令和の今プレイしてみると、退屈な普通の萌えゲーのような、でもそれだけじゃないような、なんだか不思議な作品。 幼少期の選択で未来が変わる「みずいろシステム」をうまく生かした展開は見事。
〇作品全体から受けた印象
作品全般の感想を正直に言わせていただければ「退屈」です。
ヒロインごとに軸となるストーリーはありますがスケールの大きなものではありません。伏線もあるにはありますが大概の人はほぼほぼ気付いてしまうのでは無いでしょうか。
日常描写も淡々というか、同じシチュエーションが多いのですよね。朝は雪希に起こされて、たまに寝坊して、走ったり走らなかったりして学校に到着。やかま進藤をいじって、清香といじり合って、日和をいじって。
そして授業中は9割がた睡眠学習に励むと。
必然的にヒロインとの絡みは放課後と休日に集中するわけです、そこまでの流れが変わり映えせずいささか退屈。
ただ、こんな退屈な日常の繰り返しがねこねこソフトらしいとも言えるのですよね。後になってわかる日常のありがたみ、みたいな感じですかね、病気になって健康のありがたみがわかるとか、両親の離婚で兄妹が離れ離れになってしまうとか……あぁ、あの退屈な日々がかけがえのないものだったんだなみたいな。個人的にこういう描写がねこねこソフトのお家芸みたいな要素だと思っています。
ただ、本作にはそこまでドラマチックな展開は無いので、相対的に「退屈さ」が目立ってしまっているわけです。お話に山場を求めるのであれば、このあたりはちょっとつまらなく思えるかもしれませんね。
〇登場人物、個別ルートについて
先述した通り本作に重厚なストーリーは無いです。しかし、登場人物の魅力はこれをカバーして余りあると私は思うのです。個別ルートの内容を踏まえて各ヒロインごとに感想を。
・雪希
わだかまりの過去を乗り越えて育んだ絆、献身的な妹。エロゲーにおける義妹のひとつの解とも呼べるのでは。
彼女は健二にとっての日常、特に家庭の象徴です。雪希に起こされることにより一日が始まり、雪希におやすみといって一日が終わる。
個別ルートでは幼い頃にもらった指輪と日和との約束が彼女を歪ませます。妹であること、恋人であることの狭間で揺れ歪む心。
このルートで印象に残っているところは、健二が自分の恋心の対象として「おれは日和が好きだ」と一時は認めているところですね。
「日和じゃない、雪希が好きなんだ」のように最初からメインヒロイン一途というわけではなく、やはり妹は妹であると一線を引いているように見えます。だから雪希も妹であることから抜けだせない、そうして歪んでいくわけです。
ここから秘めた双方の恋心を認めるようになるきっかけはいくつかあります。例えば幼い頃の習慣、壁のノックとか良いですよね、消えなかった二人の絆みたいで。
ただ個人的には、日和の「雪希ちゃんの気持ち、気づいてるよね」の一言がガツンと来ましたね。普段はほわほわとした彼女がたまに見せる強さ、良い女だなぁと思わずにはいられませんでした。
・日和
作中唯一、片岡とも氏がシナリオを書いているルート。
他のルートと違いファンタジックな要素を含んでいるのが特徴。生霊ということになるんですかね、もしかしたら健二の妄想か何かかなと現実的な解釈をしてみようと試みたのですが、宙に浮くパンツを雪希が認知している以上はファンタジーと捉えるしかないです。
ルートのテーマ的なものを勝手に解釈すると、日常と非日常の対比。
引っ越した後はそれなりに普通に暮らしていたであろう彼女が交通事故で一変、生死を考える局面になるというところなどがそれです。
健二のところに化けて出てくるのはいささか唐突ではありますが、死を目前にして父に聞かれた「やりたいこと」を考えてみたときに答えを出せなかった彼女が深層心理で願った答えなのかなと思うのです。
多分、幼少期の頃のことはほとんど忘れていたと思うのですよ。
「そういえばそんな男の子もいたような…」というレベル、でも心の中では確かに残っていた。だからあのクローゼットを縁として生霊の彼女は生まれたのでしょう。
彼女のルートで特に印象的な台詞は
「わたし…普通が好きだよ…」
生死をさまよって、生霊になって、普通のこともできなくて。だからこそ「普通」の価値が見えてくるのですよね。
ただ、惜しいなと思うところは幼少期のエピソードが乏しいところですね、サッカーをやめて日和に付き合ったらもうルート確定ですから。もう少し積み上げるものが欲しかったなと。
……ここまで書いておいてなんですが、実はそこまで日和ルートは好きではないんですよね。ファンタジーが嫌いなわけでは無いんですが、みずいろという作品全体を通して見るとなんだか浮いているといいますか。他のヒロインルートが結構好きなので、余計にそう思えるのかもしれません。
最後に、他ルートの日和について。
基本的にクラスメイトとして健二にいじられる印象が強い彼女。彼女がいるとなんだか場が和みます、”日”常を”和”ませる存在ですね。この他ルートの日和、日常の象徴がいるからこそ彼女がいない日和ルートではその価値が際立つと思うのです。
まさに「失って初めてわかる大切さ」ですね。
・進藤
ルートによって2つの顔を見せる柔と豪を使い分ける後輩、進藤。みずいろシステムの影響を最も強く受けているヒロインですね。
やかま進藤が攻略できないのはバグ(FDなどで攻略対象にはなります)
ストーリー自体は伏線を主体とした勘違いモノですね。子供の頃の恋心、ちょっとしたいたずらが人格形成に与える影響力の強さ、健二の選択の重さを感じられます。
とはいえ好きな男の子の理想に近づくために性格まで変えようとする彼女の頑張りはいじらしくて可愛らしくて、やっぱり大好きですね。
他のヒロインってストレートな恋心というよりは家族愛だったり友人関係からの移行的な恋愛じゃないですか。青年期になり自覚したこの気持ちを愛と呼んでいいのだろうか……みたいな。
でも彼女は違う。“好きだから”が幼少期からあって、その気持ちが彼女を変化させて、理想の男の子への思いを募らせて燻ぶらせて。
そして再会した王子様、でも自分は仮面を被ったままなのですよね。
“むつき”が好きだったレーズンを何とか我慢して食べて、“むつき”が得意だったクレーンを不安げに挑戦して、やっぱり駄目で。見ていて切なくなります。
そして極めつけはエロシーン。
いざことに及ぶ段階で、「むつきちゃん…むつきちゃん…どうしたんだ、むつきちゃん…」
いや、ひどい。もうやめてくれよ…と思いましたね。
まぁ、あそこで受け入れたらどうなるのか…ということも気になるところではありますが。
さて、このルート全体はお話自体そこまで捻ったところはないですし、伏線もすぐに気づくでしょう。しかし他ルートでのやかま進藤、そこに与えた主人公の選択を合わせて見ると堪らなく好きなルートになるんですよね。
単体なら大人しい後輩ヒロイン止まりかもしれない彼女がここまで魅力的な存在足り得るのは、みずいろの様々な要素があってこそなのだと感じました。
・清香
テンプレツンデレ、対等に言い合える気安い関係性。ヘリコプターかガンダムかは不明だけれどもリボンの見た目のインパクトに脱帽。絶対に邪魔ですよね、後ろの生徒が可哀想に思えます。
彼女は日和と同じくクラスメイトとして学校を象徴する存在です。
日和が“和み”というような存在であったのとは異なり、ほんの少しのキツさと楽しさを担当している気がします。キツさといっても悪い意味ではなく、お互いをいじったりディスったりと気安い会話ができる。いわゆる気の置けない関係ですね。
絶対ではないですがこういうポジション、本来なら“悪友”が担当するべきものだと思うのです。本作では友人として南山が用意されてはいるのですが、登場場面が乏しくあまり印象に残りません。えちぃ本を貸し借りするぐらいでないでしょうか、彼の目立った活躍は。
なのでそういう要素は自然と清香に割り振られているのでは無いかなと思うのです。
さて彼女のルートを簡単にまとめると継母との関係改善、そして思い出の中の実母からの脱却です。
そのキーとなるアイテムに砂絵があり、完成させるために主人公を巻き込むという流れですね。健二と共に、砂絵を誰のために作っているのかということを認識していくストーリー展開。普段は勝気な彼女が見せる弱気な表情はとても健気で可愛らしく感じました。
ところでこの巻き込む、泊まり込むという理由付けのために“砂絵が得意であった”という過去のエピソードを利用しているわけですが、ちょっと理由としては弱い気がするのですよね。私が砂絵を嗜んでいないために共感しにくいこともありますが、砂絵である必要性みたいなものが見えなかったと言えますか。もう少しポピュラーな題材のほうが受け入れやすかったのではないかなと思ったり。
ところでこの砂絵制作エピソードは清香ルートのみではなく他のルートでも行われていることが読み取れます。健二には直接明かされていませんが、清香が日和を伴って小野崎家に帰る描写がそれでしょう。砂絵はどのルートの清香にも共通する大事な要素のはずですから、他のルートでもこの設定が生きていたことは嬉しく思えましたね。
ただその場合、砂絵は未完成に終わっている気もしますが……。
・麻美
みーちゃんを失ったぼっちのあさみ姫が現状を変えたいとあがく、小さな挑戦と冒険の物語。
彼女になぜ友達がいないのかはわかりません、描写されていませんから。
イマジナリーフレンドに傾倒したから友人ができないのか、友人ができないからイマジナリーフレンドに傾倒していくのか。みーちゃんの代替として、絶対にいなくならない存在として生みだしたのか。
はたまた別の理由があるのかわかりませんがイマジナリーフレンドは彼女にとって大事な存在であったことは確かで、「さようなら」と別れを告げることは並大抵の苦悩ではないはず。それを淡々と、いつものマイペースで、でも少し愁いを帯びて告げるところはグッときましたね。
のんびりした様子は一見主体性が無いように見えますが、なんだかんだここぞというところでは強く主張するところも好きです。
あと健二との相性も良いと思うんですよね。
健二って昔の主人公らしく優しさはあるけれどもちょっと傲慢というか、我が強いと思うんです。後輩や同級生相手に対する彼を見ると少し押しつけがましく感じると言いますか。
それが麻美相手だと先輩だからほんのわずかに敬意を払いつつ、でも無遠慮さは変わらず。そして健二の強引さが吸収されているみたいに思えるんですよね、ふにゃふにゃした麻美の前では暖簾に腕押し、みたいな。
うーん、力うどんみたいですね(適当)
さて、みずいろシステムから見ると、彼女のルート分岐は誰とも結ばれなかった結末。
つまり幼少期の選択により彼女は何も変化しない、もしくは変えられないということなのかもしれないです。
彼女の過去は彼女のものであってそこに健二の立ち入る隙はないと考えると、このルートの特異さが際立つとともに彼女の強さが感じられるのです。
◯みずいろシステムについて
幼少期の選択により未来の関係性が変化するこの構成は「みずいろシステム」と呼ばれ、この後のねこねこソフト作品に受け継がれていきました。
このシステムの面白いところは、登場人物の性格や関係性がガラリと変化しつつもそれを納得させてくれるところ。
わかりやすいところでは進藤ですね、やかま進藤おとな進藤と性格が一変する様子は最初こそあっけにとられますが、幼少期パートを見ればこの変化に納得できます。彼女の人格形成は「おとなしい子のほうが好き?」という問いが発端になっているわけで、まさにみずいろシステムによるものです。
この変化、主人公の選択が為した結果と考えるとむしろ業が深いとまで思えるのですよね。
先と同じく進藤を例に挙げますが、彼女の本来の性格はやかま進藤であったはずで、それを変化させるだけさせてそのままお別れですよ。もちろん健二は悪くないです、だからこそ業が深いのです。
進藤は健二との出会い、問いへの答えが無ければ、活発な彼女でいられたのでしょう。
雪希はあの指輪が無ければ、日和との約束がなければ縛られずただの妹でいられたはずです。
日和はどうなんでしょうね、マクロ的に見れば引っ越さず事故に遭わず平和に過ごせたと見ることができるかもしれませんが、まぁこれは穿ちすぎでしょうか。
清香は……正直あまり変わらないと思います。両親の離婚は変わらないでしょうし、砂絵を作り続けることも同じく。健二と出会い砂絵を作るほうが予後が良い気がします。
麻美はみずいろシステムから外れているのは先述した通り、彼女はみずいろシステムという運命の業とは違うところにいる気がしますね。
あとは制作面に目を向けて考えてみると、複数ライター作品との相性が良いんじゃないかなと。
例えば複数ライター作品で、個別に入って主人公やヒロインの性格が変わったなとか思うことがありませんか?ディレクターがうまく調整すればマシにはなるかもしれませんが、必ずしもうまくいくものではありませんし、それはそれで良さを潰すことにもなりかねません。
みずいろシステムはそれを許容しつつ、納得させることができるシステムなのです。
◯音楽について
まず主題歌のみずいろ、掛け値なしに素晴らしい。
歌詞は作品にマッチして、何度聞いても飽きない名曲だと個人的に思います。オルゴールバージョンも最高。
BGMは粒ぞろいで、曲と登場人物、シチュエーションがしっかりと思い起こされます。キャラのテーマソングは明るめの曲が多いですが、BGM全体でみると少し寂しげなマイナー調の曲が多い気がしますね。
特に好きな曲をいくつか。
・鳴る高架線
響く低音はまさに鳴る高架線のよう、高音で奏でられる笛のメロディーは吹きすさぶ寒風のようで。二つの音が合わさるこの曲は、吹きすさぶ寒風に鳴らされる高架線を見事に表現していると思います。
・いっしょに
進藤のテーマソング。
明るい曲調の中に少し寂しげな雰囲気を合わせもったこの曲は実に彼女らしいと思います。後発のCDなどに収録されているのですがボーカルバージョンもあります。
・スカーレット
切なくて、でもキラキラとした、大切な曲。
後発作品でボーカルバージョンが作られています、アレンジも多数。
◯おまけについて
エロはまぁそれなりですね。シコリティはそこまで高くありませんが、そこに至るまでの他愛ないやり取りが愛おしいです。
その他、大好きなパロネタおまけについて少々。
・スピードワンボックス財団
恒例、ジョジョのパロネタ。
銀色をプレイしていないと意味がわからないかもしれませんが、ぶっちゃけ意味がわからなくても問題ないです。雰囲気に浸れ。
・哭きのユキえもん
パロディーに次ぐパロディー。エロゲブランドって麻雀ネタ好きなところ多い気がします。
哭きのセンパイ、デューク進藤はもうヒドイ。でもくっそ笑えます。
ストーリーなんてものは無いです、ただ雰囲気に浸れ。