催眠学園も操心術シリーズもやってない奴が言うのもおこがましいが、本作は催眠ゲーの最高峰。心と体を思い通りに操る他作品とは全く異なり、「催眠術は、被験者の嫌いなことは作用しない。相手の心を段階的に開かせることで始めて成り立つものである」と、術者・被験者の信頼関係を重点を置く、極めて現実寄りの思考に基づいた作品。その方向性の描写は見事なものであり、徐々に相手の心の壁を薄く削っていく過程が極めて秀逸である。かつ、抜きゲーとは思えないほどキャラが映えており、私の苦手な内輪ギャグ等がないにも関わらず、キャラのやり取りが面白い(特に蛍火グループの会話は全く飽きない)。どの要素をとっても非常に隙がない、優等生な良作……どまりではなく、さらに本作のシナリオ展開の裏にある、1つの隠されたメッセージ性には、ぜひ着目したいところ
「遊ぶにはいいけど、彼氏ってなると……考えさせてほしいかな、って感じ」
・ストーリー
「お前のマジック、見飽きたんだけど」
クラスメイトにそう言われてしまった主人公・浦河柳は焦った
背は低く 顔は冴えなく 運動も勉強も見事に平均やや下の彼が、唯一みんなを楽しませることができるネタ、それが得意のコインマジックだったのに
そして柳は心を決める。 みんなを楽しませるために、新たな技を身につけなければならない
それが“催眠術”
練習相手のヒロインたちは、柳なんかの相手をしてくれそうになく、催眠術なんて怪しげなものに関わりそうもない相手
でもだからこそ、ステージに共に立ってくれる相手としてふさわしい!
柳は彼女たちに、練習相手になってくれるように口説く。 そして、了承してくれた彼女たちを、催眠状態へと誘導していく
――最初のうちは、クリスマス会に向けた練習だけのつもりだった。しかし、段階を踏むうちに…
相手の心を手に入れる―― そういうマジックがあってもいいんじゃないか?
プレイ時間は12時間、攻略ルートは鵡川先生→舞夜→蛍火→オマケ
プレイの最中から、直感的に「この作品には80点以上の点数を付けるんだろう」と感じていました
凄い作品と出会った場合と、本当の糞ゲーと出会った場合は、私の直感は必ず当たります。自慢でも何でもない能力です
この作品の魅力を語るには、まず他作品との比較要素を書く必要があるでしょう
本作の魅力は、主人公はあくまでマジシャンとして、純粋に催眠術を披露したいと思っているところです
もちろん、後半につれてだんだんと下種になっていくわけですが、導入はピュアそのもの
4人の姉貴の騒動に揉まれて来た過去から、コインマジックに傾倒していった主人公
その主人公が、自分のマジックがつまらないと評価を受けることは、自分自身の否定につながってしまいます
一生懸命に練習して、催眠術を習得し、みんなをクリスマスパーティ-で驚かせたい
この思いこそが、主人公が催眠術に励む最大の理由です
他作品の主人公のように、「催眠術で他人の心を操ってウハウハだー!」とはならない訳です
そもそも、催眠術というは万能ではありません
相手の心の領域を、徐々に広げていかなければ催眠術は失敗してしまいます
そのため、本作も催眠術の段階を踏みながら、徐々にヒロインたちの心のパーソナルスペースに進入していきます
運動支配→感情支配→記憶支配→幻覚支配と催眠術を広げていき、後催眠にも成功させていきます
主人公の催眠術で心地よい気分になっていくヒロインたちは、だんだんと催眠術の意識が変化していきます
催眠術→胡散臭いもの、から、催眠術→アロマセラピーやエステ感覚へとなり、催眠術への防御壁がなおいっそう低下
これは、主人公がヒロインたちのエロい誘惑にも必死に負けず、ヒロインらの信頼を勝ち取った証です
(その証拠に、途中でヒロインを襲う選択肢はすべてBADENDへと転落することになる)
その結果、どうなるのでしょうか?
プレイヤーによっては、本番への手順が遅いという不満があるかもしれません
しかし、それは全くといっていいほど的外れであり、少なくとも本作の趣旨からは合致していません
逆に、ヒロインたちが徐々に心を開いていくにつれて、淫猥な仕掛けを施していく様は、ある種の背徳感に苛まれす
歴戦のプレイヤーだったとしても、ヒロインが下着を見せてくれただけでも興奮を掻き立てたれるほどであり、プレイヤーは本作の『催眠術』に見事に嵌っていると言えるでしょう
(下手したら、ベッドシーンよりも数段エロいという意見があっても全くおかしくありません)
そのエロさを醸し出すヒロインたちは、3名とも非常に魅力的です
ハッキリ言いまして、下手な萌えゲーよりはこちらのキャラクターを選択するでしょう
ヒロインたちのみながみな、仲が良いとは言えない点も、学校という閉鎖的な空間で起こりうる現実主義を貫いております
美人ゆえの妬みを周りから感じるため、クールキャラをやらざるを得ない鵡川先生の愚痴爆発の場面等、ヒロインの魅力への肉付けが上手いですね
また、舞夜は眼鏡キャラですが、眼鏡をオフすることもできる機能もある親切設計
蛍火がコロコロと表情を変えながら、他3名女生徒とつるむ場面は、プレイヤーたちを楽しませます
そんな本作の裏メッセージ性、それは「催眠術がなければ、主人公と付き合うという思想は全くない」という点です
鵡川先生は年上好き、舞夜は自分とつりあう人間、蛍火は180cm以上の身長の持ち主
話上手でマジシャンで平凡で平均な主人公は、あくまで「一緒に楽しませてはくれるけど、彼氏以上にはなれない」存在なのです
この長文感想の先頭の蛍火のセリフが、氷の刃のように心に突き刺さりますね
ENDでは主人公が催眠術を用いてヒロインの心と記憶を改竄して付き合うENDですが、あからさまなBADENDですよね、これ
悲しくてつらーい現実をプレイヤーに突きつけてくれたなぁと感じるのは私だけですか?(主人公に感情移入しちゃいましたよ、ホント)
・総評
キャラ良し、(エロの前段階を含めて)エロ良し、演技良しと隙のない良作
それでいて、独自のテーマ性も内包しているとあれば、この高得点も納得のできばえでしょう
催眠術というバイアスがあるだけで、立ち絵でエロい、文章でエロい。催眠術のやり取りのBGMは、すでにプレイヤーが暗示をかけられるほど
しいて欠点を言えば、キャラENDに多様さがない、蛍火グループ3人の本格的なエロがないといった点しか見当たりません
・一言感想の羅列
①画面をクリックすると拡大する機能、解像度設定機能、ウインドウ伸縮機能といった丁寧なシステム回りも評価
②ヒロインを堕とす段階が、寝取られゲームに通じるものがありますね
③幼児退行、感情の起伏といった緩急を付けた催眠術のテクニックもまたいいですね
④主人公とそっくりの姉4人が、いっせいに家に押し寄せる場面を想像して笑いました
⑤どのキャラもいいけど、一番は蛍火かな?ヘロヘロになる場面や「む川先生」の場面は、彼女の魅力を最高に引き出していたと思いますよ