予想以上によくできた物語であり、魅力的な主題に溢れた名作である。
現在も根強い人気を誇る本作は、依代を主題にとった信仰についての物語であり、日本ではなじみ深いアニミズムをとり扱った作品であった。『神樹の館』でも展開された奥の文化だけでなく、いかにしてひとつの土地に神と信仰が根をはるのかは、『水月』を読むときれいに理解できてしまうと思う。『神樹の館』よりも、そういった民俗文化についての背景が深く詳述される物語であり、それらが那波の実存の問題に深く関わりをもつ点は圧巻である。