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H.S.SさんのCARNIVALの長文感想

ユーザー
H.S.S
ゲーム
CARNIVAL
ブランド
S.M.L
得点
95
参照数
1577

一言コメント

もともとは絵買いだったけど、思わぬ掘り出し物だった。桑島さんが設定したと思われるあのキャラ設定でここまでぶっとんだものが書けるとは。ライターにはこんな業界にいないで普通に小説書けよとつっこみたかった作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

メインヒロインとその友人、プライドが高い先輩、ロリ枠でその妹、大人の意見も取り入れようということで婦警さん。グリグリとほぼ同じキャラ設定でここまで異質なものを描いたライターさんは素直に凄いと思った。

内容を簡単に言うと、虐待を受けて育ちいろいろなものが欠けた主人公とヒロインがよくないことだし何も解決することはないと分かりつつも一緒にいようとすること。かな。素直に親を憎んでいればこんなことにはならなかったかも

いらないキャラもいるけど、そこはまあ、企画を通すために存在したと思えば。

一章は内容に関しては特に注目するところはないかも。
学視点のあの電波な一人称は合わない人もいるかもしれないけど、個人的にはかなりお気に入り。他の章や違う作品の文体を見ると全然違うものであることが分かるので、むしろ意図してあの自己完結的で意識と肉体が乖離しているような文章を書けるのはすさまじいと思った。冒頭のシーンでいきなり月に蛆虫が湧いて見下したような気味の悪い笑みを作っている、とか、結構ぶっとんでるけどね。
意識と肉体が乖離しているようなって書いたけど、主人公は自分のことを他人ごとのように意識している感じ。当事者意識がないというか、例えばナイフで刺されたとしても、ああ、痛いなあと思うだけみたいな。育った環境を考えると仕方ないことかもしれないけど。

一章のタイトルは「Carnival」

記憶にはないけど何故か殺人容疑で捕まった主人公が、ふとしたことから警察から逃げ出してヒロインの理紗から借りていたハンカチを返そうというストーリー。で、理紗の不自然な行動に疑心暗鬼になるけど、今まで忘れていた武という人格に気づき、人格を統合して理紗と一緒に逃げ出すという話。
明らかに長続きしない一過的、刹那的な状況(警察から逃げている現状で詠美、婦警さんを監禁している状況、また普段の力関係が逆転していること)と夏祭り(carnival)とを合わせ持った意味のタイトル。いわゆる非日常。

二章のタイトルは「monte cristo」
今まで学の中に閉じ込められていた武君がまわりに復讐する話。今まで見えなかった武視点で話が進む。タイトルの通り。

そして三章のタイトルは「traumerei(トライメライ)」
理紗視点で今までの半生を振り返るシナリオ。日本語に訳したら夢想ですかね。ここで急に丁寧でやさしい文体に変わるが、内容は結構ハード。
理紗の幼少期から始まり、性的虐待により理紗の人格、考え方が壊れていく様子を学との交流を交えながら丁寧に描いています。外からみたら優秀なエリート家族なんでしょうけどね。
理紗は仮面を被ることに慣れ、そうした自分に罪悪感をもってしまいます。そんな中での学との交流。最初のころは良かったものの、学が虐待で余裕がなくなってからはお互いに行き違うちぐはぐな感じの交流になってしまいます。依存していると言えるほど学のことを尊敬していたのに、仮面を被らなくてもいい相手なのに、仮面を被った自分に気づいてくれない。学が返そうとしていたハンカチはまさにその象徴ですね。万華鏡はその逆で、理紗にとってはすごいと思えたものだけど、学にとっては母にたくさんプレゼントした物の一つに過ぎない。
途中に入るキリスト教のエピソードはいろいろ考えさせられます。それでもやはり理紗は自分は救われてはいけない人間だと考えてしまう。学君はあんなにがんばっているのに、自分はまわりに言われるままふわふわと優等生を演じているだけ。
そんな中、学に限界が訪れあの事件が起こってしまいます。そして学は武の存在に気づき理紗と一緒に逃亡。

最後の方に出てくる学と武の上位人格「学」と理紗との会話に
「理沙は学の母親になれないし、学は理沙の父親になれない」
というせりふがありますが、理紗はそれでもいい、一生懸命走りたい気分なの、と言います。理紗にとって学は絶対的な存在なのでしょう。

一方、上位人格でない方の学は、途中まで一緒に逃げておきながら理紗を置いていこうと寝ているうちに出かけようとします。というのは学も理紗と一緒にいることが決していいことではないと人格の統合により気づいたからです。しかし、理紗は学に気づいてしまう。私が学君と一緒にいて、そして幸せになろうと決めたのにどうして置いていっちゃうの?
そこで学は理紗と一緒に行くことにする。
「理沙が望むのなら人をやめて神にでもなんでもなろう」

かくして、絶対届かない仕組みになっている人参を追いかけるような道を二人は選びましたとさ。まる。お互いをよく知っている二人がここまですれ違うとはねえ。


以降の話は小説版に収録されています。まあ順当というか、指摘されていたとおりに、人参を得る前にタイムリミットがきてしまう話。でも学のおかげで理紗がやっと今まで踏み出せなかった一歩を歩んだと思われる。


泉ルートについて

途中でいろいろなものを投げ出して度会泉と逃げ出すルート。学が人生の楽しみ方を教えてもらったとか言うし、割と幸せそう。逃亡生活が長く続くかどうかは分からないけど。
万馬券を当てて、ラブホで金をばら撒きながら金色夜叉ごっことかなかなか楽しい。エロシーンも内容があって普通に読める文章(エロス的な意味ではなく)。作中で理紗が想像していたけど、泉と学が付き合って、理紗が友達のままでいられたらわりといい状況になっていたと思う。理紗はすくわれないけど。

思いつくままにとりとめのないことを書いたけど、変わったシナリオゲーをプレイしたいならお勧め。分かりやすいびっくりするような展開や、今はやり?の説教ゲーを期待しているなら微妙だと思われる。