二人が生きた証し
ㅤ𝟕𝐅 𝐒ᴇᴛᴜᴍɪ
ㅤㅤ ㅤᴛᴏʀʏ
ㅤㅤ― どこまでも一号線を西へ ―
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『ステージ☆なな』さん、対戦ありがとうございました!!🛣
発表された日付が「2005年8月2日」とのことなので、私が今までにプレイした作品の中で最も歴史のある作品となりました!
▫プレイ前の事前情報
ㅤ作品ホームページ内【■プロダクツ■】→【コンセプト】 の記述には、「(ボイスについて)あくまでも「無し」の為のアリだとお考え下さいませ」とあるので音声をオフにしてプレイしました。周回プレイの2周目には「音声アリ」が推奨されています。
また、【ストーリー紹介】には「現代、暗い、主人公とヒロイン、どっちも死にます」との記述があります。
ㅤ"http://stage-nana.sakura.ne.jp/narcissu.htm"
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以下、本編の感想です。
▫瀬戸際の感情とその動き
ㅤ何もかも諦め、“目を閉じた世界” で生きようとした彼女が、主人公に笑顔を見せるまでのストーリーライン。「淡路島の水仙が見える場所」という目標を見つけるまでは超然とした反論や否定が見受けられましたが、無言の肯定から明確な意思表示、行動に移すための動機付けまでが描かれ、作品が持つリアリティーを高めていました。(2005年自殺者の具体的な推定者数ような)
ㅤ本作では波打ち際のシーンが3つ(関東のどこかの海, 琵琶湖, 瀬戸内海)描かれており、彼女が歩を進めるまでの葛藤が暗示されていたように感じました。
ㅤ"pic.twitter.com/qiCKNVxtqD"
ㅤ「chapter:05ㅤ一号線」のジーンズショップにて、セツミが主人公に初めて見せた “感情” が輝きすぎていて、最終的に彼らが死ぬことを忘れてしまいそうでした。中学一年生から時間が止まっていた彼女は、本当はビキニの水着が好きで、可愛らしい洋服と短いスカートが好きで、年相応の少女らしいことを経験しました。この感情は、死生観がテーマの本作から感じられる “暗い雰囲気”(降雪, 冬の雨, 窃盗, 家族)と対になっているようで、まるでデートイベント(または水着スチル)のような異質さを演出していました。ラストに披露された明石海峡大橋での記念写真のCGが眩しすぎます……
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▫自己決定
ㅤ本作において「自殺に関与した罪」や「窃盗」「器物破損」について言及することはナンセンスですが、どんな形であろうと想いが叶い、病院の7Fや家を “死に場所” としなかった彼女の心は満たされていました。ここで重要となるのは『自由意志』(人間は本当の意味で自由なのか?)という哲学の仮説ではなく、社会福祉学の『自己決定』(自分の生き方についての意思と選択/心理学: 意思決定)です。この二つを作品を通してみると、テーマとしては「解放」というよりも彼らの「欲求」が前面に表されており、彼らは自らの死に対して新しい理解を得たりや成長をしたりしたのだと感じました。
ㅤ物語の鍵となった父親による置き忘れ、死期が迫る中での “目指すもの”、波打ち際の会話から、眩しかった日までの選択肢には確かに彼らが生きていました。
(どうして私がこの作品に哲学を絡めようとしたのかは解りませんが、『瞳を閉じた暗い世界ではなく、主人公に手を差し伸べられたことこそが彼女にとって救いだったように感じられたこと』・『残された時間を(身体的ではなく精神的に)苦悩して過ごすのではなく、自分の想いに結末をつけた描写があったこと』を強調したかったです)
(自殺の意思に関しては、「~したい」という人間が持つ本能的な欲求が、結果的に彼らの心を豊かにしていたという描写がとても印象的でした。これは「年の瀬に自殺したくなった人間が新しい年を “節目” にすることによって自殺者数が減少する(元旦に自殺者数が急増する)」という推移とよく似ていて、私はどこか納得していました)
▫22歳
ㅤ『止まった時間: ブラウン管の中(pic.twitter.com/bsMnVlwmxs)』のような、目の前に広がっている世界に身を委ねながらも、現実世界すら空虚に感じてしまうという描写に強く惹かれました。12歳だった1996年からの約10年間を家と病室で過ごすという経験は想像を絶し、彼女に死ぬまで消えない傷を与えていました。いまの私にとって、医師による余命宣告などは非常に耐え難いものですが、彼らを追って死ぬことは有り得ないと思います。ただ憐れみを抱きながら感想を書くことしかできません。
ㅤㅤ…行き先すら持たない自分を、滑稽だと思った。
ㅤㅤ「時間を止め、心を止め、胸に大きな傷跡を作り…」
ㅤㅤ「それでも、22年も生きたのに哀れだと思った…」(日記 - セツミ)
▫死への態度
ここでは二つの視点から、読者目線の「死」について考えてみます。
・感動的な死(※他作品ネタバレ注)
ㅤ死にゆくヒロイン像としてまず最初に頭に浮かんだのは、『金色ラブリッチェ』の僧間理亜によるセリフ「オレを死ぬものだと思って見ないで。いまちゃんと生きてるオレだけ見て」でした。このシーンは作品内の映画のヒロインが感動的な死を迎えた後の会話であり、死んでしまう理亜が『物語の人の死をただの悲劇, 感動の道具として扱わないでほしい』と主人公に語り掛ける場面です。(https://pbs.twimg.com/media/FWMEoC9VUAEHtcJ?format=jpg)
ㅤ筆者によって設計され創りこまれた “最高の死” は、プレイヤーに感動をもたらします。また同時に、生命の価値や尊重されるべき権利は(社会にとって)万人に平等のはずですが、思い入れ・信頼・ 愛情という “親密さ” によってそれらに格差が生まれることは一般的なことです。上記のように、私は “▫ 22歳” で自分の状況と作品を重ねながら感情移入をしましたが、ただ彼女は作品のラストのように「推定自殺者3万5千人の中の一人。」であり、死に直面していない私たちにとっては他人事にすぎません。頭の中で繰り返して思い出そうとしない限り、2年後くらい経てばセツミと主人公の15日間と22年間について忘れてしまっているでしょう。
・知識として、忘れられないもの
ㅤしかし、私が他作品のセリフを思い出したように、知識として得たものが個人の考え方に影響を及ぼすことがあります。感想を文字に起こせば、いま私がタイピングに時間を使っているように、彼らが生きていたことを思い出せるかもしれません。作品内に遺された “あかし” (免許証と白い腕輪、2枚の写真)が二人の思い出を物語ります…✨
◇他雑記
▫派生作品群
ㅤ私の一つ前にある感想には本作『narcissu』シリーズについてまとめてくださっている方がいました。steamレビューの方にも詳しい解説をしてくださっている方がいたので、そちらも是非参照してみてください。
・boningenさんの「narcissu」の感想
ㅤ"https://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=4682&uid=boningen"
・Steam コミュニティ :: Tha1TaN1C
ㅤ"https://steamcommunity.com/profiles/76561198147504336/recommended/426690/"
▫pov: 大きな不幸を助けたいヒロイン(批評空間)
ㅤ上記で『プレイヤーと死生観』について語ってしまったので、本サイトのpovについても少し疑いを持ってしまいました。プレイヤーが手を差し伸べてヒロインを助けることは決してありませんが、「どうにか助けたい」という衝動は確かに共感できる感情です。(「逃げてもいい」には個人の尊重が必要そうですが)
ㅤ本作品の【ストーリー紹介】では彼らが死ぬことが明かされていますが、「逃れられない死 → “最悪な” 結末」とは限らないことが示されました。
▫ルートと日付
ㅤ病院7F
ㅤㅤ→ 茨城:水戸街道(05/01/19)
ㅤㅤ→ 埼玉:入間→16号線(05/01/21)
ㅤㅤ→ ??:浜辺, 給油, パチンコ(05/01/22)
ㅤㅤ→ ???:給油(05/01/25)
ㅤㅤ→神奈川:1号線 平塚(05/01/26)
ㅤㅤ→愛知:22号線 名古屋(05/01/20)
ㅤㅤ→岐阜:21号線 関が原
ㅤㅤ→滋賀:草津
ㅤㅤ→滋賀:8号-1号 名神高速 瀬田IC(05/01/27)
ㅤㅤ→京都:桂川PA
ㅤㅤ→大阪:中国自動車道 吹田JCT(05/01/29)
ㅤㅤ→兵庫:山陽自動車道 神戸JCT(05/01/29)
ㅤㅤ→兵庫:明石海峡大橋
ㅤㅤ→兵庫:神戸淡路鳴門自動車道 洲本インター(05/01/29)
ㅤㅤ→兵庫:淡路島(05/01/29-02/02)
※愛知県からの日付がズレていますが、作品内の表記に従っています。
(以下ツイートリンクではgoogle mapのルートを辿ってみましたが、新名神高速道路が開通していなかったり東名高速道路を避けたりしていたので、おそらく正しいルートではありません)
ㅤ"https://twitter.com/alter_alterr/status/1638498212322639872"
ㅤ(pcでの閲覧推奨)
◇楽曲
▫『ここにいるvocal ver.』
ㅤ「chapter:05ㅤ一号線」、名神高速道路での会話シーンの挿入歌。
バラード調で “寄せては返す波” のような曲ですが、ストーリの結末を知っているとその歌詞に飲まれます。まるで海を越えた逃避行な雰囲気ですが、どちらかというとこれは水葬です。
彼女は静かに目を閉じました…
◇参照してください
・Introduction to Death and Dying - Fundamentals - MSD Manual Consumer Version
ㅤㅤ"https://www.msdmanuals.com/en-jp/home/fundamentals/death-and-dying/introduction-to-death-and-dying"
・「自己決定」と「支援を受けた意思決定」(遠藤 美貴)
ㅤㅤ"https://www.jstage.jst.go.jp/article/stmlib/48/0/48_81/_article/-char/ja/"
◇終わりに
ㅤ何が言いたいのかよくわからない感想になってしまいましたが、「啓蒙思想」と「overthinking(考えすぎ)」との相性は最悪でした。たとえ、終末期の課題(法的/倫理的)に “指針” があったとしても、“明確な答え” がないことだけは理解できました!