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Gmen75さんの虚ノ少女の長文感想

ユーザー
Gmen75
ゲーム
虚ノ少女
ブランド
Innocent Grey
得点
97
参照数
270

一言コメント

過去と現在が複雑に絡みあう壮大な物語。前作である『殻ノ少女』と処女作である『カルタグラ』はプレイ必須である。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 兎に角扱っている領域が広大である。時代は戦前・戦中・戦後と股にかけ、舞台も富山県にある寒村集落である人形集落から大都会東京まで登場する。それに大体の登場人物が時代を超えて複雑に絡み合っている。物語を逐一整理する必要はあるが、プレイしていく中で複雑に絡んだ糸が段々と解けていき、やがて一本の線になるが如く感じられ、時を忘れてプレイした。それに扱っているテーマも壮大である。閉鎖集落・近親婚・新興宗教・祟り信仰・製薬・違法治験など枚挙に暇がない。別個で語られたことが不意な発見により結び付き、シナリオの奥深さを感じた。

 伏線を回収しないと駄作だと烙印を押され、伏線を回収しすぎると出来すぎだと揶揄されるのが探偵モノの性かもしれない。正味のところ、『虚ノ少女』に於てプレイヤーはシナリオに踊らされた気がしてならない。然るにプレイする中で、私は寧ろ『虚ノ少女』が構成する世界という「掌」に、シナリオライターが転がされていたのではないかとさえ感じた。斯くの如く感じられたのは、シナリオが精緻に構成されていることに他ならない。よくぞここまでまとめ切ったと感服した次第である。

 テーマとしては前作『殻ノ少女』とは直接繫がるところは少ない。最後の『プルガトリオの羊』と朽木冬子の死くらいであろうか。千里教やそれに関連した人物も登場することから、私は案外処女作『カルタグラ』の続編と考えても良いとも思う。「殻ノ少女」及び朽木冬子の行方というよりは、前作『殻ノ少女』で語られる複数の主題の中の一つである、偏執(パラノイア)に絞って展開された物語である。それも雪子などが抱く「個人の偏執」、人形集落の慣習という「伝統への偏執」、天恵会という「宗教の偏執」、違法治験という「利潤への偏執」など、偏執が多面的に語られているところが興味深い。余談ではあるが、他の方の感想で「前作に比べて狂気が甘い」というものを見たことがあるが、前作『殻ノ少女』は間宮心像が創作した「殻ノ少女」という作品への一連の偏執、つまり的を絞った偏執であるに対して、今作では前述の如く多面的な偏執を表現され偏執が大味に感じられたのが、斯く評価された所以であると考える。

 前作『殻ノ少女』は当然のことながら面白く感じたが、個人的には今作『虚ノ少女』は前作を超える面白さだったと感じる。