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Georgeさんのクナド国記の長文感想

ユーザー
George
ゲーム
クナド国記
ブランド
Purple software
得点
82
参照数
887

一言コメント

世界設定やキャラクターが好みで、総合的に考えるとプレイしてよかったと思える作品だった。 ただ良作であると感じるだけに、いくつかの不満・疑問点もある。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ヒロインとのフラグを折るたびに事態の真相に近づいていくスタイル。
序盤中盤は非常に良かったものの、終盤は駆け足で風呂敷を閉じるためにいろいろと取りこぼしてしまったものがある、という印象。最大の問題は「言霊=なんでもありの存在」に解決をすべて任してしまったことではないか。1000年という長い時系列があり、おいしい設定がたくさんあることを踏まえるともう少し丁寧に調理すればより完成度が高まったように思う。

以下各ヒロインの雑感、最後に疑問点をいくつか。

〇優里編
 完成度でいえばこのルートが一番高い。最初に立ち絵見たときはふーんって感じだったけど最初のCGでノックアウトされた。めっちゃ可愛い。
 何者でもなかった底辺能力者が最強の一之神に挑むという王道成長物語はやはり熱い。個別ルートも、彼女の出自(=能力)に対するコンプレックス、カント特有の家族観を考えるとこの話しかないと思えるほど。振り返ってみると他ルートに比べこじんまりとしているが、一番最初にプレイするルートであるため多くのユーザーは気にならないだろう。

〇双子編
 本筋は戦闘狂の二人らしくバトルましましの展開。死鬼との闘いは文章、CG、音楽の力がうまく合わさり、今作でもっとも盛り上げるシーンではないだろうか。茜が統治者としての資質を問われ、成長していくシーンも良い。
 翻って個別ルートは双子の優しさやポジティブさを押し出した展開だろうか?ここでいくつかの設定が明かされるためそういう意味で満足感はあるが、双子の個別ルートとしては疑問符を浮かべる人がいてもおかしくないかもしれない。個人的には喧嘩を経ていつも一緒だった二人に違った個性が芽生え始めて…という日常のお話が読みたかった。

〇春姫編
もとい、夏姫編。真相を解明するために夏姫について説明することは必要不可欠なのだが、そこに尺をとりすぎて本来のヒロインである春姫が割りを食っているという悲しい構造。ルート分岐がないゆえに二つの話が綯い交ぜになって進んでしまった。統治者としての春姫を一人の女の子に戻すという話自体は非常に良かったので、その前後を時間をかけてじっくり描写して欲しかった。最後の夏姫との問答で怒涛のように謎が明かされていくのだが、個人的には鉄鬼が生まれた理由について驚きや納得感はもてなかった。

 信が最初に鉄鬼と戦うシーン、その後の演説、優里vs春姫、vs死鬼戦、春姫の泣くシーン(二回)、夏姫の生い立ち、最終決戦後YOUとの会話シーンなど、心を動かされる場面はいくつも思い浮かべられる。
 そんな良作だからこそ、いくつかの粗が際立って見えてしまうのかもしれない。以下に引っ掛かりや不満を覚えた点を箇条書きにする。激しいネタバレあり。チクチク言葉あり。個人的好み、勘違い、読解不足などが含まれる可能性があるので話半分に読んでください。

・全編通して「かわいい」を連発しすぎ。ヒロインの魅力をレトリックを駆使して表現するのがライターの務めではないのだろうか。
・SDを多用するのは個人的にはアリ。逆に立ち絵での漫画的デフォルメ表現はくどく、かえってヒロインの魅力を落としているよう感じた。
・葵が統治者になったらどうするか語るシーン。どうでもいい、統治者になってみれば分かるという葵をYOUと信両名が絶賛する。おかしくない?春姫を倒し一之神になることは統治者となりカントの民を導くことだから自覚を持てと茜には説教したのに。春姫は双子が自覚のないまま統治者の座につきカントを停滞させることをこそ恐れていたのではないか。挙句、結局事前に考えるのと考えないのとでどっちが良いの?という茜に対して正解はない、って。そりゃ茜も混乱するでしょ。さっきの良く考えて答えを出せって説教はなんだったんですか。今作一番のもやもやポイント。
・vs死鬼。なんでもありの言霊で自然法則を操れるなら質量を零にするなりなんなり、春姫には如何様にも倒し方があったのではないか。実力不足なのだろうが、ユーザー視点ではできることとできないことの境界が分からない。
・双子の個人ルートについて。不思議パワーで過去と繋がるが、これ双子の話である必要あった?捻くれた見方をすれば、設定公開や双子が博士と接点を持つための10年後エンドありきのエピソードともとれる。
・夏姫という風呂敷を畳むためのなんでもあり装置。死んでも世界が勝手に復活させるって何?死んだから身体返すって何?そんなことしなくても言霊で信に人間の体を与えればよかったんじゃないかとか。春姫の言葉で死ぬ存在に定義付けられたがそれなら信の言霊で死んでも良かったのではないかとか。なんでもありの能力ゆえにユーザーの想像でベターなエンドが浮かびもやもやが残る。蛇足的なハッピーエンドは嫌いではないけれど、これならエンディングが流れたとこで終わっておいた方が物語としてはずっと綺麗だった。
・冬人の最後の一撃。夏姫の統治中は敵にならないと評価されていたのに、黒神討伐後半年で八剣にも実力を隠し世界すら見逃す剣技を身に着けるという力押し。vs双子で見せたクレバーな戦い方はどこにいったの冬人さん。
・最後に夏姫が冬人を好きだったと告白。夏姫が人を好きになることできるのがまず驚きだったし、冬人好きなのに信とセックスするのはもっと驚き。