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Gore Screaming Showさんの好き好き大好き!の長文感想

ユーザー
Gore Screaming Show
ゲーム
好き好き大好き!
ブランド
13cm
得点
90
参照数
1496

一言コメント

紛いなりにもテキストや"シナリオ"に価値を見出すのであれば、2014年03月発売のメガストアを購入されるのを強くオススメします。中でも『さよならを教えて』を好きな方は是非。長文は前半ネタバレ無し、後半がネタバレ有で記述。

長文感想

一応最初に言っておきますと、この作品に萌えや抜きの類を求めるのは間違いですので
もし『しゅきしゅきだいしゅき!!』あたりの類似作品だと勘違いしている方がいましたら早くトップページに戻りましょう(笑)


起動方法
シナリオが面白そうだったため中古6千ほどで自分は入手しましたが、最初は一つの懸念が。

このゲーム、自分の持っているパソコンで動くだろうか?

ためしに持っている一番古いPCで起動しようとしてみるも・・・動かない。
それではあんまりなので調べてみるとなんと起動できたという記事が。
「sukisuki」という名のフォルダを作成し、そこに中身を全部コピーしてそこから実行するというもの。
本当に大丈夫か・・・そう思いながらも一応やってみる。
ウインドウが展開される。おどろおどろしいBGMが聞こえた。動いた。

なんだ・・・あっさり動くじゃないですか。調べてみたところ、XPどころかVistaも7も8も問題無いようです。
メガストア版は正式に最新OSに対応するらしいですが、もし原作が欲しくなった方がいたらと思い書いてみました。


感想
時はXPすら世に出ていない1998年、ブランド13cmが三大電波ゲームより数年先んじて世に送り出した怪作『好き好き大好き!』
狂気ゲーとして知る人ぞ知る・・・という作品で知名度も評価もそこまで高くない。
ここではまだネタバレ書きませんので具体的な説明は後で書きますが、はっきり言って出るのが早すぎました。
ヒロインをいきなり監禁するなんていう狂気ゲーなのと、エロゲー含めオタク文化が発展しておらず、ユーザーの耐性も紙同然だったため気持ち悪がられたのでしょう。
2011年には主人公がヒロインにウ●コ食べさせるゲームが評価されているのに・・・これはあまりに悲しい。
この際ですので飾らずに自分の評価を言わせて貰います。

はっきり言ってメチャクチャ面白いです。

シナリオもそうですが、何より光るのはこの作品のテキスト。
陰鬱、それなのにどこか美しい心情描写はテンポが極めてよく、他のエロゲの追随を許しません。
テキストが良いライターといえば?田中ロミオ?王雀孫?
そういった有名なライター達の実力を十分に認めた上で、上でです。このゲームは驚異的と言っていい。
たとえテキストに定評のある田中ロミオ氏や王雀孫氏でもこの作品の前では分が悪いと言わざるをえません。
ちなみに狂気ゲー最高峰『さよならを教えて』のライター、石埜三千穂氏はどうか。
私は『さよならを教えて』大好きですが、テキストでは引けを取りません。
というか、記憶違いでなければノベル版『好き好き大好き!』は石埜三千穂氏が書いてた事からも明らかです。
そのくらい凄い。
もちろんテキストだけでなくシナリオも十分高レベル。『さよならを教えて』と比べてしまうのは流石に酷ですが。
狂気ゲーと言われる今作ですがその実描いているのは恋愛そのもので、まさしく”恋愛”シミュレーションの傑作です。
狂気ゲーやシナリオゲーを好きな方は是非手にとって貰えればと思います。

あと凄く余計な話ですが、このゲームはヒロインの名前が変えられます。
小学生みたいな発想でお恥ずかしいですが蒲乃菜とみるくが主人公の愛を受ける立場として全く逆の関係なので
蒲乃菜を美人、みるくをブスなんかに変えると前後の文脈とマッチして凄く面白いです、はい。


以下ネタバレ有(考察)
全く同じ内容を色付きで書いてますので見やすい方が良い方は以下のページをご覧下さい。
ttp://gorescreamingshow.jimdo.com/%E4%BD%9C%E5%93%81%E8%80%83%E5%AF%9F-%E5%90%8D%E4%BD%9C/

ゴムについて

作中、主人公が蒲乃菜に着せるゴムのスーツをラバースーツと呼びます。ゴム=ラバー(rubber)と恋人=ラバー(lover)とが掛詞になっています。その証拠に恋人を暗示しているラバースーツは、みるくがいくら頼んでも主人公は蒲乃菜にしか着せません。また、作中の記述からゴムは主人公にとって性の象徴でもあります。これはゴムからコンドームを連想すれば分かると思います。



工場について

作中、工場は主人公の心そのものだとする記述があります。工場の造りは地下室、1階、2階となっていますが2階は過去(幼少期)、1階は現在、地下室は心の奥底(下心)をそれぞれ表しています。そのため蒲乃菜とみるくは2階には入れません。また、屋上に上る展開がありますがこれはエンドへの伏線で死を示しています(幼少期より前は生まれる前、つまり死)。



ヒロインと各エンドについて

蒲乃菜

主人公によって誘拐、監禁された少女。作品構成からの立ち位置は自分(主人公)が愛する(初恋の)少女。作中、唯一ハッピーエンドがあるキャラクター。これは恋というものが自分(主人公)が愛した人間に愛されることでしか報われない事を示しています。彼女のハッピーエンドと呼べるものは2つありますが、ポイントはラバースーツを着たまま迎えるハッピーエンドは1つもないという事。これはラバースーツに拘束具が取り付けられている事からも分かりますが、ラバースーツというものは主人公の心における一方的な恋人の形骸であり、相手を彼氏・彼女などの関係に縛り付けるだけのそれは本当の恋愛ではないということ。彼女のエンドの中でラバースーツを自分から受け入れるものがありますがこのエンドはハッピーエンドではなくバッドエンド。これは恋愛に発展したわけではなく、ただの愛欲に溺れただけの愛の形を示しています。そのため、行為の描写がアナルセックスしかありません。

みるく

主人公を慕う少女。作中での立ち位置は自分(主人公)を愛してくれる(自分は好きでない)少女。また、蒲乃菜から見た主人公は主人公から見たみるくに近い構図。1つとしてハッピーエンドと呼べるものはありません。なぜなら主人公は彼女の事を好きではなく、相思相愛でなければ恋人とはなれないため。主人公が彼女の部屋に監禁されるエンドがありますが、あれは主人公が蒲乃菜を監禁したのと全く一緒です。

莉果

作中での立ち位置は過去に自分(主人公)を好きだった女性。当然、過去の好意は意味を成しません。主人公の現在の恋愛に関係する蒲乃菜、みるくが処女なのに対して莉果、瑠香が非処女なのは恐らく恋愛の対象として埒外ということか。

瑠香

莉果の事を愛する女性。彼女と莉果の迎える結末から、同性どうしの恋愛が成り立たないことを示しています。

ゆかり

心理学を学んでいる女性。それゆえ彼女は勝手に工場の中(主人公の心の中)を見て、蒲乃菜を見つけ出します。彼女が主人公の工場に忍び込むエンドは、余計な干渉をしてくる母親を表している可能性大(児童心理学という単語に注目すれば)。また、大学の研究室はゆかりの心の象徴(そのため母性を象徴する水槽が置かれている)。ゆかりの研究室は「大学の中でも一番奥まった棟の五階」にあるが、これは主人公の心の象徴である工場と高低差を出すことで精神年齢や人生経験の違いを表しているのか。



テーマについて

テーマは狂気でも純愛でもなく恋愛。タイトルの『好き好き大好き!』はそれをシンプルに表したもの。余談ですが、キャッチコピーの「ボクハゴムガスキダ」は言ってしまえば「僕は恋人が好きです」に狂気を彩ったもの。

細かい所は他にもあるでしょうがおおまかな考察は以上。


で、こんな自己満足の考察まで書いて何がしたいのかと言われたら自分の目的はただ一つ。
評価されるべきものが評価されて欲しい。
正直、今回のメガストア収録は悲しくて仕方ありません。
復刻版、あるいはDL版での販売を待っていました。
それが叶わないのはひとえにきちんとした評価がされていないからです。
この感想を読んで、ああこのゲームってそんな深かったのか程度でいいので本当のことを知って欲しいと思います。
そしてああ、このゲーム凄いなと思ったら13cmのゲームを(もちろん新品で)1つでも買ってお布施してくれればなあと思うしだいです。(今の状況だとDL購入が望ましいか)
最後は作中から、印象に残ったテキストで締めたいと思います。

”だけどそれは、その法悦を知っている者のみに許された、特権なんだ。その快楽を理解出来ないものには、到底味わえない美酒なんだ”