不器用な心を肯定する王道の物語はやはりすばらしい。
何度でも言うが、梓乃√という奇蹟。症状だけをとり除くのではなく、原因となった自己と環境の関係改善に重きを置く――これは臨床心理の基本でもある――静かな再生の物語である。メランコリーの症状を呈する梓乃が、他者と関係するなかで次第に主体性を獲得し、新たな自己同一性を見出すまでのやさしい物語。慣習的な物語ながら、自律して生きる難しさを切実に語りかけてくる物語であった。