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G-hunterさんのあの晴れわたる空より高くの長文感想

ユーザー
G-hunter
ゲーム
あの晴れわたる空より高く
ブランド
Chuablesoft
得点
80
参照数
1223

一言コメント

「夢やロマンで腹が膨れることはないが、夢やロマンがなければ餓死してしまう」。本作は、ロケット及びその目指す先の宇宙へと、失敗や挫折を味わいながらも這いつくばって前に進んでいく健気な少年少女たちの物語である。物語は、メインキャラクターだけではなく、同じように熱い情熱をもってアプローチするサブキャラクター、ロケットに対して敵愾心を感じる者と、様々要素がうまく組み合わさって表現されている。多少の展開や粗さも、覆い隠してしまうほどの良い点が、本作には感じられた。入社5年目くらいで仕事に不満を感じている俺のような人は、ぜひやるといい。ちょっとは彼らから前向きさを貰えるはずだ

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

『あたしは、死んでもロケットを打ち上げるわ!』













・ストーリー
たった 5人で始めたロケット開発。 予算も設備も技術も足りず、多くの人が 「不可能だ」 と口にした。
だけど俺は……俺たちは、誰一人として諦めなかった――

本土からはるか南、俺が住むこの天ノ島では宇宙航空研究が盛んだ。
天ノ島学園の宇宙航空学科には、未来のロケット技術者を目指して毎年、全国から多くの学生たちが集まってくる。
暁有佐が部長を務める弱小ロケット部 “ビャッコ” への入部を俺が決意しようとした

しかし、俺たちに突きつけたのは、突然の廃部通告
ビャッコが廃部を免れるための条件は 1つ。 それは “二学期までにロケット大会で優勝すること”
ロケットに恋する先輩部員・伊吹那津奈に、いたずら好きな幼なじみ・導木ほのか
これに加え、ライバルであるはずの黎明夏帆まで巻きこんで、俺たちはロケット開発に挑戦する。

目指すは大会優勝、ビャッコの存続だ!
そして、なんとしてでも自分たちの手で、ロケットを宇宙に打ち上げてみせる……!!
高度100km―― あの晴れわたる空より高く――
そこに夢の結末があると信じて、俺たちは今日も走り続ける。



プレイ時間は15時間。攻略ルートは夏帆→那津奈→ほのか→有佐→Lift off!!
今思えば、体験版が公開され、プレイした時から心を動かされていたのかもしれません
一致団結して、純粋にロケットの技術だけで配布を阻止するその姿に
マックスファイブで彼、彼女らが流した涙のその後が気にならない訳がありません

しかしその一方で、アクが強いヒロイン達の存在が、プレイヤーを取捨選択すると私は思ってました
当時を懐かしがる、エロゲー歴2桁のようなおじいちゃんプレイヤーたちが、ほそぼそと楽しむんだろうなぁ、と
ところが、蓋を開けてみれば反響は大きかったようで、「後で中古買いしめしめ」との思惑は脆くも崩れ去りました
発売から1月しないでプレイするのは私自身久々ですが、やってよかったなぁと感じる作品です

ただ、本作を楽しむのであれば、①工学に詳しくない人、または②宇宙に理解のある人が望ましいかもしれません。なぜか?
それは、この作品はエロゲーでありながら、ロケット製作を根幹としてブレていないため、相当の工学知識が飛び交います
私のような文系は「すごいな、すごいな」と思うわけですが、工学を学ぶ人たちにとっては常識、もしくは誤りや無理がある箇所があるでしょう
彼女らと同じくらいの宇宙への情熱があればカバーできますが、そうでないならば、どうもその点が目に付いてしまうからです
このゲームは、最初は宇宙にも興味がなく、ロケットの知識がゼロである主人公と同様に、1から学んでいくからこそ、楽しいのです

さて、本作はマックスファイブまで体験版で遊ぶことができます。これが実に絶妙
ロケットの基礎構造や仕組みをとっつきやすく学ぶことができるうえに、A験やびゃっこ号の改良といった見せ場が多い
これでもかというくらい失敗をして、なお、はい上げって突き進むビャッコの姿勢は多くの人の共感を受けたことでしょう
圧倒的な壁として君臨するARCに、いかにして立ち向かっていくか。続きが実に気になる体験版の幕引きです

本作はマックスファイブまでが共通ルート。個別ルートはフォーセクションズでどの部門を選択するかによって決まります
せっかく5人で力を合わせて頑張ったり、馬鹿をやったりしてたのに、個別ルートに入ってから攻略キャラ以外との掛け合いがガクっと減ります
それが実に残念。やはりビャッコ5人のやり取りが一番楽しい
そして、この個別ルートは意外に短くあっさり終わってしまうのが、マイナス点となってます
しかし、一番個別ルートでもったいないのは、マックスファイブ程の盛り上がりに欠けるところでしょう
なぜならば、このフォーセクションズはロケットを空に飛ばす競技が存在しない
つまり、単純な部品部品の競技となるため、こじんまりとして終わってしまい、派手に打ち上げる夢やロマン要素が少ないのです
実際にロケット飛ばす電装部門ならまだしも、機体や推進は部品部品の性能の勝負。PMに至っては裏方もいいとこです
様々なルートで、主人公らが全く関係のないところで失敗原因を克服していくのは、面白かったんですが……
ともかく、まずは、個別ルートを検証していきましょう


・個別ルート
夏帆ルートは、フォーセクションズで電装を選ぶと進むルートです
設計でプロの腕前を持つ夏帆と一緒にジャイロ等を作成し、水平発射10kmで目標に如何に近づけるかを競う競技に参加します
夏帆は最も感情の起伏が乏しい論理と理屈を大切にするキャラですが、全ルートを通して最もイチャイチャできる展開が多いのが特徴です
水平発射距離の賭けで、「乙矢君が入ったまま寝たい」とか言ってくるように成長しますよ!けしからんですね!

ただ、ルートの出来栄えとしては、他と比較するとちょっとイマイチかもしれません
というのは、目を怪我した設定が急に表舞台に飛び出してきた様相が否めないため、プレイヤーは戸惑うことでしょう
この違和感が拭えないまま、フォーセクションズ→ENDを迎えてしまうため、思いのほか肩透かし
あと、夏帆の目が悪くなることがわかるきっかけの1つに「有佐とのロケット組立勝負」ってあるのですが、この描写ありました?

このルートはロケットにかける情熱成分よりも、夏帆の可愛さを愛でるシナリオだった気がします
夏帆の「おいで」の一言の破壊力に悶え苦しんだ人は、きっと数は少なくないはず
ロケット製作に並々ならぬ知識がある彼女ですが、ロケットの熱意よりも彼女の可愛さに主軸が置かれたように見えました


那津奈ルートは、フォーセクションズで推進を選ぶと進むルートです
特技は火薬の扱い、趣味は火遊びと、最もアブナいヒロインの那津奈とともに、ロケットの燃焼時間を競います
実は、このルートが一番ロケットと向き合っていたのではないでしょうか?
かなり電p……お花畑な思考の彼女は、好きという感情に向き合うのも乏しい
その結果、恋愛要素よりもロケット製作の方が映える結果になったと思います
5秒の壁を幾度となく跳ね返されながらも、前向きに果敢に挑戦した姿勢が一番反映されていました

エロゲーとしては珍しく?主人公が、ヒロインをどう振り向いてもらえるか四苦八苦していく恋愛模様も新鮮ではありました
途中で主人公のほうがロケットマニアと化して、今まで主人公を放っておいたヒロインが拗ねる場面など、
一筋縄ではいかない恋愛模様が、まるでロケットのようだったと思います
しかし、セックスどころかキスも知らんというのは非現実過ぎて、思わず含み笑いしてしまう

ほのかルートは、フォーセクションズの機体部門を選択すると分岐します
中学の頃は表彰されたこともある機体のスペシャリストの幼馴染ほのかと一緒に、機体の組立て及びその耐久性能を競います
彼女のルートは……勘違いというかなりギャグ要素が多い
日ごろのおふざけが過ぎて狼少女のレッテルが貼られた彼女。主人公への気持ちも、主人公には全うに伝わらない
しかし、主人公も幼馴染から恋人へと意識していく……にもかからず。なぜか、ほのかは「主人公のセフレ」と認識してしまう
その結果、妹、親友、ほのかの親父も巻き込んで訳の分からない方向に物語りは進んでしまいます
勘違いの連鎖のインパクトが強すぎて、ロケット開発が霞んでしまうシナリオでした

有佐ルートは、フォーセクションズのPM部門に参加すると出現します
プロジェクトマネージャーということで、経理、庶務といった雑用がメインで、ロケット製造にはほとんど携わりません
そのためか、このルートはビャッコの過去の話や、漁業組合との確執、主人公と親父との和解に焦点が当てられます
ロケットヴィーナスに選ばれた有佐の演説で、あれほど歓声がわくもんかな?と思いつつも、
全体としてはうまく料理された感じはありました
まったくもって素直じゃない有佐とのやりとりは、意外に賛否両論になりそうな予感?

Liftoff!は、このゲームを締めくくる結末です
このルートでは、フォーセクションズでビャッコ全部門優勝という、夢のまた夢が叶った地点から始まります
かなり無理がある開始ですが、最後の結末も話の展開がかなりズルい
トラウマの二の舞となる発射トラブル、ビャッコの活動停止、有佐の意識不明
最後の展開が容易に予想できるにもかかわらず、大団円となったことに思わずホッとしてしまうこの気持ち
うまくプレイヤーの心情を操作されたといっても過言ではないでしょう


・本作の魅力はどこか
ここまで感想を読んだ人々は気づいたことでしょう。いままで私はあまり加点したような書き方をしていないということを
むしろマイナス点の方が多いのではないか?と思う人がいるかもしれません
しかし、本作品は欠点を跳ね返す長所が、私は2点あると思います

1つは、失敗を繰り返しながらも前に進んで行き、最後に栄光を勝ち取るといった、王道の筋書きをツボを押さえている点です
マックスファイブでも燃焼試験はうまくいくものの、打ち上げ試験はリフトオフ直後に爆発と前途多難
個別ルートでも、夏帆ルートの反射率99.99%、那津奈ルートの5秒の壁、ほのかルートのCFRPとあちこちで問題発生
しかし、それをロケット開発とは全く違う場面で解決策を思いつき、どんどん前に進んでいきます。これが実に気持ちいい

漁師の息子という主人公の設定が十二分に生かされ、夏帆ルートでの風の読み具合、那津奈ルートのキャビテーション問題と大活躍
そこから、反ロケットとして漁業組合にまでつなげた設定の連鎖は見事なもの
ロケットに関わるもの、関わらないものの各々の視点から物語を膨らますことに成功しています

もう1つは、高乃酉の存在です。彼こそが、この作品で一番良いキャラクターではないでしょうか
天才肌と徹底した合理主義により、強豪ARCとしてビャッコの前に立ちふさがります
何度となく彼のイヤミを聞いてくると、彼に対する心証も良くないかもしれません
しかし、彼は天才肌と徹底した合理主義よりも前に、最もロケットを愛する者の1人なのです

高乃酉を一番見直したのは、那津奈ルートで主人公らが燃焼時間を2000秒に到達して、偉大な記録を打ち立てた直後です
敵であり、かつ弱小ビャッコに負けたはずの彼が、誰よりも開口一番にこの言葉を出します。「素晴らしい!」と
弱小ビャッコに負けたという悔しさよりも、目の前で達成された偉大な記録に笑顔で祝福したのです
この場面で、高乃酉が一気にお気に入りキャラになりました

また、ほのかルートでも、徹底した機械による合理化と職人の腕前を一刀両断する一方で、職人の腕前が機械より優れることがあることも理解しています
ただの嫌味、頭でっかちエリートではなく、ロケットを愛する者として邁進する彼の姿は、ビャッコと同じ夢を見ながら、違ったアプローチをしていたのです
Liftoff!!でビャッコに力を貸した彼を見直す人が多いですが、私は個別ルートの彼を考えると、むしろ手助けは当然のように思えます
純学生産で宇宙ロケットを打ち上げるという前代未聞の挑戦に、彼も心躍ったことでしょう
「学生生活の最後に、これほど胸の踊るプロジェクトが待っているとは思わなかった」

高乃酉というキャラクタがー、ライバルとして、ロケットを愛する者として、物語に最高のスパイスを与えたと、私はそう思います


・総評
宇宙にかける夢とロマン。失敗して挫折してなお進み続けるその姿勢
その物語の主題を強調する数々のキャラクターたち。これらの組み合わせで生まれた良い作品です
お先真っ暗に感じている社会人よ、ぜひこのゲームをプレイして前向きな気持ちを取り戻そうではないか


・一言感想の羅列
①ロケットライド、いい曲ですね。ただ、1番の歌詞に伊吹、2番の歌詞に暁・黎明・導木となっているのが気になる。那津奈は仲間はずれか?
②一番のセリフは夏帆の「おいで」ですが、個人的にはほのかの「部長ぉ」も好きですね
③導木のオヤジも主人公のオヤジも、寡黙で多くを語らない人物でした。大きな背中で荷を背負う、良い父親たちです
④ロケットの解説が本当にありがたかったですね。仕組みや問題点が、非常にわかりやすい
⑤でだ、妹のゆいの影の薄さはなんなんでしょう。多くのプレイヤーが泣いたはず