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HARIBOさんのはるまで、くるる。の長文感想

ユーザー
HARIBO
ゲーム
はるまで、くるる。
ブランド
すみっこソフト
得点
85
参照数
228

一言コメント

例えるなら「おっさんの営業する汚いラーメン屋」 羅臼昆布の出汁を使っているのに言い出さず、それにラードをぶちまけて「ウメェだろ」って言うみたいな。いい意味で敷居の低い作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

カーネーションとはリインカーネーション、つまり輪廻転生であり、設定の根幹はこれを柱とする仏教的価値観によって構成されている。これに調弦理論(ひも理論)や各種の宇宙科学などの説得力を担保する要素を加えてストーリーを整えられている。ライターの独自解釈は当然あるだろうし実現不可能性を感じる部分はあるが、SFにそれを言い出すのもナンセンス。そもそも私はばかなのであまり言及できないのだが。

むしろこの作品の妙は、そういうところを考えなくても楽しめる塩梅にある。
仏教要素について紐解いて解説されている感想を拝見するに、ヒロインの属性やストーリーが仏教要素からのメタファーであるとか様々な方面からの解釈が得られ、それをもって楽しむのならば100%を超える満足度を得ることだろう。
しかしそれに気が付けず、気が付かず作品を終えたとしても作品の楽しさはなんら劣ることはなく、つまり作品プレイの前提となる知識を求められていないのである。
私の無粋な勘繰りかもしれないが、モチーフとなるものが明確に骨子として存在する作品の場合、意識的無意識的にかかわらず引用元の履修を求められている気分になることがある。作者は相当に読み込んでいるのだから、それを前提に組み立てるのは当たり前といってよいのだが……過度な引用を繰り返すことによる読者との意識の乖離というか。
この作品を読みたいのであって、モチーフ元作品を読みたいわけではないし、モチーフの解説を読みたいわけでもない、みたいな。

「はるまで、くるる」にはそれがない。

ふと引用元がよぎることはあってもそれが長々と続くことはなく、ヒロインたちの下ネタ交じりの軽妙なやり取りやフランクな地の文でリセットしてくれる。

料理というか店で例えると、おっさんの営業する汚いラーメン屋かな。
メニューはべとべとしてるし、店主もガサツなんだけど、食ってみるとなんだか深みがある。聞いてみたら、

「北海道の羅臼昆布の出汁だよ、ウメェだろ」

それに自分からラードぶちまけて

「これもウメェだろ」

なんて感じの、羅臼昆布についてアピールもしないし、食べ方を強要もしない。
商品の確かな品質といい意味での敷居の低さが両立したお店。



それを踏まえてストーリーの流れを見てみると、最初の怒涛のエロシーン連続は一つの「試練」だ。

想像してみてほしい、お昼時を外れて3時頃だろうか、暖簾が出ているラーメン屋があったから入ってみたとする。
店主はテーブルに足をのせて煙草を吸いながら、けだるそうな常連の女とテレビを見ている、店の端っこにはペットか何かわからないサルや犬が鎮座していてこちらに威嚇してくる。
やべぇ店に入っちまったと思わないだろうか、私なら多分回れ右をすると思う。

まぁ試練だとして、あの怒涛のエロシーンに意味があったのかといえば、無いこともないが微妙という感じ。
もちろん最後の1年間で「一季ハーレム」を構築することは人類繁栄の必須要件であるし、それの試行としてカーネーションの中での一幕だったと考えれば意味はある。
最後の1年間で連続エロシーンを入れ込むのはさすがに話の腰を折りすぎるので最初に、というのはわからないでもないが…。BADENDとは言わずとも、一つのノーマルエンドとしたほうがおさまりが良いのではと愚考してしまうところである。


ちなみにキャラでは秋桜が一番好き。
男らしい名前とボーイッシュな見た目とは裏腹に乙女チックで潔癖な性格。立ち絵で両手を口元にあてる仕草なんてあざとさの極みだが、逆にこれがたまらない。ストーリー的に裏はなく、序盤で見せ場が終わってしまったのが実に残念である。