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Grabさんのカタハネの長文感想

ユーザー
Grab
ゲーム
カタハネ
ブランド
Tarte
得点
100
参照数
1787

一言コメント

百合+シナリオは、俺が求めてきたもの

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「百合」「名作」というキーワードの組み合わせで高い評価を得ている作品ははじめて見たため、早速買いに行った。心の中で、メーカーが「雰囲気はいいが、シナリオは短い」という印象のあるTarteであることが唯一の不安だったが、完全な杞憂だった。愛を一途に、だけど不器用に、そして大切に描いた名作。

この作品が百合ゲーとして名作なりえたのは、百合ゲーでありながら魅力的な男性陣を描いたことだと思う。セロのワカバに対する態度は、彼の性格を静かに描いていると思う。トニーノのシルヴィアに対する態度にしてもそうだ。彼らが相手を大切にしていることが、こちらに伝わってくる。だから、彼らの恋愛事への煮え切らない態度にも好感がもてる。彼らは、一途だ。男から見ても、魅力的な男だと感じる。そして何より、アイン・ロンベルク(じーさんのほうではなく)。この人抜きには、けっしてカタハネは語れない。1周目は、彼へ疑惑の視線を向けていたが、次第に、かわいそうな悲劇の人、という印象を持つ。だが、3周目、彼はたしかに死んだが、実はすべてが彼の思惑通りだったのだと知り、身震いがした。そしてなにより、ココのひたいへ口づけをするシーン。あれがどういう意味かわかれば、この人もまた、セロやトニーノのような、不器用さを持っていたのだと知ることができる。もう、泣きまくりでした。

で、女性陣のお話。プレイ前から、自分は「アンジェリナはクリスティナの生まれ変わりなのかな?」とか思っていたが、そうではなかった。これがいい意味で期待を裏切ってくれた。そんな安易な話ではなかった。ベルはエファであるが、アンジェリナはクリスティナではない。エファがカタハネを失って以来、すぐにクリスティナを失った。そして最後のシーンで、クリスティナを演じるアンジェリナとの演劇のシーンで、再びカタハネを取り戻す。つまり、カタハネとは、エファ(ベル)にとって、クリスティナであり、アンジェリナである。翼は2枚あるから空を飛ぶことができるなら、エファ(ベル)は再び空を飛べることになる。自由を手に入れることになる、と解釈できる。少なくとも自分はそう解釈したが、とにかく涙が止まらなかった。カタハネはこういった「何か」を「何か」に重ねる象徴的なシーンが実に多い。だから、見ている側に考えさせてくれる。考えさせるだけのことを隠している。考えさせるだけのことを見せている。そして考えさせるだけの魅力がある。だから、名作だ。

最後に、ココのお話。こんなに物語のカギを握っているとは予想外だった。この魅力には、降参だ。デュアを思い出すシーンなんて、涙でディスプレイが見えなかった。余談だが、フローラ(ベルの目覚まし時計)もいい味出している。あのバッグから顔を出すシーンなんか、かわいくて目が離せなかった。

長くなったが、これが俺の求めていた作品。まさかTarteがやってくれるとは思わなかった。見直した。