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G-hunterさんのセブンスコートの長文感想

ユーザー
G-hunter
ゲーム
セブンスコート
ブランド
Novect(Novectacle)
得点
85
参照数
733

一言コメント

転んでもタダでは起きないNovectacleが、データ数40で中央値92点という2012年の化け物同人ゲーム「ファタモルガーナの館」のキャラクターを引っ張り出して送り出してきたフリーゲーム。4月1日に発表された本作は、誰もがエイプリルフールのネタであると思っていたが、その実はとんでもなく濃いフリーゲームだった。ゲーム世界と現実、製作者とプレイヤー。数多あるゲームという花畑を「糞ゲー」の一言で踏み倒していく人々に大して、踏まえた花たちは何を思うのだろうか。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

そんなものは傑作とは呼ばない!
そんなものは……
ただの……、辛すぎる……、絶望の塊じゃねーか……。
















・ストーリー
その声がきこえますか
いつの時でも、あなたによりそうような
妖精の声
いつか離れるときがきても
彼女の声はいろあせない
思い出は消えることがないから
もしも辛い日々がやってきたら
共に過ごしたあたたかい日々を思い出して
妖精の声を聞きましょう
“ローヌ”の川にのせて


プレイ時間は5時間。攻略ルートは一本道
「エイプリルフールに新作を出す」というBBSに書き込まれた作者のコメント
「ファタモルガーナの館」を題材としたエイプリルフールのネタゲーかと思っていたら。
まさかBBSまでもが壮絶な伏線だったとは

プレイ開始と同時に名前の決定、勇者という役割
主人公はミシェルは、間違いなくRPGゲームの世界に取り込まれていた
ネリーやメルといったおなじみのキャラクターが、本編とまったく違った(?)様相で序盤は進みます
めんどくさいツンデレ代表のヤコポ、今回も侠気ポジの貿易商の男など、前作プレイ者にはたまらない展開
BGMも相当おちゃらけたレトロ風であり、前作とは全く違う出来に戸惑いますね
それでも、セブンスコートのキャラ付けでも、プレイヤーの頭にスッと入ってくる雰囲気が実に見事です

2週目に入ってから、次々とわかる真実
ゲームものにはよくある、現実とゲーム世界の落差の描写は私は大好きです
(「Heaven's Cage」とか「魔法少女育成計画」とか「密室殺人ゲーム」とか。エロゲーに限らず大好きです)
ヤコポはまぁ予想通りとはいえ(彼に言ったら怒られそうだ)、ネリーとメルの話はちょっと驚きました

そのゲーム世界に、この話の核である現実世界のジゼルとミシェルの出会いのやり取りがところどころに挿入
ミシェルの作るゲームの随一のファンであるジゼルのオフ会、そして恋人関係へ突き進んでいくさま
いったいゲーム世界にどう絡むと思いきや……
確かにゲーム世界と現実世界は全く違うのが、二面世界ものの鉄則です
しかし、まさかミシェルが自殺をしていたという展開は呆気にとられました


その描写で描かれる、製作者としての苦悩
ほぼ高確率で表舞台の日の目に当たらず、「糞ゲー」の一言で片付けられる作品たち
自分のパッションを作品に叩きつけるのが全てと思っていても、万人から評価されたいという欲求が製作者を襲います
その自身の主張を作品に篭めたとしても、プレイヤーには届かないことのほうが多い
では、製作者はいったい何のために作品を作るのでしょうか

結局、何のためという目的ではなく、表現したいという何かしらの力や原動力に突き動かされているだけなのではないでしょうか
(事実、ミシェルもジゼルのために作品を作りました。そして、黒い原動力により新作も作り上げました)
純粋な目的というのはなく、あったとしても対象者1~数人に向けたメッセージ。それが同人の原点の原点なのかもしれません
同人作品を享受するプレイヤーとしては、批判的なコメントもせめて前向きにいたいものです
「糞ゲー」と一言で片付けるのではなく、何がどうダメだったのか。それを伝えるのが、プレイヤーの責務ですね


・総評
「ファタモルガーナの館」のキャラを使った表現した、作り手の矜持ということ
作り手の苦しみということ、作り手の熱意ということ
同人製作者とプレイヤー、双方の根本を見つめなおしてくれるフリーゲーム
プレイする前には、ぜひとも「ファタモルガーナの館」からのプレイをお勧めします


・一言感想羅列
①タゲられやすい性質をもつメルくん
②これは酷いマリーア詐欺ですね。「イメオンって誰?」という人は、設定資料集を買いましょう
③EDムービーでジゼルの出展が「FANDISC(仮)」になっている。本編があれだけ完結しているのにFANDISC出せるのだろうか
④君もフェアリーハウスで御使いさんとチュッチュしよう!
⑤セブンスコートを彷徨った彼らに、祝福あれ