りである。
ただどうにも気になることが2点ある。
まず一つは直刃の受け止め方だ。
自分の認識外からの意見を受け止められず狼狽するのはわかる。だが彼は一度は現代に戻って忠臣蔵について調べたはずだ。
美談としての忠臣蔵などに収集する情報が偏っていたのかもしれないが、吉良に関してもそれなりに調べたであろうシーンもある。吉良が地元に戻ることは少なかったと清水に指摘しているのがそれだ。
もう一つが歴史の混同だ。
清水は教師の様に忠臣蔵の側面を語る。それは良いし、おそらく突拍子もないことを語っているわけではないのだろう。
ただ、彼女が語る歴史は本作「ChuSinGura」の世界と一致するものなのだろうか。登場人物女体化、女侍が当たり前のように活躍するこの世界を見て現代と繋がると想像するのは無理がある。
なのに誰それが誰の子孫で、この時の恨みが何で黒幕が誰で…。言っていておかしいと思わないのだろうか。女同士で子供が作れるわけでもあるまいし。
300年続いた妄執が彼女の精神をそうさせたのかもしれないが、どうにも腑に落ちない。
重ねて直刃の行動も同じく。
先に狼狽ぶりについて述べたが、その真意を内蔵助に問うたところで何がわかるというのだろうか。内蔵助が傑物であればそれをうまく隠すだろうし、歴史上の内蔵助と女体化内蔵助は同じでは無いだろう。
重ねて言うが、腑に落ちないのである。
5章
赫夜への反抗、総力戦、大団円。もう圧倒的な勢いだ。
風呂敷を畳んでしまいたい、望むべきところへ落ち着かせたいのはわかるが、あまりにも急展開すぎる。
赤穂浪士達もよく土壇場の説明で納得、理解できたものだと思う。日本の危機といわれて「はいそうですか」とはならないだろう。
後日談もあの島で暮らすという結論にみんなが承知できるとは思えない。仮にも武士なのだから、侍としてのアイデンティティがあるのでは。一度死んだ身だからとやすやす打ち捨てられるものだろうか。
あまりにも都合の良いユートピアに思えてならない。
また、骸骨侍や赫夜、急に出てくる要素・キャラが多すぎる。赫夜の登場はFF9のペプシマンぐらい唐突だ。
赫夜の妄執は彼女にとっては大きいのだろうが、唐突にそれを語られても「あっ、そうなんだ」ぐらいにしかならない。根拠も彼女の家に伝わる伝承では納得できるはずもない、むしろ赫夜も良く疑問に思わないものだ。
これまでのストーリーで積み上げられてきた魅力がほとんど無いためにどうしても魅力的な悪役になれていないのだ。
というかあの雰囲気の中でまた歴史の授業が始まるのは場違いに思える。
4章でも述べた通り、この世界の人々の歴史とどれだけ整合性があるのかもう少し考えて然るべきだろう。
浅野家の2代目が結局毒殺じゃなくて病死でしたというオチで片づけられるのも、赫夜の妄執がただの空回りした暴走で片づけられているようでなんだか悲しく思える。
能力バトル展開は正直私には付いていけなかった。
ファンタジー能力展開自体は別に良い。問題は今までとの落差が大きすぎるということ。
1~3章まででそういう要素はもちろんあった。呪いで吉良が若返り白蛇を召喚する流れはもはやお約束だったし、千鳥で倒す流れも同じくだ。妖刀村正もあった。
しかし、その程度だ。
骸骨侍は5章で初めて出てきてロクな説明は無いし、ラストバトルはその比じゃない。
強敵のはずの骸骨侍は赤穂浪士達にバッタバッタやられる、対策を講じたとは言ってはいたが何なのか不明。
千鳥を複製する流れもどうやったのかさっぱりわからないし、そもそも千鳥でなければ倒せない理由もはっきりしない。
切っ先三寸とか、間合いを詰めれば長刀は不利とか今までの真面目な剣術理論は過去のものとばかりの大立ち回り。
どうやって飛んでいるのか謎である。そんな効果が千鳥にはあるのだろうか。
呪いによる過去転移が始まりであるので、最後もある程度ファンタジックな落としどころであることは当然だろう。しかしもう少し段階を踏まねば理解が追いつかないと私は思う。
例えるなら、一緒にマラソンを走っていた友人が最後にぶっちぎって何故か飛び始めたような気分だ。
〇エロゲとして
この作品は、とてもセクシャリティでエロゲらしい。
登場人物の衣装を見てほしい。もはや乳がはみ出さんばかりの服、下着も丸見えだ。チラリズムの良さなど微塵もない。痴女だよこれは。
過去転移した主人公が疑問を覚えないのがもはや不思議なほどである。それ以前に女体化をすんなり受け入れる時点でアレだが。
また内蔵助が真面目モードと昼行燈モードで体形まで変わるのにも突っ込まない。どちらでエロシーンをするのかと思えば両モードとは驚いた。将軍に至ってはバター犬愛好家、生類憐みの令をそこで持ってくるのは脱帽である。
加えてかなりの頻度でラッキースケベ的展開もある。
エロゲ的展開がかなり雑に挟まってくるのだ。
正直、真面目に文章を読んでいる最中に痴女大集合の絵面を見せられると私は入り込めないのだが、諸兄らはどうだろうか。
登場人物の可愛らしさに着目してプレイするなら問題は無いのだが、武士道や仇討ちの要素に注目するとこのエロゲらしさは私は弊害に感じてしまったのである。
加えて、肝心のエロシーンはいささか物足りない。安兵衛の「毒がたまって苦しい」とかもうギャグだろうと。
シリアス、エロス、どちら側に立ってもアンバランスさが拭えない印象になってしまったのは残念だった。
※
投稿前にいくらか他の方の感想を拝見したところ、hotpants氏の感想の視点に驚いた。
私の感想で腑に落ちなかった点や、エロゲらしさの違和感について一定の解釈が得られた。これを肯定するのはいささか思考の放棄のようで悔しいのだが…全てにうなずけるわけではないがここまで説得力をもって語られると圧倒されてしまう。
hotpants氏の感想
https://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=17811&uid=hotpants