ErogameScape -エロゲー批評空間-

G-hunterさんのキナナキノ森の長文感想

ユーザー
G-hunter
ゲーム
キナナキノ森
ブランド
禁飼育
得点
80
参照数
2008

一言コメント

さくっとパンダで魅せた才能、劣化せず。絵そのものが上手くなり、さらに使いどころが絶妙なため、プレイヤーを飽きさせません。テーマは「夢」。25歳以上にやってもらいたいとのことでしたが……なるほど確かに。社会不適合者たちが集まるキナナキノ森では一体どのような物語が描かれるのでしょうか。夢、大切にしてますか?

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「負け犬の遠吠えですか?」
「…………そうじゃの……遠吠えじゃ。じゃが、勇ましい遠吠えじゃ」














・ストーリー
その森の奥には魔王の住む屋敷があるらしい……
主人公はそこで「お手伝い」として働く事になったが……
魔王の横暴な態度に苦労する毎日。それでも頑張る主人公。
だがしかし、一人の男にある言葉を告げられる
「このキナナキノ森から出て行け」と



攻略順は一本道。Start→Second→60Lの順番
「趣向 甘味:やや甘め 辛味:ちょっとマイルド 粘り気:オクラ 配慮:2割」
↑は製作者のこのゲームの評価です。確かにさくっとパンダよりはかなりマイルドですね

魔王様のお手伝いとして赴任した主人公・野山かぼを中心とした成長物語です
かぼの天然で人懐っこい人柄が、徐々にキナナキの森を変化させていく様子がよくわかります
それは魔王様も例外ではなく。主人公と魔王のやり取りだけでクスリときてしまいます
ここのサークルと私の相性、たぶん相当良いのではないかな?と思っています

Firstではその導入部。魔王様から散々こき使われている主人公の決心から始まって、事件が起きるまで
魔王様と主人公のコミュニケーション(?)が最大の見物。ホント面白い。捻くれた孫とガンコ爺ちゃんって感じ
いつの間にか魔王がツンデレしてたり、かぼが調子にのってからかって怒られて……
見ているこちらも微笑ましくなります。この日常があるからこそ、これからの展開が辛かったり
もちろん魔王だけでなく、個性的なキナナキノ森住民とのやり取りも見逃せません
そんな平穏だったキナナキノ森も、ある事件を発端としてとんでもないことになってしまいます

Secondはあるキャラの過去の話
Firstである程度こういうことがあったと知っていたので、プレイする時は展開が読めます
ああ、こいつらはどうせ死んでしまうな、と。それは想像していたよりもヒドいことになりましたが
相変わらず人の裏切りや嘲笑といったものを描くのが上手いです。このサークルは惹きつけて落とすプロ
そして元魔王様とのやり取りがあるのですが……。元魔王様、この子に恋してたでしょうか?
契約の欄には、契約者を好きにならないといけないと書かれていましたが、そこの描写は駆け足展開でした

60Lはいよいよラストです。60Lの由来はキーボードですね
魔王の暴走というのを上手く利用して、主人公・野山かぼの過去・内面を描きだしています
夢への憧れと努力、そして挫折。周囲への劣等感、世間への憎しみなど、様々な心情がうかがえます
周囲を見下して、しょうもない優越感に浸る……誰もが一度は経験したのではないでしょうか
野山かぼと自分がいつのまにか重なって見えてしまい、そしてまた悲しくなりました

そして仲間の助けもあって奮起した主人公と魔王の最後の対面
いかん、泣きそうになりました。CGの使い方、BGMの使い方が良く分かっています
魔王様のシワの目もと口もと。魔王様にしがみつくかぼ。……完璧で、非の打ちどころなし
ハッピーエンドだったのではないでしょうか


・絵&音楽など
絵は格段に上手くなっております。製作者の成長が垣間見えます
個人的に好きなのは主人公のウインドウの顔デザ。コロコロ変わって非常に愛着あります
この顔デザがあったからこそ、このゲームに引き込まれたのではないか。そう思っても不思議ではないほどの魔力
主人公らしからぬ顔デザを含めて、最高でした

BGMは落ち着きのある柔らかなBGMが豊富でした
人と隔離して静かなキナナキノ森を表しているかのようですね
壁画のようなOPムービーも趣がありますね。良く見るとネタばれ多いです



・総評
メッセージ性の強い作品だったのではないでしょうか。
このサークルは後付け設定が多いんですが、なぜか許せる数少ない作品です
夢のいうテーマでしたが、夢のことが語られるのは60Lからなので、夢を軸に語っているとは思えません
やはり軸というのは主人公・野山かぼそのものなのだと考えます
野山かぼを中心とした、夢うんぬんをひっくるめた成長物語。これが妥当かな
しっかりと歩き出した彼女らに、もうキナナキノ森は必要ないでしょう




・一言感想の羅列
①入院した後のアレクさんのひまわりの絵を見たかった
②イシマツさん、最後の最後でおいしいところを……。やはり麻呂(略
③ダイさんマジカッコイイと思った矢先にコレだよ!
④通行停止を軸に話を書いても面白そうです
⑤鮫夫の「Key作品は神だと思っている」という説明欄に笑った
⑥全てを見終わった後のタイトル画面は切なすぎる。タイトル画面の使い方が相変わらず上手い
⑦最高の主人公、野山かぼ(34歳)。彼女は未だに夢を追い続けている