データ数24ながら、中央値92平均値90という圧倒的数字を叩き出した本作の魅力はどこか。それは、従来のPCゲームにない、ある種の演劇とも言える手法で表現したことであろう。オリジナルの65曲の中世的で欧州的なBGMが場面ごとに人々を祝福し、悲しみを味あわせたりと多種多様にPC上で表現している。キャラクターも話者でない場合に立ち絵が薄暗くなり、話者になると明るく表示させる演出は、まるで舞台の上で役者たちが切り替わるスポットライトの下で熱演しているかのようである。絵も題材に合わせて徹底していて、お手軽であるアニメ等にお株を奪われ、衰退の一途をたどるエロゲー界とは一線を画しており、没個性とも言える萌え絵から見事に脱却している。肝心の内容も隙がない展開でプレイヤーを魅了している。本作は2012年を代表する同人ゲーの1つであることは、疑いようがないだろう。
――――さようなら。
あなたの魂と、もう巡り合うこともないでしょう
・ストーリー
「あなた」は気付けば古ぼけた暖炉の前にいた
そこは生命の彩りをまったく感じさせない、あまりにも空虚な屋敷の中だ
目の前には「あなた」を旦那様と慕う女中がいる
しかし「あなた」には記憶がなく、自分が何者なのか分からない。人間であるのかさえも。
記憶のない「あなた」に、女中は屋敷で起きた事件を見せると言った
そこに、「あなた」の痕跡があるかもしれない
「あなた」は女中に連れられて、時代と場所を越えた数々の悲劇を目撃する
そして、この館が根深い呪いにかかっていることを知る
なぜ館は呪われているのか
なぜ館は存在し続けるのか
なぜ「あなた」は館にいるのか
すべてを解き明かすために、「あなた」は女中の手を取る
これは、人の業と、絶望と、狂気の物語
「どんなことがあっても、わたくしの手を離さないで……」
プレイ時間は20時間くらい?攻略ルートはBADENDを踏みつつ一本道
かれこれ1ヶ月くらいちまちまプレイしていたので、正確なプレイ時間はわかりません。ごめんなさい
さて、この作品はエロゲー批評空間のみならずあちこちで絶賛された同人ゲームです
制作年月は4年とのこと。熱い思いがこもった作品なら良いなあと思ってプレイしました
まず目に付くのが、従来の同人PCゲーではあまり見かけないであろう絵
一言感想で偉そうなことを言っております私も、プレイした方に言われなければ全く触れる機会がなかったのは間違いありません
まるでどこぞの芸術家が描いたのような繊細で力強い造詣は、溢れているアニメ系の二次元絵とは全く方向性が異なります
これにより、従来のアニメ絵でやるような演出よりも迫力がグッと増しております
人物の質感ならびに存在感をこれほどまでに絵に表すとは。同じ質感で有名なelfとは違うベクトルで伝わりますね
そして、BGM
オリジナル65曲のBGMは、まさに欧州の舞台にふさわしくスッと耳に入ってきます
BGMと言いながら、バックコーラスが入っている曲が多数あり、BGMという3文字の言葉で表現するにはもったいない
陽気な場面はまるで花畑の上でダンスしているかのようで、悲しい曲はまるで暗い砦に幽閉されて悲しみに打ちひしがれているかのよう
……音楽的センス×の私が、このBGMの良さをどうにかして文章に表現したいと頑張った……んですが、無謀でした。とにかく聞いてください
一言感想でも記したのですが、私が特に本作でチェックした点は、話者の存在感です
すなわち、喋っているキャラクターは立ち絵が明るく表示され、喋っていないキャラクターは立ち絵に影がつく点です
もしかしたら過去にもこのような演出表現はあったかもしれませんが、滅多にないのではないでしょうか?
よりインパクトとして私の記憶に残ったのは、本作が演劇に似ていると気づいたからでしょうか
私の目には、キャラクターと言う役者がスポットライトの下で熱演をしているようにしか見えませんでした
これはつまり、まさにキャラクターが"生きている"証なのではないでしょうか
「ファタモルガーナの館」というタイトルも良いですね
Fata Morganaは、モルガナのお化けと言う意味。御伽噺の魔法の城のことを指すようでイタリア地域で使われております
魔女の館は魔法のお城、プレーしていてあなたも館に魅了されること間違いなしです
さて、本作の中身を見ていきましょう。…といっても、もう既にimotaさんを初めに皆様が書き綴っておりますので、今更感はありますが
1~3章は、別の時間軸で行われた物語です。全てがバッドエンドで終わるのは、魔女モルガーナの呪いのせい
モルガーナを呼び起こすほどの深い絶望を抱いたミシェルは殺されたものの、残されたジゼルの思いが彼を徐々に再生させた
魔女と同等(というより概念か?)になったジゼルは数百年の時を、ただひたすら待ち続けた
そして互いに心が通じたとき、最後の物語を紡ぎだす
モルガーナの物語が紡がれ、ミシェルもまた救済されて、彼らは輪廻の果てで再会する
……できる限りわかりやすく要約したファタモルガーナの館のあらすじでした
さて、結構過剰ともいえる表現で本作を激賞した訳ですが、その割には点数が80点。これはなぜか?
1つは値段です。パッケージ版+設定本で3000円オーバー。少々お高めです
序盤の導入部分の展開が割りと読めるため、導入部分で一歩引いてしまうともったいなく感じてしまうかも
ただ、欠点は本当にこれくらいしかなく、同人ゲーのなかでも非常に優れた記憶に残る作品です。オススメ!
・総評
2012年を代表する同人ゲーとして紹介してもなんら反論はないと思います
丁寧な絵、快いBGM、粋な演出と表現力の幅が違います
今後、ファタモルガーナの館のような演出力で勝負する作品が増えることを祈ってます
・一言感想の羅列
①最萌キャラはヤコポって人が多いと思います。かくいう私も
②物語の途中でジゼルと一緒にミシェルをイジるゲームになります
③貼った伏線の回収率が物凄い。これはよく管理したと思います
④4年と言う月日を経て現れた大作。よくぞここまで作り上げた、その精神力にビックリです
⑤こういう作品をプレイしてしまうと、次にやる作品の選別に困るんですよ。バイアスがかかってしまって…
⑥好きな場面は「………ないしょ………。」。既プレイ者ならどの場面かすぐわかりますよね?