過去に戻って謎を解こう!
Getchu.com 美少女ゲーム大賞,
2ch & Twitter 年間ベストエロゲー投票
萌えゲーアワード シナリオ賞 で一位に輝いている2020年の超代表作―――
『さくらの雲*スカアレットの恋』, きゃべつそふとさん対戦ありがとうごさいました。
英題は "A love in Sacra & Scarlet"
ジャンルは『100年の時を超えるミステリイADV』
(批評空間中央値 8 7 点)
🌸総評
▫桜雲という時代
ㅤ私が思うこの作品の一番の山場は、レベッカ・クルーガーによる『硬貨に書かれた“元号”』(義手)の推理のシーンでした。この推理シーンでは、それまでに張られていた伏線を私の脳がなんとか理解したものの、脳内の情報処理が全く追い付かず、マジで自分でもよく解らない音が声帯から発せられてしまいました。(最高に興奮してたという意)
ㅤ一体いつから司の生きる未来が平和だと、“プレイヤー”が生きている未来だと勘違いしていたんでしょうか? (もちろん、第一章で “東京スカイタワー” を視認した時からでしょう)
ㅤ形式として「実在の人物や団体とは関係がない」と謳っておきながらも、『後藤新平やドイツ労働党のアドルフといった実在の人物・凌雲閣などの名称・シベリア出兵や第一次世界大戦等の日本史』を作品内に登場させることによってリアリティを高めつつ、最後の最後でプレイヤーが生きている “史実” とは違った世界線を実は最初っから描いていたとかいうシナリオライターの鬼畜っぷり…。ミステリーの完成度としては「うわぁ、してやられたし騙されてたー!」と気持ちよくなることができたので大満足でした。
ㅤ司が言う「“今”」にダブルクォーテーションを用いて含みを持たせていたというトリックにも気が付くことができませんでしたね。令和に生きているプレイヤーが読むと「この枝が平和でなくなってしまうのはもうすぐ起きる震災や大戦があるからだ~」と勘違いさせる演出。しかし作中の “未来”、司が生きている世界は―――
(google検索に『三大テロ事件 大正』というありもしない予測変換が出てしまうのはこの作品の影響なんでしょうか)
ㅤついでにここで、アガサクリスティの『アクロイド殺し』によって端を発したフェア・アンフェア論争(ミステリーが読者に対してフェアかどうか)を引き合いに出して、事前の伏線を辿りながらこの叙述トリックを分析してみます。
「司の左腕が義手であることに気づくためのヒント」として私が発見することができたのは以下の6つ (絶対まだ残ってる)
ㅤ① 遠子のラストシーン(左手で支えるシーン)
ㅤ② 蓮「司さんが、いつか……本当のこと、話してくれる日を……」
ㅤ③ メリッサ「私には、司さまのことが、全部視えているということです」
ㅤ④ “右手の運動”
ㅤ⑤ エチチシーン(遠子, 蓮, メリッサ)での司の手袋着用
ㅤ⑥ 左利きのちよちゃん
ㅤ(①~④は読めばそうだと解るので省略しますが、⑤に至ってはちょっとした違和感に過ぎず、右手のみでしか細かいエッチな動作ができなかった司くんが不憫でした(ちなみにメリッサとのシーンでは、CGに一枚だけ左手の描写ミスがある)。ちよさんによる⑥は、司のセリフ「左利き……なんですね」に彼が指切りげんまんができない事情が隠されており、二度目の指切り(別れのシーン)では彼のことを考慮して右手を差し出すちよの優しさを垣間見ることができる)
(“指きたす” = ユビキタス, IoTではない)
▫令和
この作品によって、私は生まれて初めてこの “令和” という元号について、具体的な感想を抱きました。
ㅤ「年号が変わるからと言っても、世の中は何も変わらない。」
ㅤ「何をそんなに騒いでいるのか?」
…というのが今までの私の観点でしたが、このゲームの演出によって “時代に込められた意味” を知り、所長が望む “平和への願い” を理解することができました。
(「令和という時代を何とか生きて、いまの幸せを実感する」なんて文章をここに書くとクサすぎて消したくなりますが、私みたいな平和ボケした人間にはかなり刺さる演出でした。ありがとうございます)
pic.twitter.com/rQ9dulRiOx
『桜花 咲きにけらしな あしひきの 山のかひより 見ゆる白雲――』
(このゲーム開発当初はこの新しい元号に感化されたというか、少なくとも新しい時代の節目に際し、「歌集」という題材に制作陣が影響を受けたんでしょうか(紀貫之と万葉集)。2020年にこの作品をプレイしたかったですね)
▫正しい“歪み”
ㅤここでは、後述の『所長以外の個人ルート』に関わってくる問題である、「歴史改変における “正しさ” とは一体何なのか」について触れつつ、自分の中で沸き起ってしまっている疑問を少し整理したいと思います。
(作中の動向: 所長以外の個人ルートは、アララギからすれば歪みを正せなかった ”失敗” であると同時に、桜雲を生きた司が心から望んだ平和で満たされていたことが示唆された。また加藤は、「帝都再建」を謳って200年先から大正時代に飛び、“歪み” をもって日本国を動かそうとした。それに対し司は自分のことを “善” とせず、歴史とは「現在と過去との対話」であるとした。)
ㅤ・結末として、『怖~いバイキンさん』が流行ってしまっている令和をハッピーエンドとして位置づけ、桜雲をこの世の終わりとして扱ったが、この差は何処で生まれてしまったのか?
ㅤ・司が目指した令和という時代から、第二次世界大戦後を皮切りに桜雲という時代(冷戦なんかしちゃいられねぇ、テクノロジーによる情報戦・核戦争なんかよりも、黒死病を使った生物兵器じゃい…!)に突入してしまった “歪み” の大本は何だったのか?
ㅤ・加藤さえ生まれなければ、世界は平和だったのか?
……私はこの “正しさ” という問題に「歴史の強制力」という曖昧さを示したいと思います。
司が言う「ニュートンに林檎を与えるような行為」という魔人への比喩は、「どちらにせよ彼は林檎を落としていた」という事実に帰納し、一時的には平和かもしれない令和が桜雲のように大戦に見舞われてしまうという “線の収束” を想起させてくれました。
(しかし、そうなってしまうと「200年先から多少強引な手を使ってでも帝都を、日本国を守ろうとした加藤は “悪” ではない(?)」という結論になってしまうのが逆説的でめちゃくちゃ面白くなってしまいますね)
綺麗な桜の下には何が埋まっているのか、それこそ “神のみぞ知る” なんでしょうか……(ベッキィ泣)
(葉巻、札束、セーラー服のリボン、ブリキのおもちゃ、数珠、折り鶴というアイテムがどうなったのかも、少し気になるところです)
▫遠子、蓮、メリッサの “枝”
ㅤ作品への評価として、所長以外の個人ルートの結末がハッピーエンドにさえなっていれば、わたしは95満点を与えていたと思います。
ㅤ魔人の手によって早まった関東大震災で彼らが命を落としたのかどうかは不明ですが、歴史の行き着く先が“令和”ではないことは安易に想像できてしまいます。
ㅤ(しかし、もしもあれらがハッピーエンドだった場合、最終ルートとの感動の天秤が揺らぐので難しいところです……)(大団円の「JIN -仁-」ENDはそれだけ価値があり、感動を私にもたらしたということ)(プレイヤーは “枝を選ぶ” のではなく、順番通りに渡らなければならない)
ㅤ(上記の “何を正しさとするのか” が絡むと、彼らは第二次世界大戦を経験するものの、一時の幸せをヒロインたちと共有できた司は満たされていたのかもしれませんが)
ㅤ(彼らが火災にあうシーンはアララギ視点の『外伝』にて描写されますが、メリッサだけはそのシーンがありません。帝都に潜むたった一人の異能者である彼女が、歪み判別機としての役割ではなく、箱の中を猫を観測する役を演じていたら…………、なんてことを今更考えるのはナンセンスです)(彼女たちに似た誰か には果たして出逢うのか?)(なお移植版では――)
🔍その他雑記
▫選択肢の意義
間違えても分岐はなく、結局は消去法になる選択肢の意義がよく解りませんでした。
プレイヤーに主人公たちの行動を選ばせることによって展開のランダム性や行動選択の臨場感を高める作用があるはずですが、選ぶ順番が違ったとしても結果はどれも同じで、ただ左クリックするだけの作業になってしまっていた…?
(重大な局面における司による「たまたま」なんていう選択肢のセリフは、明らかに浮いていたこと)
(公式ガイドラインにて、きゃべつそふとが選択肢のスクリーンショットを投稿して欲しくないのは何故…?)
▫私が気づいてしまった、おまけ内のちょっとしたミス
メリッサルートプレイ当時の私は、「セーブしたしやめる前におまけの進行度を見ておこうかなぁ」と思い立ち、ついでに登場人物たちの右腕に痣がないか確認しようとしたところ、案の定メリッサのエチチシーンで月マーク☽を見つけたー!ところまでは良かったものの、あろうことか『おまけのメリッサの欄』に謎の少女“カヤノ”が配置されているという決定的な瞬間を目にしてしまったのである……
▫呪文
魔人による「オン・アミリト・ドバンバ・ウン・ハッタ・ソウカ」と
「ノウマク・サマンダ・ボダナン・キャナヤ・バンジャ・ソハタヤ・ソウカ」の説明がなされませんでしたが、雰囲気作りだったんでしょうか。(それとも次回作へ持ち越し?)
他の方の感想では読み解いてる人がいましたが、私には解りませんでした泣
(以下追記)
本感想へのうるぽんさんによるレスにて「真言」(密教における仏菩薩などの人々を救済しようとするもとの願いを表す秘密語)であるとのご指摘を頂きました。感謝です。(ってか “真言” ってなんなんだ、聞いたこともなかったぞ…。「不可能性の証明」ではないですけど、地熱発電を応用して地震を早めるなんて話も突き詰めてしまえばかなりグレーなところで、クリア後に宗教の話が絡んでいたと知ってしまうと、見方を変えてもう一度読み解いてみたくなりますね)(読み解きませんが)
(追記 終わり)
▫左上にあったanother viewアイコンについて
これはいわゆる複数視点(マルチサイト, ザッピング) と呼ばれる物語の描写方法で、話し手・地の文のみによる情景描写では知りえなかった情報を読者に提示する役割を持つんですが、このアイコンがあるのは所長だけで(アララギによる外伝であっても)、その上常時点灯だったのでブラックアウトの演出中なのにもかかわらず左上に気を取られてしまったことが何回かあった。
▫性欲に狂う司による名セリフ集
顔面を手で覆われただけで勃起したり、下着を嗅ぎながら1こすりで射精したりしてしまう司くんに感動したので個人的に神セリフだと思ったものをまとめました。(エチチシーンで司の喘ぎ声がふんだんに使われていたのが少し違和感というか、何読ませてんだ、と最初は思ってたんですけどこういう読んでいて面白いセリフがあったので楽しめました)(人のセックスを笑うな)
・ 「しかし無垢に感動してくれるほど、自慰を終えた後のような自己嫌悪に苛まれる。自分はまたズルを働いてしまったんだなと。」(← 日常シーン内の遠子への印象, 唐突な高レベル下ネタ)
・ 「心理的要因で弾道が上がった」(← パワポケ?)
・(いかん。もうだめだ。この後セックスすることしか考えられない)
・(これはもはやセックスではない。搾精。)
(ただ蓮というメスが俺を捕食するだけの、枯れるまで終わらない謝肉祭だ。)
・ 「射精に必要な興奮が10で、所長のキスが200」
・ 「もう、金輪際精液なんて作れなくても構わない。」
▫楽曲
ED『比翼のさくら』
エンドロールの左下。作中に散りばめられたセリフが後の活躍に繋がっているのが作り込みというか、作品への愛を感じましたね……
かなり最高でした。
(逢瀬アキラさんには某ラジオ番組で激しくタオル振り回してる印象しかなかったんですが、こんなに綺麗な歌声をしてらっしゃったんですね。美少女ゲームで初めて彼女の歌を聞いたのでかなり驚きました)
BGM『Nostalgia』『The game is afool!』『掴み取る未来』『ゑだわたり』、好きです
▫一番好きだったCG & ベストヒロイン
ひ孫って近親相姦になるのか?とかいう余計な心配を抜きにすると、わたし的ベストヒロインはやはり「レベッカ・クルーガー」さんでしたー!!
一番好きだったスチルは同じく所長の『事務所のソファで横になる、夜の静かな時間』で、なんていうか、アニメ『ひだまりスケッチ』の締めのゆのっちのお風呂シーンみたいな安心感がありましたね。
この所長との就寝前のシーン、個人的には一番好きでした。
「ああ、桜の樹の下には屍体が埋まっている!!!!!!!!!!!!!」
色々考えてしまった作品でした、とっても面白かったです。
『アメイジング・グレイス』、機会があればぜひプレイしたいと思います。