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HARIBOさんのMinstrel -壊レタ人ギョウ-の長文感想

ユーザー
HARIBO
ゲーム
Minstrel -壊レタ人ギョウ-
ブランド
得点
83
参照数
67

一言コメント

文章の巧みさ、書くべきところにフォーカスしてまとめ上げた出来栄えは確か。無駄のない、ストイックな作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

淡々としながらも繊細な心理描写、出会う人々との思想、境遇の対比。
丁度いい塩梅で挟み込まれる伏線回収は、物語にカタルシスを与えてくれる。
およそ無駄なところがほとんど感じられないのは見事であり、飽きることなく一気にプレイできた。

反面、絵や音楽などストーリーを盛り立てる部分が不足しているように感じるのは惜しいところ。
あえて少ない素材だけで勝負したい、という引き算の美学を目指しているのなら別だが、この作品にはそのようなこだわりは感じられなかった。あえて言えばテキストに他の要素がついてこれていないといった感じだ。
同人作品なので、立ち絵や曲の数などいろいろと制約・限界はあるのだろうが……テキスト、展開だけで十分なクオリティが担保されているので、そこに十分な素材が加わればより良いものになったのだろうなと思えるだけに欲が出てしまうものだった。


ちなみにこれはルクル氏の商業ブランド、ウグイスカグラの作品にも継承されてしまっているように思う。ルペルカリア以外では長所を打ち消す短所がある作品が目立つ。
各作品の感想で語っているので興味のある方はどうぞ、ただの駄文ですが。



〇ストーリーについて


作品の雰囲気は私には「キノの旅」を彷彿とさせた。
行く先の町々で様々な価値観の住人と触れ、歓迎されたり、拒絶されたり、その後の町の変遷を描いたりといった展開が似通っていたように思えていたのだろう。序盤の淡々とした文体も同じく。

人間を目指すという目的との相似を考えると「銀河鉄道999」も少し思い出した。
人間が機械の体を手に入れるために旅をするという本作とは逆の展開だが、いろいろと似た展開もあったように記憶している、うろ覚えだが。

さて、ストーリーのテーマは「違い」なのかなと。
思想、価値観、境遇もそうだし、根幹にある「人間と人形」は言うまでもない。各章ごとに対応する人物が登場し、どちらが正しいとも言い難い状況のなかで答えを選んでいくのだが、決して後味の良い終わり方になってはいない。良かれと思ったことが悲劇を招いたりもしていく中で自問自答し、答えを見つけ出そうとあがくロマの様子はとても「人間」らしかった。

・1~2章
まだ感情が良くわからないロマの視点が多いので淡々とした描写が続くのだが、これが「違い」を浮き彫りにしていてとても良い。
ガイウスへの共感。アデルと出会い、彼の力になりたい、でも壊したくない。
多くの感情はロマを素通りしていくのだが、その中で少しだけでも響いたものになんとか反応している様子は彼の不器用な成長を感じさせてくれた。

・3~4章
王女様、最高傑作、実は人形…。怒涛の伏線回収はカタルシスを感じさえ確かな面白さを演出してくれている。すこし駆け足に感じるところを感じたが、それは前半の淡々とした描写を私が好んでいたせいかもしれない。少なくともこういう山場はあったほうが良いのは確かだ。

王国とレジスタンスの戦いの行方、宰相についてなどは曖昧なままだがまぁそこは本題では無いのだろう。政治だとか人形を取り巻く状況だとかの壮大な出来事ではなく、ロマとリーベが旅で得たもの。そしてヒルダとロマがこれから得ていくもののほうが大事なのだろうから。



〇演出について


吹き出し的な演出と言うのだろうか、私はあまりプレイしたことが無かったので新鮮な気持ちでプレイできた。
言葉を吹き出し、地の文をテキストボックスに配置することにより画面をすべて使ってテキストを表現できているのは見事だ。テンポも良い。

ただ、誰が喋っているのかが一見してわかりにくい時があったように思う。
一人のキャラが一息にまくしたてるとき、画面は吹き出しで埋まっていく。立ち絵が二人いてもお構いなしにだ。その結果、ガイエルのセリフがリーベの立ち絵上に出現するといったようなことが多々あった。
わかるだろと言われれば、まぁわかるのだが……テキストボックスに被ったりとかもあったし、もう少し違う配置でも良いんじゃないかなと少し思ったり。

もちろんこの演出自体は素晴らしいと思います、ハイ。



〇「人間」と「人形」の違いとは。


考察、と言うわけではないが。

単に機械か生物かという問題であれば、外見・身体組成で断じればよい。だが魔導核というものがあり、両者の境界は曖昧な以上、それを決めるのはそうありたいという”意志”で、それを実現させる”力”なのだと私は思う。

”心”や”感情”を手に入れることでロマは人間に近づこうとしていた。であれば最後のロマは「人間」なのだろうか。目覚めた直後、自分をエメリヒと認めた彼はなるほど人間として自分を定義しているのだろう。しかし強大な膂力、機械仕掛けの身体はそのままのはずだ。そんな彼を見て周りは「人間」と思うだろうか。リーベの胴体から見える機械も同じだ、人間とは思うまい。

しかし、それが露呈するまでは周囲には「人間」に見えていたのだろう。
最初の町で魔力により隠されていた人形のパーツもそうだ、半分人形に浸食されていようが普通の旅人には「人間」そのものに見えている以上「人間」なのだ。
そう見せているのは魔導核であり、それを定義したのは最後の時まで人間として優しい夢を見させようというガイエルの”意志”である。そして実現したのは人形師としての”力”だ。

ヒルダを人形と断じ、殺そうとしたロマを翻意させたのはヒルダの”意志”であり、それを導いたのは「人間」として旅をしてきたリーベに他ならない。

アデルもロマも「自分は人形」と明言していたのは、それが彼らに定義された自我であるからだ。出会った人々から得たこと、そして「命令に従うな」という荒療治でもって”意志”を獲得した時、父によって与えられた”力”と合わさって「人間」になれたのではないかと。



〇まとめ


もろもろの構成要素はアンバランス、誤字の多さもかなりのものではあるが、同人であることを踏まえれば致し方なし。文章の巧みさ、書くべきところにフォーカスしてまとめ上げた出来栄えは確か。
ウグイスカグラから来た身としては同人時代の作品はどんな尖った作品なんだろうと身構えたものだが、意外に小さくまとまった作品で驚いた。
登場人物も強烈な魅力、というよりは素朴な味付けなのも面白い。

再販はもう無いようなので、新規プレイヤーが増えることはあまり無いのが残念ではあるが、もしかしたらの再販あるいはリメイクを祈る。

2024.2.21